3月14日 ホワイトデーの倍返し
産業中央大学名古屋キャンパス、製菓研究会調理部長の小沢春樹は美術部のアトリエを訪れていた。
「佐渡山、お前がやった悪事は全てわかっている。潔く白状しろ」
「小沢部長、何のことかしら?」
佐渡山は白々しく長い黒髪をかき分けてそう言った。
「自白しないならこちらから説明してやろう。昨年の三月十四日、ホワイトデーの日にお前は美術部をはじめとする多くの男子からクッキーやチョコレートをもらった。そうだな?」
「ええ、そうですとも」
「そのクッキーの類を一年間保管、そして今年のバレンタインに、どうでもいい男子たちにそのままそれを渡した」
「だからどうしたと?」
開き直る佐渡山。全く動じる様子は見られない。
「そのことを知った男子たちがどれだけがショックを受けたか、お前にはわからないのかもな。お前がどうしてこんなことをしたのか、おおよその察しはついている。美術部の影山と何か関係があるんだよな?」
「な、なんですって……」
佐渡山は目を丸くして動揺した。看破されるとは予想だにしていなかったのだろう。
「影山にチョコレートを受け取ってもらえなかったんだよな? バレンタインデーにせっかく手作りのチョコレートを作ったけれど、影山はそれを一切受け取ろうとしなかった。そうだな?」
「……」
佐渡山は俯いたまま黙り込む。小沢はそのまま話を続ける。
「その腹いせに昨年のホワイトデーに男子たちからもらった消費しきれずに残ってしまったクッキーの類をそのままバレンタインデーの際に男子に渡した。……影山があの時、チョコレートを受け取ってくれなかったのか。その理由についてお前はわかるか? きっとわからないだろうな。愛が重すぎるんだよ。毎年、大量の髪の毛入りのチョコレートなんか受け取ったら、それは影山だって受け取りたくはないのも当然だ」
「……」
「これをみろ」
小沢は近くに置いてあった段ボール箱から大量のチョコレートを取り出した。
「これは?」
「ああ、これは男子たちからの、お前へのホワイトデーへのお返しさ。影山へ髪の毛入りのチョコレートを贈ったのは今となっては周知の事実だ。そんなキモイ女子からのもらい物なんて、みんな怖くて食べられるはずもない。だからお前がしたように男子たちも食べずに保管しておいた。お前が過去に渡してきたチョコレートは全てそのまま突き返す。やられたらやり返す。倍返しだ。いや、過去三年分だから三倍返しだ! 佐渡山!」
佐渡山は床へ手足をつき、うなだれる。その様子はまるで土下座でもしているようにも見えた。
***
翌日の午後、小沢春樹は製菓研究会本部に召集された。そして辞令を受ける。
「辞令。小沢春樹、来月より産業中央大学佐賀キャンパス製菓研究会人事部長に任命する」
「ええと、何かの間違いですよね。本部長? 僕は名古屋キャンパスの人間ですけれど」
「いいや。何も間違ってはいない。うちと美術部との関係も大事だ。ここはほとぼりが冷めるまで出向してもらう」
「なぬぅ」
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