3月8日 いいね!
世の中は「いいね!」であふれている。SNSでコメントを投稿する時はもちろん、街を歩く時も、学校に行くときも、休日遊びに行くときも、常に人々は「いいね!」を気にかける世界へと様変わりしていた。こんなふうになったのは、ある一つの企業が自由に「いいね!」をつけあえるアプリケーションを開発し、それが瞬く間に普及したからだ。このアプリの特徴としては気軽に「いいね!」をつけることができる点だ。
例えばお年寄りに席を譲っていた人に「いいね!」をする場合、腕に着用しているスマートウォッチの該当箇所を一回タップするだけで譲った人に「いいね!」を送ることができる。このようにして日々の生活で「いいね!」を互いにつけあえるシステムを構築したのが始まりだった。
当初はただ「いいね!」をつけあって終わりだったが、日ごろ貯めた「いいね!」を消費できるよう、アプリのアップデートが行われた。例えば喫茶店に対して「いいね!」をすると、自動的にこれまで貯めた「いいね!」が消費される。そして喫茶店からホットコーヒーを無料でサービスしてくれるという仕組みだ。結果として「いいね!」を使って様々なものが実質的に購入可能となったのだった。
人々は毎日、自分の「いいね!」数を気にしていた。かつて投資家が株価を気にしていたように、自分の「いいね!」数の推移を人々は気にかけないではいられずにいた。
政治家は「いいね!」がつかなくなることを恐れ、景気のいいことや無難なことしかやらなくなった。
お年寄りが電車に乗ってくると、こぞって席を譲りたがるようになった。
趣味がボランティア活動だと言い始める人々が急激に増えた。
なぜかゴミがいつもわき続ける奇妙な公園で、そのありかを全て把握しているかのようにてきぱきと毎日清掃活動をする不思議な人も発生した。
芸術家ですら「いいね!」を気にして万人受けする作品しかつくらなくなった。
世の中は「いいね!」であふれている。これが本当に「いいこと」なのか、人々にはわからない。
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