2月28日 エレベーター
エレベーターとは不思議な空間だ。些細なことでもおかしなことがあると自然と笑いが込み上げてきてしまう。例えば乗り合わせた向かいの女性が妙にゴリラに似ているように見えたり、おじさんの頭に乗っかっているかつらが少し浮いていたりと、吹き出しそうになるのをたびたび我慢することがある。きっとエレベーターという空間が特殊なものゆえかもしれない。乗っている時間はたいてい何をするわけでもなく、沈黙を保ちながらただ到着するのを待つのみだ。だからこそ普段なら気づかずに見過ごしてしまうだろうことに自然と注意が向いてしまうのだろう。
今日もまた私はエレベーターに乗っている。私の前にはスーツを着た女性がいるのが見えた。彼女はぶつぶつと何やら小声で言っていた。詳細な内容までは全く聞き取れない。
三階に到着。エレベーターのドアが開いた。乗っていた男性が出ていく。このフロアでは誰も乗ってこないようだ。しばらくすると勝手にエレベーターの扉は閉じた。すると、また例の女性は小声で何かを言っている。
「■■■■■■■の■■■■■べかた」
どうやらスマートフォンで何かを調べ物をしているようだ。状況からして音声入力を使って検索をしているようにみえる。エレベーターで音声入力とは……。私にはそのような度胸はないだろう。
「■■■■■■んのお■■■たべかた」
言葉尻が少し聞こえた。食べ方だろうか? だとすると何の?
聞き取れなかったのは私だけではなかったようだ。
『すみません。よく聞き取れませんでした』
スマートフォンのAIは端的に言った。
するとその女性は再度チャレンジする。
「ちき■■■■んのおい■いたべかた」
さらにもう一度。今度は先ほどよりも明瞭でボリュームも大きく、これは見事に聞き取ることができた。
「チキンラーメンのおいしい食べ方」
もう頼むから家に帰ってから調べてほしい。
笑いをこられるのはつらいものだ。
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