2月25日 死人に口あり
今日もデータセンターはフル稼働している。時代が進んだものだ。あらゆるものがデータ化され、人間の脳内の記憶情報もまたここに次々と保存されていく。つまり肉体の死が人間の死とならなくなった。データセンターに脳内の記憶情報がバックアップ保存されている限り、人間はメモリーの中で生き続けることができるわけだ。もちろんモニター越しとはなるが、会話することだってできる。
殺人事件で亡くなった被害者は、
「彼が犯人です。間違いありません」
と、裁判で証言をした。
またある時、とある上場企業の会長は、
「その意見に私は反対だ」
と、株式の議決権は放棄しているにもかかわらず経営に口出しをする。
そしてある時には、肉体が死んで政界を引退したはずの議員は、
「まさか君は私の考えに逆らうというわけではあるまいね」
と、圧力をかけた。
さらに、とある反社会的勢力の幹部は、
「肉体はなくなったが、私の野望はまだなくなってはおらん」
暗殺されても彼の計画は着々と進められる。
民間人であっても例外ではない。自身の葬儀を見た男は、
「菊の花が少なすぎる。なんでもっと盛大にやらないか」
と、葬儀に注文を付けてくることもある。
他にも、家事をする夫の姿を見た妻は、
「何回も言わせないで。そんなたたみ方したら、しわになるでしょ」
と、激怒した。
世の中はすっかり死人の声がいたるところで飛び交う世界となっている。
脳内の情報のバックアップなど、案外ない方が良かったのかもしれないと生身のある人間は必ず一度はそう思ったことだろう。しかし、死者に鞭打つことになるため、そのようなことはもちろん口が裂けても言えぬ。
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