9月16日 読書感想文
放課後、先生から職員室に来るように言われた。また、何か叱られるようなことをしてしまったのだろうか。ここ最近はわりとおとなしくしていたはずだったのだが?
「おお、来たか」
「何か悪いことでもしました?」
先生は高らかに笑う。
「違う。違う。むしろ逆だな。夏休みに書いた読書感想文、かなりよかったぞ。どうだ? 感想文のコンクールがあるんだが、ぜひお前の作品を出したいと思ってな」
「あ、はい。そうですか……」
あの感想文は夏休み最終日に宿題に追われながらなんとか書き上げたものだった。やっつけで終わらせた読書感想文をコンクールなんかに出されては困る。
「なんだ? 浮かない顔して」
「その……それはコンクールには出せるものではありません」
「いや良い出来だったと思うがな。原作の小説をぜひ読みたいと思わせるような感想文だった」
これまでないくらい先生はにこやかな表情を向けてきた。そんな顔をされたらますまず言い出しにくくなってしまう。けれど正直に話すしかない。
「その小説、ないんです」
先生はこの言葉の意味をまだ理解していないようだ。依然として笑顔で話す。
「そうなんだよ。先生もぜひ読みたいと思って、探してみたんだが見当たらないんだ。どこの本屋に行けば手に入るか詳しく教えてもらえないかと思ってな」
「……その小説は実在しないんです。僕がでっち上げた作品なんです。すみませんでした」
頭を深々と下げながら僕は謝った。そして恐る恐る顔を上げて先生の表情をうかがうと、意外にも驚いておらず、怒っている様子も見受けられなかった。
「そうか、やっぱりそうだったか」
「最初からわかってたんですか?」
「完全にわかっていたわけじゃない。単純に手に入りにくい本なのか、あるいは小説をでっち上げたかどちらかだと大体の目星はついていただけだ」
「すみませんでした」
再び謝罪する。先生はまた笑顔を浮かべて言う。
「何もそんなに謝る必要はない。手口に少し感心したんだよ。過去に読書感想文をネットで調べて書き写してくるような奴、去年の読書感想文と全く同じものを提出してくる奴みたいなのはいたけれど、存在しない小説で感想文を書いてきたのは君が初めてだ。それでいてその感想文も良くできている。せっかくだからコンクールに出してみないか?」
まさかの発言に僕は目を丸くするしかなかった。
「これを読書感想文のコンクールに出すっていうんですか?」
「いやさすがに読書感想文のコンクールには出せないだろうな。でも、小説のコンクールには出せる」
「小説のコンクール?」
「今月末に短編小説のコンクールがある。例の小説を執筆して応募してみたらどうだ?」
今までに小説を執筆した経験など全くといってなかった。そんなにも簡単に書けるものだろうか。
「どうでしょうね。小説は書いたことがないのでなんとも」
「じゃあ早速書いてみることだ。先生が読んで添削してあげる。そうだな。二週間後までに書いてこい。頼んだぞ」
そう言って先生は部活の様子を見に行くために、足早に職員室を出て行ってしまった。
読書感想文をしっかり書かなかった罰なのかもしれない。初めのうちはそう感じていたが、実際に小説を書いてみると筆が進んだ。自分の書きたい物語を書くことがこんなにも楽しいことだは思っていなかった。
そしてまさかこれがきっかけで自分が小説家になるとは思いもしない。