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7月16日 彗星

 夜、空を見上げてふと思う。

 そういえばハレー彗星は何年に見られるのだろう、と。

 自分がまだ小学生の時だっただろうか。当時、祖母からハレー彗星を見たという話を聞いた。興味を持った僕は学校の図書館で彗星について書かれている本を読んだ。本の情報によれば確か自分が老人になるくらいの年にハレー彗星を見られるということが書かれていたはずだ。あれから何十年か経過しているため、具体的な年数までは覚えてはいなかった。

 おもむろにスマートフォンを取り出し、『ハレー彗星 次回』で検索をかける。すると瞬時に結果が表示された。

 次回の接近は二〇六一年。

 つまり僕が六七歳の時にようやくハレー彗星が見られるというわけだ。随分と先の話だ。

 そして同時に前回接近した年も表示されていた。

 前回の接近は一九八六年。

 一九八六年? 思っていたよりも最近だと思った。最近といっても自分が生まれてすらいないのだが。

 祖母は小学生の頃にハレー彗星を見たと言っていた。この話が本当だとすれば一九八六年はつじつまが合わないことになる。小学生の僕がハレー彗星の話を聞いた時、祖母は六〇代後半だった。つまり一九八六年に祖母は五十代だ。祖母の話とハレー彗星の情報が合わない。記憶が正しければ夏に見たと話していたはずだが、一九八六年の冬に彗星が接近したとネットの情報には書かれている。もしや祖母が見たのは前々回の接近かと考え、さらに調べてみる。

 前々回の接近は一九一〇年。

 祖母が生まれる二〇年以上前だ。これでは前々回の接近を見ているはずがない。それに加えてこの年の接近は季節が春だった。どうもつじつまが合わない。

 祖母がハレー彗星を見たという話は何度か聞かされていた。夏祭りの花火を待っている時に決まってこの話をしていた記憶がある。楽しそうに何度も話していたことを考えると嘘をついていたというわけではなさそうだ。おそらく何か別の彗星と勘違いしている可能性が高い。

 ハレー彗星以外の彗星?

 自分の知りうる限り、ぱっと思い浮かぶものはなかった。

 もう一度整理して考えてみる。

 自分がハレー彗星について話を聞いた時、祖母は六〇代後半。

 祖母が小学生の頃、すなわち六歳から十二歳は一九四〇年前後と推測される。

 よって一九四〇年代に接近した彗星があるかどうか調べればいい。

 『一九四〇年代 彗星』と調べると、とある彗星がヒットした。

 ハーシェル・リゴレー彗星。前回の接近は一九三九年。

 彗星の名前は全く聞いたことすらなかった。前回接近した年もほぼ一致しているうえに接近した季節も夏であることから祖母の話と合致する。

 ハーシェル・リゴレー彗星。確かに名称を略すればハレー彗星と言えなくはないが、祖母は単純に勘違いしたのだろう。一九八六年のハレー彗星の接近の際、テレビなどで盛んに特集されていたらしい。それを見た祖母は小学生の頃に見た彗星と同じものだと単純に思ってしまったのではなかろうか。また、一九八六年のハレー彗星は観測に不向きな状況だったらしい。すくなくとも日本からではほとんど見ることができなかったという話だ。おそらく祖母も見ていないはずだ。海外まで星を見に行ったという類の話は聞いたことはなかった。小学生の頃に見た彗星の話を何度もしていたにもかかわらず、一九八六年のハレー彗星の話を一切しなかったのも腑に落ちる。

 ハーシェル・リゴレー彗星についてさらに調べていくと、少しばかりがっかりする情報に行き当たった。

 次回の接近は二〇九二年。

 それは自分が九十八歳になっているだろう年だった。

 祖母が見た夜空に浮かぶ光のほうきを見るまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。


お読みいただきありがとうございます。


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