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7月15日 ほうき星

 夜、空を見上げて思い出すことがある。かつて祖母がほうき星を見たと話していたことだ。夜空に光の尾をひきながら輝く、いわゆる彗星というやつだ。

 祖母がまだ幼かった頃、ほうき星を見るために夜に庭へと出た。しかし、肝心な部分に雲がかかっていて全く見えない。家から椅子を持ち出して雲が流れるのを待っていた。

 空を見上げたまま、ひたすらほうき星が見られるのを待つ。他にすることなく、夜に外で待ち続けるというのは思っていた以上に時間が長く感じるものだ。いくつか蚊に刺されもした。

 諦めかけて椅子を家に戻そうとした時だった。雲の切れ間からほうき星が見えた。その名の通り、ほうきの穂のような光の尾をまといながら輝いている。しばらくすると再び雲が覆いかぶさり、夜空に浮かぶ光のほうきは見えなくなった。見られたのは一瞬だったが、この神秘的な光景に目を奪われた。

 という話を祖母から何度か聞かされた。初めてその話を聞いたのは小学生くらいだったはずだ。学校の図書館に彗星について書かれていた本を見つけた。いつ見られるのか調べたところ、次回は約五十年後ということだった。

 図書館で借りてきた本を見ながら、祖母にこう訊ねた覚えがある。

「次、おばあちゃんも見られるかな」

「そのころには、とっくに亡くなってるよ」

 よく考えてみれば確かにそうだ。半世紀も先なのだから、次回のほうき星が見られる頃には祖母は百歳をとっくに超えている。そもそも小学生の自分でようやくぎりぎり見られるくらい先の話だ。

 それから十年も経たずに祖母は亡くなった。言っていた通り二回目のほうき星を見ることなく。

 そんなことを思い出しながら夜空を見上げた。私があの星を見る時にはすっかりおじいさんになっていることだろう。ほうき星が見られる頃には世界はどんな風に変わっているだろうか。

 夜空に浮かぶ光のほうきを見るまでどう過ごすか考えものだ。


お読みいただきありがとうございます。


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