6月29日 視力検査
「じゃあこれは見えますか?」
医者の男は指示棒を持ち、視力検査のランドルト環を指してそう言った。
「うーんと……すみません。ヒントもらってもいいですか?」
「視力検査でヒント? うーん仕方ないですねえ。わかりました。アルファベットのとある文字にも見えなくもないといいますか」
「右です右!」
視力検査を受けている女性ははしゃぐようにすかさず言った。
「お次はこれ。どうです?」
「うーん……」
首を傾げる彼女。それを見かねた医者ば思わずヒントを出す。
「名古屋の地下鉄の」
「ああ、わかった。下だ」
「正解。次は書かれている文字を読んでください。では……これは読めますか?」
「あ」
「じゃあこれは?」
「い」
「これはどう?」
「し」
「これは読める?」
「て」
「これは?」
「る。いやーん、先生。『あいしてる』なんて恥ずかしいこと、言わせないでくださいよお」
「いやあ、たまたまさ。それに『愛してる』なんて言葉は僕の方がいつも言ってるじゃないか」
「もーう先生ったらあ」
「まぁーた先生、医療事務の愛人といちゃついてるよ。やれやれ」
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