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6月12日 摩訶不思議な料理店Ep.3

 おかあさんはどこにいったんだろう。あたしは歩いてさがしたけれど、おかあさんは見つからないの。まったくもー、おかあさんたらまいごになっちゃって。

「あーあ、つかれたー」

 あたしが、こんなことを言ったところでだれも――おんぶ、だっこをしてはくれないの。だって、ここには人がぜんぜんいないから。

「わーあ、いいにおい!」

 いいにおいがやってきたの。このにおいはぜったい食べもののにおい。

 ずっと歩いていたからおなかがなったの。えへへ。

 あたしはついついにおいをたどってしまったの。だっておいしいそうなにおいがするんだもん。

 たどりついた先はとてもきたないお店だったの。ガラスのむこうに見える食べられない料理には、ほこりがのっているし。お店の前のケースに入ってる料理はほんものそっくりだけど、食べられないんだよって、おかあさんが言っていたから知ってるの。

 あっ、カエルさんだ! 食べられないすぶたのとなりにはカエルさんのぬいぐるみがおいてあったの。かわいいね。

 このお店は開いてないのかな、と思ったけど、いいにおいは中からするし、中は明るいし、たぶん開いていると思うの。

 あたしはドアを少しだけ開けて中をこっそりのぞいてみたの。

「だれもいないのかな……」

 外からお店の中を見たけどだれも見あたらないの。だからお店の人はいないのかと思ったけど、おくには人がいて目があったの。そしてあたしに声をかけてきたの。

「おじょうちゃん。うちの店になんかようかい?」

 あたしはびっくりしたの。だって、はちまきをしたこわいかおをしたおじちゃんが出てきたんだもん。

 こわいよお。

 あたしはおなかが空いていたけれど、お金を持っていないの。

「ううん」

 と、あたしは首をよこにふったの。

 おじちゃんは少しだけ空いているドアを目いっぱい開けて、しゃがんで話しかけてくるの。

 こわいよお。

「おじょうちゃんは、ひとりなのかい?」

「うん。おかあさんがまいごになっちゃったみたいなの」

 あたしはなみだ目でそう答えたの。なかないようにしたの。前におかあさんから、女の子はないちゃいけないのよ、と言われたことがあったから。

 そういえば、そのとき――あたしが「それっておとこのこだけじゃないの」って言いかえしたら、おかあさんは「だんじょきゃべつをなくすようになってきているのよ」って言っていたの。だんじょきゃべつって何なのかな。おやさいのことなのかな? 

 こんなことをかんがえていたら、おじちゃんはこんなことを言ったの。

「おなかすいただろ? 何か食べてくかい?」

「あたし……お金もってないの」

「ただで食べさせてあげるから気にしなくていい」

「だだ?」

「ただ。お金はいらない。おじょうちゃん、そこのいすにすわってまってな」

「うん」

 こわいおじちゃんはいいおじちゃんだったみたい。

 あたしは言われたとおりにいすにすわろうとするけれど、おとなのいすだからうまくすわれないの。するとおじちゃんがあたしをだっこしていすにのせてくれたの。

「ありがとう。おじちゃん!」

「……」

 おじちゃんはなにも言わないけれど、きこえたのかな? 

 あたしがしばらくまっていると、いいにおいがどんどんしてきた! どんなにおいかというと、どんなにおいかなあ。ふしぎなにおい。

 あたしの前に料理が出てきたの。

「スープだ!」

 そのスープはわかめとたまごの入ったスープで、おいしそうなにおいがするし、見た目もおいしそうなの。

 でも、あたしはこれを食べることはできないの。

「食べないのか?」

「あたし……たまごあれぎるーなの……」

 あたしはおかあさんから言われていたの。たまごあれぎるーだからたまごは食べてはいけないって。

「たまごあれぎるー……か」

 おじちゃんはわらっているような気がしたの。どうしてなのかな。

「どうかしたの? おじちゃん」

「いや、なんでもない。そうか、たまごあれぎるーなのか。でも、今日はとくべつだ。おじょうちゃん、食べてもいいよ」

「そうなの?」

「ああ」

 あたしはたまごを食べるのははじめてなの。たぶん一回は食べたのかもしれないけれど、もうおぼえてないからはじめてといってもいいよね。

 ゆっくりとスプーンを口へ入れたの。はじめて食べたたまごはふわふわしていた!

「おいしい!」

「そうか……なら良かった」

 あたしはぜんぶ食べおわって、

「ごちそーさまでした!」

 と、大きな声でていねいにくぎって言ったの。

 するといきなり入り口のドアが開いたの。お客さんかな? 

「あら! どうしてこんなところにいるの!」

 その声は聞いたことのある声だったの。そう、あたしのおかあさんだったの。

「おかあさん!」

「しんぱいしたのよ。かってにどこかへ行ってはいけないじゃない」

「ごめんなさい……」

 あたしは下を見てごめんなさいしたの。

 それにしてもよかった! おかあさんが見つかって。

 そのあとあたしとおかあさんは、そこでごはんを食べることにしたの。おいしくてそして楽しいごはんだったよ。

 お店をでるときにおかあさんはおじちゃんにこんなことを言っていたの。

「ごめんなさいねー。うちの子がおせわになったそうで。ごめいわくをおかけしました」

 あれれ、どうしてごめんなさいって言ってるんだろう? ありがとうじゃないの? 

 あたしもおれいを言わなくちゃね。

「おじちゃん、ありがとう! たまごのスープおいしかったよ」

 おかあさんはびっくりして言ったの。

「え? なにを言っているの? たまごのわけがないじゃない。もしそうだったらたまごアレルギーなんだから、食べたら今ごろはこきゅうこんなんをおこしているはずよ。だからそんなわけないじゃない」

「うーん。そうなの?」

 おかあさんの言っていることはあたしにはむずしかったからよくわかんないや。

 じゃあ、さっき食べたスープはなんだったんだろうね。たまごだったような気がするけれど。まあ、いっか。おいしかったし。

「さあ、そろそろ行くわよ」

 おかあさんがそう言ったから、あたしはおじちゃんにさよならをしたの。

「おじちゃん、ばいばいー」

 そう言いながら、あたしは手をふったの。

 でも、おじちゃんはかえしてくれないの。どうしてかな。

 そのときのおじちゃんのかおはあまりかわらなかったけれど、すこし目がわらっているように見えたのは、うそなのかなあ。


お読みいただきありがとうございます。


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