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6月9日 THE FIRST WRITE ~摩訶不思議な料理店Ep.1~

 白いルーズリーフに置かれた、一本のシャープペンシル。

 ここでのルールはただ一つ。

 一筆限りのパフォーマンスをすること。

 (笑)



 というわけで私、西表山猫がおよそ十年前(当時高校生)に書いた、推敲なんてほとんどせずに書き上げた小説をここで披露したいと思います。


 私の腕時計は午後十時十八分を指していた。仕事からやっと解放された私は勤めているオフィスから出て、歩き出した。

 私はとてつもなくおなかがすいていたのだった。なぜなら、まだ夕食と呼べる代物を食べていなかったからだ。そのため、今から夕食を食べようと思い、何か良い店はないか探しているわけだ。この時間だと夕食というより夜食の方が正しいかもしれない。私はビールやワイン、日本酒といった類は一切飲めないため、居酒屋にはいかないつもりだ。

 大きな通りを歩いていくと、いい臭いがした。食べ物の匂いだ。しかもおいしそうな臭いでなぜか懐かしさを感じたのだった。私はその匂いにつられて、細い路地を曲がった。その匂いを頼りに歩いていくと、ある一軒の店にたどり着いた。その店は外観ではとても入る気がしない料理店だった。というのも、食品サンプルにはほこりがたかっているうえに店の看板は傾いており、その看板の周りにある電飾は割れてしまって光ってはいなかったからだ。私はおなかがあまりにも減っていたため、この店に入ることにした。

 中に入ると、店主らしき人がいた。なぜその人が店主だと思ったかというと、店員はほかにはおらず、それに加えてお客もいなかったからだ。また、その人の顔はいかにも頑固おやじというような顔だった。私はこの人をこの店の店主だと勝手にみなした。おそらく間違いではないだろう。

 私はカウンター席に座ると注文をしようと思った。しかし、おしながきらしきものは見当たらなかった。そして料理名が書いてある札すら見当たらなかったのだった。

「あの……このお店では何の料理が食べられますか」

 少し間をおいて店主は言った。

「うちは〝おまかせ〟しかやってはおらん」

 店主の声はイメージの通り低い声で大工の棟梁といった声で顔ととても合致しているように思った。

「おまかせ……」

 おまかせとはいったいどういう料理が出てくるのだろうか。まあ、とりあえず何でもいいからこの空腹を満たしたかったため、その〝おまかせ〟とやらを頼んでみようと思った。

「じゃあ、その〝おまかせ〟をください」

「あいよ。ちぃっと待ってな」

 そのように店主が言うと、店の奥へ入っていった。私は料理を待つ間、店内を見回した。店内には鯛の魚拓や王将の大きな将棋の駒、おかしな顔のこけしなどがあり、奇妙な雰囲気がした。店の雰囲気からは何の料理の店なのか見当がつかなかった。日本食なのか中華なのかイタリアンなのかさっぱりだった。私はそれから数分店内を見回しながら、料理を待ったのだった。

 そして、ようやく料理が出てきたのだった。出てきたのは、酢豚だった。そして、その酢豚をゆっくりと口へと運ばせた。

「ん!」

 私は思わず声を出してしまった。というのも、尾の味はまさしく昔、私が食べたことのある味だったからだ。その味は子供のころ母が私に作ってくれた酢豚の味にそっくりだったのだ。いや、そっくりというのは正しい表現ではない。母の酢豚そのものという方が正しいと思った。それくらい私はこの酢豚に驚かされた。料理に驚かせられることは私の経験上、そう多くはない。

「こ、この酢豚、とてもおいしいです。昔、食べたものと全く同じ味がします」

 するとと、店主は顔色一つ変えず、このように言った。

「うちはその日のお客にあったメニューを出している」

「すごいですね。しっかりとあなたが料理を選んで出されているんですね」

「いや、俺は選んじゃあいないよ。料理があんたを選んでいるんだ」

 料理が私を選んでいる? よく意味が分からない。それがどういう意味か分からなくても良いような気がしたため、私は店主にその言葉について訊くのをやめた。そして、私は勘定を終えると店を後にした。

 私はそれからしばらくの間、〝料理店〟には行かなかった。正しくはいけなかったというべきかも知れない。どうしてかといえば、仕事が今まで以上に忙しくなり、仕事後に料理店に立ち寄るほどの元気がなかったからだ。ちなみに私の中で〝店〟ではなく〝料理店〟へと変わったのは、〝店〟よりも〝料理店〟の方がおいしいものが出てくるように感じたからだ。おそらく、このように考えるのは私だけじゃないかと思う。でも、おいしい料理が出てくるというのは本当のことなのだから私の変な価値観には気にしないでおこう。

 二回目にその料理店を訪ねたのは休日の日のことだ。特にすることもなく、暇を持て余していると、ふと良いことを思いついたのだった。あの店に行ってみてはどうだろうかと思った。またあの懐かしい味の酢豚が食べたいと思い、心をはずませながら店へと向かった。

 店に入るとおかしな顔のこけしがお出迎え。相変わらず、奇妙な雰囲気が漂っていた。

 前回同様、〝おまかせ〟を頼んだのだった。今度は何が出てくるのだろうか。酢豚も食べてみたいが、おいしい親子丼、チャーハン、肉じゃがなんかも食べてみたい。前回の酢豚が気に入っていたこともあり、私は胸を期待で膨らませていた。

 そして、出てきたのはグリンピースご飯だった。グリンピースご飯は私の一番嫌いな食べ物と言っても過言ではない。昔、学校の給食で出されて給食の時間が終わっても昼休みまで食べ続けたのを今も覚えている。そのような嫌いな食べ物を出された私は店主の顔を睨んでやろうと思い、彼を見た。すると、彼はこんなことを言ったのだった。

「あんた、変な食慾をわかすんじゃあないよ」

 店主の言葉の意味をすぐには理解できなかった。一体、店主の言う〝変な食欲〟とは何だろうか。そのようなことを考えていると、ある言葉を思い出した。

〝いや、俺は選んじゃあいないよ。料理があんたを選んでいるんだ〟

 この言葉は以前、店主が私に言った言葉だ。この言葉もまた、理解ができなかったのを覚えている。この二つの言葉を対比して考えると、店主の言葉の意味がようやく分かったのだった。まず、店主の言った〝料理があんたを選んでいるんだ〟はどういう意味なのかと言えば、おそらく、言葉の通り料理が私を選んでいるということだと思う。次に〝変な食欲はわかすんじゃあないよ〟は変な食欲――食に対する願望(あれを食べたい、これを食べてみたいというようなもの)をわかすなという意味だ。つまり、私が料理を選ぶなということなのだ。この料理店ではお客が料理を選んではいけない。なぜなら、料理がお客を選ぶのだから。

 前回、私がこの料理店に訪れたときは何でもいいから空腹を満たそうとこの料理店に入った。しかし、今回、私はこの料理店でおいしい酢豚や親子丼などが食べられるものだと思って期待していた。そもそもそれが間違いだったのだ。料理が私を選ぶのであって、私が自身の食べる料理を選んではいけなかったのだ。もしそんなことをしたのならば、この料理店の鉄則に反するため、当然のごとく罰をうけるのだ。例えば、私のようにグリンピースご飯を出されるというような。確かに、私は自身で料理を選んでしまったのだから料理から仕打ちを受けるのも無理もないだろう。このようなことはもう二度としないと心に決めたのと同時に反省もした。そして、私はグリンピースご飯をスプーンですくうと口へ運ばせた。

 どうやら料理は私を許してくれたようだ。


 いかがだったでしょうか?

 自身で読み返して思ったのですが、少々気になったところが結構あります。

 ダブルクォーテーションの使用、「○○なのだ」という文末、接続詞の直後の読点は、もう今ではほとんど用いることはなくなってしまいました。


 さて明日はTHE LAST WRITEと題しまして、十年前に書いた本作を今、もう一度執筆しなおしたらどうなるか。そんな企画作品を投稿しようと思いますので、また次のお話もお楽しみに!


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