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6月8日 めっちゃしゃべる

 北本凍谷きたもととうこくは太刀を構え、相手の動きを注視する。敵の持つカエデを模した炎の扇は、風が吹きつける度に先端部がゆらゆらと揺れる。

「ひるんだか?」

 ホノオカエデは意地悪そうに凍谷を見る。

「ひるんじゃいないよ。少し頃合いを待っているだけさ」

「ちんたらしてるとさらに増えてますます手をつけられなくなるだけだがな」

 ひと際強い風が吹き付け、凍谷の白い衣と青の袴は音を立ててなびく。はじめ数体しかいなかったホノオカエデの核は強風の影響で力を得て増殖していく。赤い顔で長い鼻を持つホノオカエデの集団に対して凍谷をはじめとする討伐隊員は各々交戦して討伐していくが、あまりの増殖速度にとても追いつかない。

「この短時間でこの数か。ここにいる討伐隊を凌駕する数とは」

「風は我々を味方してくれるようだ。そろそろ決着をつけようじゃないか」

 にやりと笑みを浮かべるホノオカエデ。凍谷はこの状況をどうにかして打開できないか太刀を構えながら考える。何より厄介なのはホノオカエデの起こす炎が思いもよらぬ方へと向かってくることだ。

「うかつなことをして後方の街へ炎が燃え移ることだけは避けなければ……。住民は既に避難させているため最悪の事態は防げてはいるものの、酒蔵に火がつくことは回避せねばならない。神宮に御神酒を奉納するほどに、酒造りの盛んなこの街で大きな火災が発生したらどんなことになるか想像するのは容易い」

 すると扇からなびく炎の揺れがわずかに緩やかになった。凍谷はその一瞬を見逃さない。すぐさま刀を構えながら前進し、距離を詰めていく。

 ホノオカエデは後ろに飛び、間合いをとる。

「これでもくらって燃え尽きろ」

 扇を使って風と共に強烈な炎を凍谷へ向けて発した。

「風と炎の合わせ技か。これにもし当たったら火傷どころの騒ぎではない。炭になってしまう。奴の炎は厄介だな。一度火が付くと消すのは容易ではない。扇の炎を消すことができれば――」

「おい、お前さっきから。なんだかしゃべりすぎだ。自重しろ」

「うるさい。この状況を打開する方法はないだろうか。奴が風を使うならそれをなんとかして鎮める方法は――」

「しゃべりすぎなんだよ。心の中で言ってくれ。主人公の心情だだ漏れなんだよ」

「そうだ。何も風を鎮める必要なんかないんだ。こちらも利用してやればいい。ただそれだけだ。燃え尽きるのはホノオカエデお前の方だ」

「だからしゃべりすぎ……何? 私が燃え尽きるだと?」

 凍谷は炎に向かって刀を振りさばく。

風信帖ふうしんじょう!」

 凄まじい風がホノオカエデへと吹きつけた。凍谷の刃から発生した風と自然発生した風とが重なり合う。この合わせ技によってホノオカエデは力を増強するどころか……。

「扇の炎が消えた……だと」

 両手に持っていた扇は柄の部分だけを残し、後は消えてしまっていた。

「なあ知ってるか? 炎ってあまりに強すぎる風を受けると消えてしまうってこと」

「な……」

 口を開くや否や凍谷の刀はホノオカエデの胴体を打ち抜いていた。すると先ほどまで天狗のような実体をしていた核はみるみるうちに崩壊し、赤いカエデの葉がその場に一枚残る。

 同じ要領で次々と他のホノオカエデの核を切り刻んでいく。

 凍谷は他の討伐隊員に指示を出す。

「風を起こして相手の力を弱めろ」

 これを聞いた隊員たちは袖から御朱印帳を取り出し、呪文を唱える。するとたちまち強風が発生し、凍谷の時と同様に扇の炎が消えうせた。炎の出せない敵はとどめをさされるのを待つだけの状態だ。各々、刀を使って核を切り裂いていく。

 かくして討伐隊はホノオカエデを見事討伐したのだった。


お読みいただきありがとうございます。


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