6月7日 追悼式典
式典の会場には喪服を着た多くの人々が集っていた。
『黙とう』
サイレンが鳴り響く。人々は目を閉じて各々黙とうする。
現在行われている式典は令和大震災による死者を追悼するものだ。この時起きた地震によって多くの死者が出た。発生から三十年以上が経った現在もなおこの追悼式典は続けられている。
令和大震災追悼式典の帰り道、二人は迎えの車を待っていた。
「明日は何の追悼式典だった?」
と、男は女に聞く。
「七年前の北関東台風の追悼式典よ」
「明後日は?」
女は手帳をぱっと開いて確認して言う。
「ええと……十三年前の無差別通り魔殺人事件の追悼式典」
「その次の日は?」
「二十四年前の〇×線脱線事故の追悼式典、その翌日は五十三年前の甲信越豪雨の追悼式典」
二人はたまらず、ため息が漏れてしまう。気がつけばこの世界は毎日が追悼に満ち溢れていた。人類が歴史を刻み続けていくほど、その途中で悲惨な災害、事故、事件というものに当然のことながら直面する。そして死者を追悼するための式典がそのたびに行われる。どこかのタイミングで追悼式典を終わりにすればよいのだが、人々からの批判を恐れるあまりに、そんなことは到底できなかった。人々は追悼式典のやめ時を完全に失ったのだった。毎年、その日のその時間になると黙とうを行う。これが当たり前となってしまっている。
いっそのこと皆が記憶喪失となって過去のことを一切忘れ、頭がリセットされたとしたら、どんなに幸せか。そんなことを考えはしても当然そのようなことは起こらぬものだ。
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