6月2日 全国高等学校トータルボール選手権大会
「全国高等学校トータルボール選手権大会三日目第二試合。海嶺高校と、天柳館高校の試合を中継いたします。実況は引き続き私、松田浩平。解説は宇野澤剛さんでお送りいたします。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「宇野澤さん、昨年の決勝のカードがまさか一回戦目からの実現となりましたね」
「はい、私もこれを知った時かなり驚きました。まさか両校の試合がこんなにも早く見られるとは思ってもいませんでしたから」
実況と解説が談笑しているうちにキックオフの時間となり、主審はホイッスルを力強く鳴らした。
「始まりました。海嶺対天柳館、どんな試合になるのでしょうか。さて海嶺の山口はボールを磯山にパスしました」
主審のホイッスルが鳴り響く。そして人差し指で円を二つ描くジェスチャーを見せる。
「トラックアンドトラックです」と、実況。
「ええ、外野の佐々木君が、パスするよりも先に動き始めていましたからね」
「仕切り直しです。ペナルティーキックとなります。天柳館の玉川が蹴ります」
玉川はボールを力強く蹴る。すると円弧を描くように飛んでいく。
再び主審のホイッスルが鳴った。人差し指を上に二回突き上げるジェスチャー。
「ここはマウントフジの判定。再びセットプレーとなります」
「いやあ、ちょっとこれは力が入りすぎましたね」
海嶺の福田はゆっくりと地面にボールを置き、深呼吸してから蹴り上げる。
「ボールは麻生がキャッチ。鳩山、菅、そして野田にわたります。ゴールに目がけてシュート! ゴール!」
「いやあ、見事に決まりましたね」
「おっとこれはどうなんでしょう?」
ラインズマンを務める副審は斜め四十五度にフラッグをあげていた。それを見た主審はホイッスルを二回鳴らす。
「もしかしたらラウンドツーの反則があったのかもしれないですね」
と、解説の宇野澤は言った。
そして主審は両手を一度叩いてから三本の指を立てる。
「宇野澤さん、これはラウンドスリーでしょうか?」
「そうみたいですね。おそらく鳩山君にボールが渡った時だったと思いますが、天柳館の山崎君がパーマネントオフしていましたから、その時に野田君がオーバーマリッジしてしまったことによる反則かと思われますね」
「海嶺の麻生は主審に抗議しています」
主審は首を大きく左右に振って否定し、麻生に説明する。他の海嶺の選手たちも駆け寄ってくる。
「おっと海嶺のベンチで動きがあるようです」
「おそらく立川監督、米澤君を投入するんじゃないでしょうか?」
解説言った通り、ほどなくして球場内にウグイス嬢の声が響き渡る。
『海嶺高校、選手の追加投入をお知らせします。アドバイザー、米澤弘樹君。背番号二十三番』
米澤はピッチへと走って向かう。そして主審のもとへと到着して抗議し始めた。その間、実況席は米澤について紹介を始めた。
「海嶺高校の米澤は高校生にして司法試験予備試験に合格しています。地方大会でも数々の場面で審判の判定を覆してきた実績がありますが、今回はどうなるのでしょうか」
主審は米澤の意見に耳を傾け、頷くそぶりを見せた。
「おっとこれはVARの判定になりますか?」
主審は球場控室へと戻っていく。モニターを見て他の副審と共に閲覧し、審議し始めた。
「なかなか状況が込み入っていますからね。審判の中でも意見がわかれているのかもしれません」
と、解説。
すると主審はスマートフォンを取り出して何やら電話をかけ始めた。
「これはどういうことでしょうか。宇野澤さん?」
「おそらく上級審査委員会での判定になると思われますね」
「なるほど。現場の審判団での判定が困難ということでしょう。今日の主審は池田幸太郎さんです」
それから二時間ほど経過してから主審のスマートフォンに電話がかかってくる。ほどなくして審判たちは再びピッチのもとへと戻ってきた。主審はマイクを持って説明し始めた。
『大変お待たせいたしました。ただ今の判定、主審の池田から申し上げます。海嶺高校のブレードランナーにボールが渡った際、天柳館高校のシールドプロセッサーがパーマネントオフしていましたが、その時に海嶺高校のサイドエンゲージメンターはオーバーマリッジしていたものの、メルトダウンしていたため反則とはなりません。よって判定は海嶺高校のペナルティーはなし。主審による試合の中断もしていなかったために海嶺高校の得点となります。そして副審の高橋にはブラックカードの提示を行い、退場とします』
実況は頃合いをみて話し始めた。
「時刻は一時を回りましたが、予定しておりました『連続テレビ小説おれのむすこ』は教育テレビでお送りいたします。このチャンネルでは引き続き、全国高等学校トータルボール選手権大会の模様をお伝えします」
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