6月1日 もしもタラバガニが陸上で生活していたら
「キャーッ!」
突如として一階からかん高い声が聞こえてきた。俺は二階の掃除を中断し、何事かと急いで会談を駆け下りる。
「何があった?」
「あれよ」
妻はぶるぶると震えてながらも、キッチンの上の方にある戸棚を指さしていた。
「何?」
指し示す方を見ても何の変哲もない。鍋が置かれているだけではないか。
「ほら上の方、よく見てよ」
「上の方?」
「ああ、あれか」
左上の隅の方に隠れていたから気づくのがすっかり遅れてしまった。確かに妻の苦手なアレがいる。
「ズワイガニよ」
「いや、あれはタラバガニだ」
こんな冷静沈着なツッコミをしてもあまり意味はないけれど。
「そんなのどっちだっていいわよ。早くやっつけて」
「はいはい」
殺蟹剤を手に取り、ボタンを押して噴出する。タラバガニはそれから逃れるように素早く動き始めるも、薬剤が効き始めたのだろう。ほどなくして戸棚から逆さになって落下してきた。その姿を見て妻は大騒ぎ。
「うわー。気持ち悪っ。まだ生きてたりしないわよね」
「もう大丈夫だよ。全くカニくらいで大騒ぎで。家の掃除をきちんとしないから、こんなふうにカニがわいてくるんだ。これからはキッチンの掃除しっかりね」
「はーい」
そしてその日の晩のことだ。ベッドで寝ていると何やら近くからガサガサという物音が聞こえて目が覚める。泥棒かなんかが忍び入っているなんてことがあっては困る。早速確認しようと立ち上がったところで隣から悲鳴が聞こえた。
「キャーッ!」
「どうした!」
急いで電気を点けると、すぐそばで寝ていた妻の顔面にはカニが乗っかっているではないか。
「キャー! 助けて。あなた! タラバガニが顔に!」
「いや、それはタラバガニじゃなくてケガニだ」
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