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5月26日 エリーゼのために

5月25日の『アリスのために』を読んでから本作をお読みいただけるとより楽しめます。

 ひとつだけ、ピアノでひける曲がある。決して音楽が得意でない自分は、両手を使ってその曲を演奏することはできない。それでも鍵盤をたたき、自らメロディーをつくり出せるというのは、それだけで嬉しいものだった。どうしてひけるようになったのかといえば、それは高校時代にひとりの女子生徒に出会ったことに起因する。

 初めて彼女の姿を見たのは高校三年生の春ことだ。学年が上がってクラスのメンバーも変わり、昼休みの教室は賑わっていた。ある女子生徒たちは手の平よりも小さい弁当箱を広げ、部活の話題で花を咲かせている。ある男子生徒はゲームの話で盛り上がっている。自分のいる集団も取るに足らない話をしてはしゃいでいる。

 他人からすれば対面に座る友人の方を見ているようにみえるものの、自分の視線はそのむこうにある廊下の方へと向けていた。別段理由があってのことではない。友人たちのつまらない話を聞くのにも飽き飽きし、さりとて周囲の話に耳を傾ける気も起らなかっただけだった。

 そのまま廊下を眺めていると、ひとりの女子生徒の姿が教室の扉のすきまから見える。走る電車から外の景色を眺めるように、彼女の姿をただじっと見つめていた。黒髪をヘアゴムで留め、一つ結びにしている。ゆらゆらとそのまとめた髪を揺らしながら歩いて行く。そうしてしばらくして姿が見えなくなる寸前、彼女の歩く方向とは逆側から、ふたりの女子生徒の姿が見える。この女子たちは一年生の時に同じクラスだったため、見覚えはあった。そしてすれ違い際、突如として先ほどの一つ結びの女子はよろけ、壁に体を強く打ちつけた。コンクリート製の壁のため大きな音はせず、鈍い音がかすかに聞こえる。彼女とすれ違った女子生徒たちは、そのまま何もなかったように歩いて行った。


「そういえばうちのクラスに来た転校生がさあ」

 夕暮れ迫る帰り道、友人が話を切り出した。彼の所属する一組には高校三年の春という珍しい時期にもかかわらず、転校してきた生徒がいる。そのことは以前から耳にはしていたが、自分がその転校生についてわかることは性別くらいだった。

「転校生って女子の?」

「そうそう。それでその女子、かなり嫌われているらしい」

 この口ぶりからすると実際に見たわけではないようだ。嫌われているというと、昼休みの出来事が頭によぎる。もしかすると彼女がその転校生なのかもしれない。

「たぶんうちのクラス女子全員が、あの人のことを嫌ってると思う」

 別に全員にアンケートでもとったわけでもなかろうに、と思いながらも話の続きを聞くと、どうやら彼女の性格に問題があるらしい。

 転校生が来た日には、休み時間にその席の周りに人が集まるものだ。そして「どこから引っ越してきたの?」、「前の学校ってどんなところ?」、「部活何やってた?」など色々聞いてくることだろう。しかし彼女はその類の質問に一切答えることなく、「なんでそんなことをあなたに教えなきゃいけないの?」と喧嘩を売るような態度を取ったそうだ。数日たっても彼女は反抗的な態度を改めることはなかったという。

「なるほどそれで嫌われたってことか。男子からもやっぱり嫌われてるの?」

「うーんどうだろ。よくわからないっていうのが答えかな。たぶん好かれてはいないだろうけどね。髭生えてるらしいよ」

 そんなことは遠目からではわからなかった。そもそも意識して見るものでもない。とりあえず「そうなんだ」と答えておいた。この際、せっかくだからと昼休みのことを話そうと考える。

「その転校生、たぶん今日見たかもしれない。確か髪を一つ結びにしていたと思うんだけど合ってる?」

「うん、たぶん同じ人だと思う」

「昼休みに廊下でその人が突き飛ばされていたのを見たよ」

「え、誰に?」

「女子ふたりから。名前は忘れたけどさ」

「そうなんだ。それにしても女子の世界恐ろしい」

「実を言うと本当に突き飛ばしたかどうかはわからないけどね。教室から見ていただけだし」

「絶対に突き飛ばしてるってそれ。例えめまいを起こしたとしてもだよ、無視してそのまま歩いてかないし」

 それもそうだ。だとすると、やはりこれも悪意あってのことなのだろう。

「とにもかくにも、あの人にはあまり関わりたくないね。あの転校生、普段何を考えてんのか全く分からないし。絶対近寄らない方が良いよ」

「まあ、クラスも違うし、近寄らないよ」

 口ではそう答えたが、彼女のことが少し気になった。それは彼女の変わった性格に興味を持ったからなのかもしれないし、かわいそうな人に手を差し伸べたいと思ったからなのかもしれない。しかしどれも納得のいく理由ではないような気がした。いずれにせよ、彼女と関わりを持つことはないだろう。高校生活もあと一年、しかも隣のクラスの女子なのだ。


 まさかそれから十年後、彼女と結婚するなんてとんだどんでん返しだ。


 さて、いかがだったでしょうか?

 5月25日の『アリスのために』を本来の文章にすると本作『エリーゼのために』になります。

 それではここからは種明かしをいたしましょう。

 『エリーゼのために』をグーグル翻訳(中国語簡体)で翻訳し、さらにそれをグーグル翻訳にかけて日本語に戻すと『アリスのために』が出来上がるという仕組みとなっております。翻訳ソフトを通すと不思議な文章が出来上がって面白いですね。

 なぜこんなことをしたのかって? それはナイショで。ボツ原稿を利用する良い方法がないか模索した結果がこれとかないですよー。本当に本当に……。


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