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5月21日 赤い水の正体

本作のみでも十分お楽しみいただけますが、5月20日『股から血が出る』をお読みになってからの方がより楽しみいただけると思います。お時間のある方はそちらから読んでみてください。

 今日の彼女はいつにもまして機嫌が悪い。自分ではそれなりに面白い話をしたはずなのだがどうやらお気に召さなかったようだ。

「何? その、股から血が出るって。女の子の日を馬鹿にしてるの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど」

 彼女にこんなくだらない話をすることになったのは「暇だから何か面白い話でもしてよ」と言われたからだ。話を要約するとこうだ。

 小学二年生の頃、校舎外に雨水などを受けるための排水口があり、そこに溜まっていた水が赤く染まっていたのだった。近くにいた女子に訊いてみたところ「五年生くらいになると股から血が出るって、私のお姉ちゃんが言ってたよ」と返ってきた。その後、自分はいつ股から血が出るのかびくびくしながら過ごした、というオチの小話だった。

「その話おかしいよね」

「おかしい、と言いますと?」

 彼女のとがった口調と不満たらたらの表情から察するに「おかしい」というのは面白おかしいという意味ではなさそうだ。

「トイレの下水がそんな簡単に見えるところに流れているわけがないでしょ」

「言われてみれば確かに……」

 汚水は地下にある下水管を通っていくはずだ。仮に地上から汚水が見られるような場所があったとしたらとてもきついにおいがするはずだ。しかし、特別くさいというわけでもなかった。

「排水口に赤い水なんてきっとあんたの見間違い」

「だとすれば何と見間違えたんだろう。赤い水が溜まっていたことは本当だ。嘘じゃない」

「赤いのは絵の具のせいでしょ」

 彼女は何の考えなしに言った。絵の具だとしたらそれはそれで不自然だ。

「小学生が絵の具を使う時と言えば図工の授業。赤の絵の具しか使わないなんてことある?」

「赤以外も当然使うけど、そんなの関係ないでしょ。赤の絵の具の水を捨てたことに変わりはないし」

 想像してみれば不自然な点は出てくるものだ。図工で使った絵の具の水を捨てたと仮定する。校舎外の排水口に捨ててあったことから察するに風景画でも描いていたのではなかろうか。近くに大きな木があったのは覚えている。風景の絵を描こうとしたら、黒、白、青、緑などの色を使うことになるだろう。彼女に問う。

「絵を描く時に複数の色を使って、水の入ったバケツで筆を洗ったとしたら。その水の色はどうなるだろう?」

「ああ、そういうこと」

「うん」

 彼女はようやく理解してくれたようだ。

「確かに赤じゃなくて濁った色になるかも。風景画ならなおさら。まあ、紅葉の絵でも描いていたんなら別だけど」

 小学生の図工の授業で絵の具のバケツが赤になったままというのはなかなか考えにくい。排水口の近くにあった木は桜だ。楓の木ではない。しかも紅葉の季節でもなかったように思う。

「仮に紅葉の絵を描いていたとしても水は赤のままじゃないと思う。幹の色や空の色は赤以外の色になるからやっぱり水は濁る」

「じゃあ結局あの赤い水は何? やっぱり血なの?」

「血だとしたら恐ろしいね。たぶん違うけど」

 ことの発端となる話をした本人が言うのもなんだけれどあれは血液ではないだろう。排水口にはバケツ一杯くらい溜まっていた。これほどの量の血液があったらこれは事件だ。学校で大けがをした人がいたなどの情報が広まっていたはずだ。もちろんそんな噂は聞いた覚えはない。

「それで排水口に溜まっていた水ってどのくらい赤かったの?」

「少なくとも真っ赤という感じじゃなかった。水がうっすら赤くなってるなと思うぐらいの薄い赤だった」

 彼女はしばらく考えた後に急に大きな声を出す。

「わかったかも。あれだ」

 カフェの外に咲いていたツツジの花を指さしていた。

「花?」

「うん、色水って知ってる?」

「知ってる。花びらの入ったビニール袋に水を入れてすりつぶすと綺麗な色の水ができるっていう遊びだった?」

「そう、それ。色水を作って遊び終わって排水口に水を捨てたんだよ」

「なるほどそれなら充分ありうる話だね」

 彼女は名推理とばかりに誇らしげな表情を浮かべながらコーヒーをすする。

 とりあえず彼女の機嫌が直ってくれてなによりだと思った。


お読みいただきありがとうございます。


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