5月18日 カウント
地下鉄駅のプラットホームで電車を待っていると、とある男が何やらカウントしていることに気がついた。決してプロレスのように声を出してカウントを取っているわけではなく、よく道ばたで交通量調査のためにアルバイトがカウンターを使って数えているような、そのような感じで椅子に腰かけてひたすら何かをカウントしているのだった。
見る限りにおいて彼のもとを通り過ぎた人を数えているわけではなさそうだ。電車の乗り場に並ぶ人間に対してカウントしているように見受けられる。けれども彼の目線の先にある乗り場にできた列、そこに並ぶ乗客全員に対してカウントしているわけではないようだ。
今まさに列の最後尾に並んだ女子高生はカウントしていない。さらにその後続にОLが並ぶとカチッと一回カウント。さらにその後ろに大学生だろうか、明るい髪色の女性が来る。カウントはしない。
年齢別だろうか。そんなふうに思い始めたところで、さらにその後ろに三十代後半か、四十代くらいだろうか。それくらいの年齢だろう女性がやってきて列をなすが、カウントすることはなかった。
カウントする人間とカウントしない人間にわかれるのは間違いない。ただその区別というものが全くといってわからなかった。カウントされる人間の共通するのは女性ということだけ。
しかし、よくよく見て見れば女性専用車両の乗り場だ。列をなす人間が女性というのは当たり前のことだ。
例の列に大学生と思われる女性二人組が並ぶと二回カウント。その後ろにモデルでもやっていそうなくらい色白で艶やかな黒髪の女性が現れるもこちらはカウントしない。そしてその後ろに、おそらくは二十代と思われる女性が並ぶ。そんな大きさのサイズ、どこに売っているんだというくらいに大きなスーツを着たとても太ったОLだった。例の男はすかさずカウントする。
いや、まさかね。
そう思ったのもつかの間、さらにその後ろにマスクをしていても美人ではないとはっきりわかるくらいの女が並ぶ。
やっぱりカウントした。
つまりはあの男、女性専用車両に並ぶ必要のない女をカウントしているというわけだ。
なんて失礼な奴だ。軽蔑するようなまなざしを男に向けてしまう。
ここまで彼の奇行ばかりが気になってその容姿まで目に留めていなかったが、よくよく見て見ればなかなかの好青年ではないか。某アイドルグループにいてもおかしくないほどにルックスの整った人物だった。そんな彼の姿を目の保養とでも言うべきか、しばらく直視していると、ある一つの考えが頭の中に浮かんできた。
さてはて私は彼にカウントされたのだろうか、そんなことをはっと思い出したようにぽつりと思うのだった。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク登録あるいは広告の下にある【☆☆☆☆☆】を押して評価していただけると幸いです。「いいね」を押していたけると作者のモチベーションアップになります!