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5月10日 この世界の矛盾点

 その世界は機械仕掛けであった。農作物は機械による徹底した管理のもとで屋内栽培をすることによって安定した食糧の供給がされており、さらには医療や教育までもが機械によって行われているのである。もともと機械化というのは、人件費削減と大量生産をするために昔から行われてきたものだが、これをより一層促進されたのは、ある一つの発明がきっかけであった。

 ロボットである。ある企業は人型ロボットの製造に成功した。当初は本物と比べると表情が不気味、動きが不自然といった問題もあった。しかし、改良に改良を重ねた結果、人間を忠実に再現したロボットを開発した。もちろん見かけや動作は本物との違いが分からないほどである。ただ人間そっくりというだけではない。あくまで機械であるため学習能力に長けていることは変わらないのである。

 例えば名医の手術現場を一度見れば、同じことをロボットはこなすことができる。さらには人工知能が搭載されているため、その場の状況に応じた臨機応変な処置が可能となる。次第に医療現場ではメスを握るのは人間ではなくロボットに変わっていった。これによって医療ミスも格段に減少した。必然的に患者の方もロボットによる手術を希望するようになり、医者という職業は存在しないに等しかった。

 また、教育もロボットが行っている。人間の教員では、たびたび不祥事を起こして問題になることが多くあったが、ロボットならその心配もない。管理された環境でロボットが問題を起こすことなど考えられないのである。さらにロボットは優れた教育者の行う授業をインプットし、子どもの適性に応じて、どのような授業を行うのがベストなのか、自らの人工知能で判断を下すのである。

 時代が進むと戦争をも機械化の波が押し寄せることなる。この時代の戦争といえば、ロボット同士の戦いである。そのため血が流れることは一切なく、誰一人死ぬことはない。人々はこう考えたのだ。ロボットよりも貧弱な人間なんかが下手に生き残って怪我でもすれば、治療しなくてはいけなくなる。すると結果としてコストがかかる。しかしロボットの場合は違う。戦争でどこかが損傷したとしても、わざわざその部分を修理する必要はない。損傷した部分のパーツを交換するだけで済むのである。戦争で使われるロボットは大量生産品であるため、コスト面から見ても安く済むというわけだった。そして何よりも平和的だ。もう世界各国の軍隊は、生身の人間を兵士として使ってくることはない。もし使おうものなら、「いつの時代ですか?」と鼻で笑われる時代になったのである。

 また、ある時には感情を持つロボットが開発された。これによりロボットと結婚する人々までも現れ始めた。実際の人間なんかよりも、優しくて献身的で嫉妬深くないロボットの方がよっぽど魅力的だったのである。人間によって造られた性格なのだから、それは当然といえば当然のことなのかもしれない。

 あらゆることが機械によって行われるようになった世界では、昔と変わらず人間が関わり続けることがあった。

「大臣、先ほどの発言は前回の発言と矛盾しているように感じるのですが、どうお考えですか?」

 記者ロボットはマイクを持って駆け寄った。問い詰められた大臣はしどろもどろになって答える。

「ええと、その……その件につきましては……」

 このように政治家がミスを犯しても人々はそれを見てあまり怒りはしなかった。ただただ皆は、彼のした行いを人間らしいことだと言って、むしろ安心感を抱いていたのだった。


 欲しい時に食べ物はいつでも手に入り、怪我をしたとしてもすぐに最善の手術が行われて治すことができる。そしてどこに住んでいたとしても誰もが最高の教育が受けられる。

 そんな機械仕掛けの、幸せそうな世界で。

 こうして人々はため息まじりに呟くのであった。

「それにしても、つまらない世の中だ」


お読みいただきありがとうございます。


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