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5月1日 庭

 辻村つじむら家の庭は美しいということで有名である。春は花が咲き乱れ、夏は小川沿いの道を歩けば涼しさが感じられる。また、秋になれば紅葉が見られるし、冬になれば白粉をした庭を見ることができる。このように春夏秋冬、様々な景色を見せてくれる庭は花鳥風月という言葉に似つかわしいほどである。庭先にひとたび寄ってみれば花々は私たちに艶やかな姿を見せてくれるだろう。

 この庭は辻村家の当主である辻村賢治が自ら手掛けたものであった。なぜこのような端正な庭をつくったのだろうか。その理由は彼の娘と深く関わっているそうだ。


 新緑の季節、賢治は縁側から外を眺めていた。彼は庭を歩くよりも、こうして家の中から庭を見るのが好きだった。娘の小さな手を優しく包むように握っている。

「みてみて。きれいなおはながさいてるよ」

「そうだね。なんていうお花なんだろう」

 そこには鮮やかな紫の色の花が咲いていた。二人ともそれを目にして思わず笑顔になってしまうほどである。

「ねえねえ、おとうちゃん。ことりさんがないてるよ」

「そうだね。どこで鳴いているのだろう」

 そう賢治が返すと、娘は不思議そうに顔を覗き込んだ。

「おとうちゃん。どうしてないているの?」

 賢治の頬をつたって一粒の涙がこぼれ落ちた。

「何でもないさ」

 そう答えるも賢治の涙は止まることはなかった。


 実はこの娘は昔から身体が弱かった。遠出などは到底できるはずもなく、家の中での生活が長く続いていた。そのこともあって父親の賢治はせめてもの庭の景色くらいは華やかにしてあげようと考えたのである。そうしてできたのがこの庭であった。花の名前さえも知らないほど花々に興味がなかった賢治だったが、娘を喜ばせようとこの町一の庭師を招き入れ、とっておきの庭をつくらせたというわけだった。

 しかし娘の体調は悪化し、あとわずかしか生きられなくなってしまった。それゆえの涙だったのである。

 そして数日後、娘は亡くなった。その後、庭は次第に美しさをなくしていったという。


お読みいただきありがとうございます。


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