出会い
拝啓、お父さんお母さん。
先ゆく息子をお許しください。
長立成弥、17歳。
今、よく分からない化物に追われてます。
なぜ、こうなってしまったのか自分でも分かっていないです。
ただ、これだけは言えます。
俺は何もしていません。
「ガァァァァァァァ!」
「ひぃ!」
なんて考えている間に化物はすぐそこまでやってきていた。
チラリと振り返った先にはやはり化物。
人間ではない見た目なんだかブヨブヨしてそうな体つき、ワインレッドのような色をした体、目はいくつもあり、四足歩行で走ってる。なんで四足歩行なのにあんなに速いのか。どれが本当の目なのか全部そうなのか。もしそうならいろんなところが見えて便利そうだね!
なんて考えていても化物は止まってくれない。
なす術なし。こんなにもぴったりな言葉はないだろうと思う。たった17年間しか生きれなかったな。短い人生だった。やりたいこともたくさんあったのにな。あのゲーム買えばよかったな、可愛い彼女とかも欲しかったな。これと言ってもう出てこないけど他にもやりたいことはあったな。どれもこれももう叶わないのかと思ったら泣けてきた。あぁ…本当に終わりなのか…終わる時はあっけないものだな。
あと少しで化物に追いつかれてしまう、その時だった。自分の上を影が通った。
「ウガァァァァァァァ!!」
「!?」
化物が突然苦しみだした。
もしかして秘められた才能がピンチにより覚醒した?やっぱり自分は天才だったのだ!
今、とても高笑いをしたい気分だ。
そして自分に写る影ひとつ。
「サクラバ流奥義 桜乱花」
「ウガァ…ァァ…ァァ」
なんだ?後ろを恐る恐る振り返ると化物は倒れていた。
当たり前だが自分ではない。では誰があの化物を倒したのか?あの場には自分しかいなかったはずだ。
ではやはり自分なのか?自分の秘められた才能が花開いたのでは?
なんて考えてたら突然カチャリと金属の音が聞こえた。
音のした方を見たら、女の人が剣を構えていた。切先はこちらを向いてる。あれ、これはもしかしなくてもピンチなのでは…?
一難去ってまた一難。これまたぴったりな言葉だ。
「あなた、今何から逃げてたの?」
「え?」
「どうして逃げたの?」
何を言っているんだ?
現実逃避をしていたら彼女から質問をされた。
何から逃げてたのか?どうして逃げたのか?
彼女は一体何が聞きたいのか…?あれ、おかしいぞ、切先がさっきより近づいている気がする…
「えっと、何から逃げてたのかは化物から。名前知らないからとりあえず化物。なんか見た目怖かったし。そして、どうして逃げたのかは危険だと思ったから。確証はなかったけど逃げなきゃって思ったから。」
「……」
どうして返事がないのだろう。何かおかしなことを言ってしまったのか?というかあっちから聞いてきたのに無視はないんじゃないかな!?
そういえば、彼女はどこから来たのか?いつ来たのか?彼女が化物を倒したのか?
疑問はこちらにも出てきた。それともこれは気にしたら負けというやつなのだろうか。
「逃げたのは正解だった。もし逃げてなかったら今頃ここにはいない。死んでた。」
「は?」
よかった、ちゃんと話聞いてたんだね!って死んでた!?いきなりそんなこと言われてもわからない。
「なんかサラッとすごいことフワッと言われた気がする…」
「怪我はないみたいだからよかった。それじゃあ…」「待って!」
「…なぁに?」
「そっちの質問に答えたんだ、次はこっちの番だろう。」
「別にそんな決まりはないと思うけど?」
「いいや、ある。名前だって片方が言ったら片方も言うだろう。それと同じだよ。」
「名前と質問は違うと思う。」
「細かいことはいいじゃないか。減るもんじゃないんだし。」
「減ってるよ。私の時間が減ってる。」
「それなら俺だって減ってる。お互い様じゃないか。」
「違うよ。君は知りたいから質問という時間を使う。でも、私は別に教えたくないのに時間を使わなければならない。もし、質問をしなければこの時間で何かできたかもしれない。それこそ別の化物を追いかけるとか…ほら、それでも同じに思える?」
こ、こいつ…
やれやれみたいにため息つきやがって…
「自ら望んて時間を使っている君と時間を勝手に使われる私じゃ同じ時間でも別物だよ。分かった?もういい?」
それじゃあなんて立ち去ろうとしているがそんなことはさせない。
「…いいや、だめだ。質問に答えてもらう。」
「しつこいな…しつこい人は嫌われるよ。」
「残念ながらこの性格で17年間生きてきたんだ。今更変えられない。それに嫌われてるのには慣れてる。」
「……」
「どうしても納得いかないようだな。じゃあこうしよう。」
「?何?」
「等価交換。俺は君の質問に答えた。つまり俺は等価を求める権利がある。そして質問という等価を要求する。だから俺の質問に答えるべきだ。どうだ!」
ビシッと効果音がつくように指を突きたてた先にいる彼女はぽかんと口を開けて言葉が出ないようだった。勝った。そう確信した。きっとドヤ顔しているだろう。
「ぷ、あはは!等価交換!そうきたか!」
急に笑い出した彼女に次はこっちが口を開ける番だった。
笑いが止まらないようだった。…いつまで笑っているつもりだろうか、いくらなんでも笑いすぎだと思う…
「等価交換かーそっかー。それなら答えないとダメだね!」
「いや、最初から答えてあげなよ…」
「うわぁ!」
急に第三者の声がした。人が増えた?
呆れたような声だと思っていたら本当に呆れているようだった。ちなみに彼女はまだ笑いが止まらないようだった。
「えっと、はじめまして。聞きたいことがあるんだよね。何かな?」
「えっと…」
やばい、何を質問するのか忘れちゃった…なんだっけ…そうだ!
「君たちは何者?どうやってきたの?というかあの化物は一体?死んでたってどういうこと?」
「ふふ、質問多い…等価じゃない…」
「こら。僕は影森孝志、彼女は植野真咲。僕たちはあの化物の倒しにきたんだ。」
「倒しに?」
「ちょっとー、等価交換なんでしょ。あんたも名前言いなよー。」
「だからそういうこと言うんじゃありません!」
「あ、そっか。長立成弥です。」
「あはは、律儀!」
「…うん、あの化物が人を殺す前にね。」
「人を、殺す。」
「そうだよ。危なかったね、間に合ってよかった。」
「…」
間に合ってよかった。そう言われて段々と現実味を帯びてきた。俺は死にそうになっていたんだ…
ぞわりと背筋が凍った気がする。
「いやー、よかったよかった。それじゃあ僕たちは行くね。」
「あ、うん…」
言いたいことは言えた2人はどこかへ行ってしまった。
人を殺す化物…そんなものがこの世に存在していたなんて知らなかった。もうこの道通れないな。あれ、でもおかしい。これでも17年間この世で生きてきたけどあんな化物見たことがない。あの口ぶりだと最近現れたってわけではなさそう。じゃあなんで今まで見たことがなかったんだ?どうして?何かに気づかないといけないのにそれが何なのかわからない。
「はっ!」
どれだけの時間あそこにいたのだろうか。このままでは不審者のようだ。移動しなくては。
なんだったんだろう、いくら考えてもわからなかった。そもそもなんで自分が追いかけられていたのか。狙われる理由なんてないのに…見目麗しい訳でもない、頭も別に良くない。運動神経も良くない。本当にわからない…
なんて考え事をしていたら開けた場所に出た。人々が行き交い話し声が聞こえる。さっきまで化物から逃げるためよくわからない道、路地裏のような場所にいたからここはなんだか気持ちがいい。腹いっぱいに空気を吸い込む。現実の世界に帰ってきたような気分だ。あぁ、なんて美味しい空気なのだろう。考えてたことなんて忘れてしまい、このままでも良い気がする。きっと大したことではないのだろう。だってわからない、大切なことならすぐにわかるだろう。そう思うことにしよう。
今日はちょっとだけ寄り道しようかなんて考えるぐらいには落ち着いてきた。よしどこに行こうか、とぐるりと周りを見渡す。そして後悔。なんで見てしまったのだろうか。
目の前にはあの化物がいた。
どうして?彼女が、倒していたじゃないか、なのになんでここにいる?あの場所から決して遠くはないが近いというわけでもない。なぜここにいるんだ。冷や汗が止まらない。あの化物が見ている先には女の人。なぜ逃げない?あんな化物がいるのに…狙われているのに…
あれは人を殺す
これはピンチというやつなのではないか?だってそう言っていたじゃないか、殺される?誰も助けてもらえず、こんなところで化物に殺される?見た感じ自分と同じくらいの年齢だ。まだまだ未来がある。それなのにこんなことで終わってしまう…どうすれば…そうだ、あの2人を呼べばいい!あの2人なら化物を倒せる。そうと決まれば早く…って2人の連絡先知らない!これじゃあ呼べない!倒してもらえない!どうする、どうすればいいんだ!?早く、早く考えろ!
そうしている間にも化物は女の人に近づいている。
あーもう!考えてる場合じゃない!行かなきゃ!
何も考えず飛び出した。途中転びそうになりながらも女の人と化物の間に体を捻じ込んだ。成弥は化物を睨むように見ていた。
「離れろ!この化物!」
化物はそれを見て、モゾモゾと動く。それはまるでニタリとしているようで。
笑っ…て…いる…?
「ガァァァァァァァ!」
そして化物は腕らしきものを振り上げた。
死ぬ。直感で感じとれた。
あぁ、せっかく助けてもらったのにな。結局死んでしまうんだ…
全てを受け入れるかのように成弥は目を閉じかけたその時、自分に写る影ひとつ。なんだかデジャヴ。
「あはは!やっぱり、あんたは面白い!」
この声…!
「サクラバ流奥義 華風吹」
「ガァァァァァァァ!」
目を開けた先には苦しんでいる化物と自分の前に立ち、剣を構えてる女の人。植野真咲だ。
「邪魔を…するな!」
「やだよ。あいつのこと喰べるんでしょ。そんなこと許さないから、邪魔しないと。」
「貴様…!」
振りかざした剣は化物を斬った。
す、すごい…
素直にそう思ってしまう。化物からの攻撃を簡単にかわし、攻撃をしていく。まるで踊っているかのように鮮やかな剣捌きだった。思わず見惚れてしまった。
「大丈夫?怪我はない?」
「うわぁ!」
「2度目だ。」
成弥の身を案じてくれた影森孝志はニコリと微笑む。
「どうしてここに?あの化物を追ってきたのか?」
「うん、そうだね。それも目的のひとつだ。」
「?」
「ガァァ…ァ…ァァ…」
「終わりかな?」
「邪魔を…するな…見つけたえもの…絶対に喰べる…それがあの方の…願い…」
「言ったでしょ、そんなことはさせないって。」「うるさい…黙れ…邪魔するやつは殺す!」
「もういいよ、終わりにしよう。サクラバ流奥義」
急に風が吹いたと思ったら、桜の花びら?なんだこれ?全て真咲に集まっている?その様子はとても綺麗だ。
「桜乱花」
「ガァァァァァァァ!!!」
真咲の剣が化物を切り裂く。そして、化物は倒れた。すごい。また化物を倒した。
「やぁ、2度目だね。」
「う、うん」
さっきの光景が目から離れない。桜の花びらが真咲の周りを舞って幻想的で綺麗だった。
ぼーっと今見ている景色に見惚れていたら隣にいる孝志がこっちに近づいていたことに気づいてなかった。
「やっぱり、視えてるんだね…」
「?」
「長立成弥くん、実は君に謝らないといけないことがあるんだ。」
「え?」
「これを渡すのを忘れてたんだ。」
渡されたものを見たら手のひらサイズの小さなビンのようなものだった。
「これは?」
「目薬。あの化物を視えなくするもの。」
「化物を見えなくする?どういうこと?」
「あの化物は普通の人には視えないんだ。だからさっきの化物が狙っていた女性は自分が狙われているなんて思ってないし、気づいていない。周りの人も気づいていない。だって視えてないから。だから逃げないし、誰も助けない。」
「…」
そんなのありえない。だって自分には視えてるから。視えないなんて言われても…でも、たしかにそうであるなら納得がいく。なんで逃げないのか、なんで助けないのか。それは視えてないから、気づいてないから。逃げようがないし助けようがない。
「さっき別れた時…」
孝志と真咲は成弥と別れた後、あの化物を倒した後処理をしてから帰路についていた。
「あの少年、危なかったね。もう少しで喰べられてた。」
「そうだね。間に合ってよかったよ。」
「でもまさかこの街に視える人がいるなんて思わなかったなー。だからちょっと観察しちゃった。」
「だから助けにいくのが遅かったのか…もしそれで間に合わなかったらどうするんだ…」
「大丈夫だって!そんなヘマはしない。ちゃんと助けるよ。」
「うん、分かってるよ。サキはそんな失敗しない。でも一応ね。」
「はぁい。」
やれやれと言った感じで孝志は真咲に注意をした。そんななんて話してなんとなくポケットに手を入れた。そこで小さなビンのようなものが手に当たった。
「ん?」
そして、なんとなくそれをポケットから取り出した。
「あ…」
「ん?コーシどうしたの?」
真咲は孝志の手のひらを覗き込んだ
「あー…」
そこには小さなビン。
「しまった、彼に渡すの忘れてた…これ渡さないのまずいよな」
「うーん、ちょっとまずいかもね。彼、しっかり視えてたし。」
「だよね。仕方ない。探して渡すか。」
「大丈夫だよ。すぐに見つかる。」
遠くを見ていた真咲はニヤリと笑っていた。そしてその先で咆哮が鳴り響く。
「今のって…」
「ふふ、本当に彼は面白いな。」
「…というわけなんだ。」
「はぁ…」
渡されたビンを改めて見る。これであの化物とおさらばできる?とてもすごい薬じゃないか!早く使いたい。
「ごめん、最初に会ったときにちゃんと渡してたらさっきみたいなことにはならなかったのに…本当にごめん。」
「いや、大丈夫だよ。結果的に助けてもらったしね。」
「そっか。あ、その薬は一滴垂らすだけで大丈夫だからね。」
「わかった。」
これでまた日常が戻ってくる。非日常はこれで終わり。なかなかに刺激的だったな。たまにならこんな日があっても良いのかもしれないなんて考えてしまう。
「…あ!!」
急に大声を出した成弥に孝志はビクッとした。
それを見た真咲はまた笑い出す。
「え、何どうしたの?」
「ずっと何かを忘れていたんだ。とても大事なこと。それを今思い出した。」
「何?大事なことって?」
「2人とも、2回も助けてくれてありがとう。」
「!!」
「2人があの時助けてくれなかったら俺は死んでた、命の恩人だ。本当にありがとう。」
「それが忘れてた大事なこと?」
「うん。そうだよ。お礼は大事なことでしょう。」
成弥はなんでもないかのように言った。
「そっか。うん、どういたしまして。よかったよ君が生きていて。」
「それじゃあ」
「うん、それじゃあ。元気で。」
そう言って孝志と真咲は帰っていった。
そして、成弥は目薬を自分の目にさした。その目薬は強いもので少しだけ、ほんの少しだけ涙が出た。
それから、長立成弥にいつもの平和な日常が帰ってきた…
…たったの1週間だけ…
「なんでだぁ!!!」
またもや成弥はあの化物に追われていた。
「なんで!?おかしいだろう!目薬さして視えなくなったのになんでまた追われてるんだ!」
「ガァァァァァァァ!」
「ひぃ!!」
もうだめだ。今回こそもう終わりだ。あぁ短い人生だったな…あの時後悔したのに結局ゲーム買わなかったな。やっぱり買えばよかったな。そういえば人生を振り返るのは2回目だな。なんて考えてる時に自分に写る影ひとつ。ふたたびデジャヴ。
「サクラバ流奥義 桜乱花」
「ウガァァァァァァァ!」
そう、そうやって化物は苦しみ倒れるのだ。なぜ知っていのかって?それは2度体験したことだからだ。
「やぁ、またあったねー。」
「うん、そうだね…」
変わらず植野真咲はそこに立っていた。
「どうやら君の目はすごい良いみたいなんだ。」
「良い?」
化物を倒すのを遠くから見守っていた影森孝志が言った。
「そんなはずはないよ。だってコンタクトだし。」
「その良いじゃないよ。あの化物とかが視える目だよ。だから目薬をさしてもすぐまた視えるようになってしまうみたいなんだ。」
「え…じゃあどうすれば?」
「うん、選択肢はふたつ。ひとつ、僕らのいる施設で監禁されるか。このままいるよりは危険はない、というよりそこでいる間は身の安全は保証する。ふたつ、その目を僕らに差し出す。大丈夫、ちゃんと違う目を君には渡す。完全に視えなくなるわけではないよ。さぁどうする?」
「…」
出された2本の指と選択肢。
監禁されるか、目を差し出すか…?
何を言っているんだ。そんなのこっちにとってデメリットしかない。第一、彼らの施設ってなんだ?どこにあるんだ?わからない、言っていることがわからない…
「急にこんな選択を迫られても困るよね。大丈夫!どっちを選んでも死にはしないよ。」
「…」
死にはしない?
当たり前だ、せっかく化物から生き延びたのに殺されるなんていやだ。
「別にこのままでもいいんじゃないの?化物に会わなければいいだけだし…」
「いや、きっとまた狙われる。化物たちは君が視えてるってことに気づいたから。現に視えるようになってからまた狙われたでしょう。」
たしかに、視えるようになってからまた化物に襲われた。だからといって…
「視えてるから狙われる?たまたまじゃないのか?」
「たまたまじゃないよ。化物たちの狙いは化物自身を視える目を持つ人間なんだ。だから化物が視えてる限り狙われ続ける。」
「!」
「今回も前回もたまたま僕たちがいたからなんとかなっていたけど毎回助けに行けるわけじゃない。次は殺されるかもしれない。」
「…」
運が良かった?もしかしたらもう殺されていたかもしれない?想像しただけなのにぞわりと血の気が引いた。
「そうだ、あの目薬をずっとさしていれば良いんじゃないのか?1週間は効果があるんだから1週間ごとにさしていけば視えなくなる!」
「それはおすすめしない。結構強い薬だからそんなに長期間服用して副作用がないとは言い切れない。それに目薬も有限だからそんなにたくさん渡すことはできない。」
「じゃあそれよりもっと強い目薬を使うとか!」
「さっきも言った通り元々強い薬なんだ。だからこれ以上強い薬なんて危険だし、そもそも存在しない。どうしてもと言うのなら一から作成するところから始めないといけない。薬の作成と安全性の確保するのに、どれほどの時間を使うのか予測ができない。」
「そんな…」
「ごめん…」
別に孝志が悪いわけじゃないのに責めてしまいたい。だってそうすれば楽になるから。
目薬は使えない、監禁される場合は身の安全は保証されるけど自由はない。目を差し出す場合はあの化物のこと視えなくなるだろうしかし、本当に違う目をくれるのかわからない。もしかしたらくれないかもしれないし、最悪失明してしまうかもしれない。どっちを選んでも地獄。どうすれば?
「もう、コーシったら何言ってるの。まだ選択肢はあるでしょう。」
ずっと黙って話を聞いていた真咲は孝志の指をもう1本出させた。
「みっつ、私たちの仲間になる。」
「!?」
「サキ、何言ってるの?仲間になるって。」
「考えてもみてよ、彼はすでに2度も狙われた。そんなに狙われることは普通ない。だって化物たちに知能はないからね。ただ視える人を襲う、それなのに彼のことは何度も狙った。きっと彼の目には利用価値があるはず。そしてそれを活かすには私たちの仲間になってもらうしかない。目だけをとったところでそれは利用できない。」
「…」
真咲は成弥へ振り返り問いた。
「ひとつ目の施設に監禁ってやつは身の安全はあっても自由はない。きっと生きているっていう感覚を忘れてしまうだろうね。どっちかというと生かされてるって感じになると思う。ふたつ目の目を差し出すはそもそも安全性が保証されてないよね。君からしたら本当に違う目をくれるのかっていうのもわからない。それに目をかえたからといって大丈夫というわけでもない。みっつ目の仲間になるは君自身の目が利用される。あとは仲間になるってことは私たちのように化物と戦うってことだから。言い換えるなら自分の身は自分で守るって感じ。もしかしたら1番危険かもね。まぁ、君のことは私たちがしっかり守るし、戦いの訓練だってしてもらう。だから簡単に死ぬなんてことはないと思うよ。どれを選んでも茨の道。さあ、君はどれを選ぶ?」
「…」
どれを選ぶか?
どれを選んでも茨の道なんだろう。なら決まっている。利用されてやろうじゃないか。やってやろうじゃないか。
成弥は覚悟を決めた。
「2人の仲間になる。」
そういって成弥は3本目の指をとった。
「これからよろしく、長立成弥くん!」