もし世界から色が消えたなら
作中に登場する共感覚には作者独自の解釈を含みますので、実際の共感覚とは異なる部分があります。また、彩盲は作者が作った言葉ですので、ご注意下さい。
もし世界から色が消えたなら、
君は笑ってくれますか
"共感覚"の僕と"彩盲"の君
「ねぇねぇ、今日はどんな色なの?」
君はいつも僕にそう聞いてきたね。
言ったって君、わからないだろ?
「聞かないでくれよ。何も面白くなんてないんだ。寧ろ騒がしすぎて吐き気がする」
そんな君に、僕はいつもこう言った。そしたらさ、君、こう言うんだ。
「それをボクに言うの?君もひどいひとだ
ねぇ。やっぱりその眼、ボクにちょうだい。ボクならきっと退屈にさせないのに」
嗚呼、その通り。僕は酷い奴だ。君が何よりも欲しいものを持ってるのに。
いつか君に
この"世界"をみせてあげたい
「ねぇ、君の目の色はどんな色?」
僕と君が初めてあった日。そう君は言ったね。正直、何を言っているのか分からなかったよ。
「僕の目は君の方がよく見えるだろう?」
そう言ってしまったのは仕方がないと赦してくれ。
「ごめんね。ボク、色がわからないんだ」
でも、そうだな。赦してくれなくたっていいかもしれない。
君をそんな顔にしてしまったんだから。
僕の"イロ"を君に伝えたい
「ボクの目の色ってどんな色?」
これが2回目にあった日の会話。
こんなこと急に言われてさ、僕がどんなに驚いたかわかる?
でも、どうしても伝えなきゃいけない気がしたんだ。
僕が今まで見てきた、何よりも綺麗な君の瞳の色を。
あの時の僕を、覚えてる?
どうやって伝えたらいいか困ってた僕を。
「そうだな、ええと....深い深い海みたいな、いや...空、そうだ!満天の星が輝く空みたいな色だ!...って、言っても分かんないよね」
君は笑っていたけど、これは本当だからね。
君は何より"美しい"
「ねぇ、君はさ、ホントに何にでも色が見えるの?」
これは5回目にあった日。なんで君がこんなことを聞いてきたのか、もう忘れちゃったけど。
「ああ。何にでも見える。文字だって、歌だって、声にだって」
「ならさ、人には?人に色は見えるの?」
勿論、見える。視える。人はいろんな色をしてる。だから人混みは嫌いだ。
「自分の色は?自分の色は見えるの?」
鏡があればいつだって。
「じゃあさ、君の色を教えてよ」
「僕?僕はね、黎だ」
そう言ったら君は違うって言ってくれたね。
でも僕はやっぱり黎いんだ。
本当に、僕は"真っ黎"だ
「ボクの色、何色?」
6回目。会って早々そんなこと言うから、一瞬意味がわからなかったよ。
「君の色?そうだな...やっぱり、瑠璃じゃないか?君の目のようなあおいろ」
「瑠璃?青とは違うの?」
ああ、勿論違うさ。君の、君だけの色。
「ならボク、今から好きな色は瑠璃色だね!」
嗚呼、嗚呼。やっぱり僕は真っ黎らしい。
"本当のこと"を知ったら
君は僕を嫌うかな
「ねぇ、君は、どんな色が見てみたい?」
確か、これは8回目だったな。
「見てみたい色ねぇ。そうだな、きみの色が見たい」
「ボクの色?ボクの色は瑠璃色なんでしょ?」
「そうだよ。でも、やっぱり見たい色はきみの色だね」
「へぇ。ボクもね、ボクの色が見てみたいんだ」
あぁ、やってしまったかもしれない。僕の嘘が君にバレるのも、そう遠くはないんだろう。
でも、それでも僕は、
"君のために"嘘を吐き続けるよ
「ねぇ。写真からでも、色って見える?」
10回目にあった日。君は僕の所に何枚か写真を持ってきたね。
「見えるけど。何、見て欲しい人でもいるの?」
君が自分の周りのことを僕に話すのは珍しくて、ましてや写真を見せるだなんて初めてで。
少しはやる気持ちに気付かれないようそう言ったんだ。
「これ。ボクのママとパパ。2人は、どんな色?」
君のママは優しい黄色だったけど、パパは昏い昏い赤で。そう君に伝えたら、
「きっと黄色は素敵な色だけど、その赤は醜い醜い色なんだろうね」
って。
それで、ふと思い出したんだ。
5回目にあった日、君が聞いてきたこと。きっと、人の性格と色を結びつけて、イメージしようとしたんだろう?
やっぱり君に"嘘"をついてよかった
「君はさ、何色が好きなの?」
16回目は、こんな言葉から始まったね。
実はね、その時、僕は少し戸惑ってしまったんだ。
いろんな色があるのが当たり前で、いろんなイロが視えるのが当たり前で、考えたことも、聞かれたこともなかったんだ。
「んー...瑠璃色かな」
素直に綺麗だと思うし、何より、
君の瞳がこの世の何よりも、誰よりも美しくて、輝いていて忘れられなかったからなんだ。
いつまでも君だけは"忘れない"
「君はさ、どんな世界が見てみたい?」
20回目はこんな言葉から。
何故だろうか。何か胸騒ぎがしていたんだ。
「ボクはね、7色の世界が見てみたい。君の世界が、見てみたい」
「こんな世界、何もいいことなんてないよ。他人の醜いところまで全て見えてしまうなんて」
そう僕がいった時の君の顔は、
とても悲しそうで、哀しそうで。
それでいて、
"何も映していなかった"
嗚呼、僕は、
どこで間違えてしまったのだろうか