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私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!?  作者: さいとう みさき
第十章絶対合格しなきゃいけないよ!!
72/75

10-3慰めなんていらないよ!

長澤由紀恵15歳(中学三年生)。

根っからのお兄ちゃん大好きっ子。

そんなお兄ちゃん大好きっ子が学校見学で兄の高校に行くと‥‥‥


「私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!」


ここから始まるラブコメディー。

さいとう みさき が送る初のラブコメ小説!


うえぇぇエエエえぇぇぇんっ(ノД`)・゜・(由紀恵談)


 「由紀恵ちゃん~どう~?」



 病室の扉がノックされ紫乃が入って来た。

 

 だいぶ体調は良くなっているけど肺炎になってしまった為まだしばらく炎症止めの点滴を打つ毎日だ。


 私はぼぉっと紫乃を見る。

 紫乃はお見舞いの果物を沢山持って来てくれている様だけどその視線はよそよそしい。



 「ありがとうね紫乃ちゃん」


 隣にいるお母さんが紫乃に挨拶をする。

 

 「いえいえ~、由紀恵ちゃん早く良くなってね~」


 紫乃はそう言って私に近づく。



 「近寄らないで!」



 「由紀恵ちゃん?」


 「今は私を見ないで!!」


 紫乃に八つ当たりするのはお門違いって分かっている。

 しかし感情が正常な判断をさせてくれない。



 「由紀恵ちゃん‥‥‥ また来るね‥‥‥」


 紫乃はそう言ってお母さんに挨拶して出て行ってしまった。


 「由紀恵‥‥‥」

 

 「ごめん、お母さん、今は一人にして‥‥‥」


 お母さんはため息一つ何も言わずに病室を出て行った。




 私は結局目覚めたあの日受験に行けなかった。

 慌てふためき無理やり起き上がろうとする私をお兄ちゃんは必死になって止めた。

 熱でうなされ気を失い二日間も寝ていたせいで気が付いたのは受験日当日だったのだ。


 

 そして騒いだせいでその後また熱が上がり治療にさらに時間がかかってしまった。

 だから受験から五日も経っても私はまだ病院にいる。





 コンコン



 扉がノックされる。

 そしてガラッと音がして誰かが入って来た。


 「由紀恵ちゃん、どうなの具合は?」

 

 「心配したんですよ?」


 「‥‥‥これお見舞い」


 高橋静恵や矢島紗江、そして泉かなめだった。

 花束や果物を持ってきてくれていた。


 しかし私は黙ったまま外を見ている。


 「うーん、顔色はまだ少し悪い様ね?」


 高橋静恵はそう言って私の側に来る。

 矢島紗江は持って来た花束の籠を近くのテーブルに飾っている。

 泉かなめも果物を紫乃が持ってきてくれた果物の横に置いてくれている。



 何もかもが粛々とされ余計に私を苛立たせる。



 「あの‥‥‥」



 「いま長澤君が学校側に問い合わせてくれている」


 私が一人にして欲しい事を言おうとしたら先に高橋静恵がそう言い始めた。


 「太田君も入試についてもう一度確認してくれている」


 「先輩、ここの所ずっと職員室に通い詰めなんですよ」


 「‥‥‥補欠口の事も調べてる」


 三人ともいきなりそう話し始めた。



 「由紀恵ちゃんの気持ちは分かるよ。でも時間は戻せない。だから長澤君は色々と方法を探ってくれている」


 「受験の決まりや万が一の場合についても調べているんです」


 「‥‥‥例年ほとんど無いけど補欠募集も調べている」



 

 あたしは思わず三人を見る。



 三人の眼差しは真剣だ。

 しかし公立高校の試験はこの地域の公立高校が一斉にやる都合上受けられなければそれまでだ。


 補欠募集だって定員割れが起きた時にしか発生しない。


 そのうえ桜川東高校は公務員の合格率が高いからそれを目当ての学生は意外と多い。

 だから補欠口があるとは到底思えない。


  

 「まだ可能性が零じゃないわよ?」


 「きっと何か方法がありますよ!」


 「‥‥‥諦めたらそこで終わり」



 口々に私を励ましてくれる。

 

 でも‥‥‥



 「ごめんなさい。今は一人にして‥‥‥」


 「でも由紀恵ちゃん」



 「一人にしてって言ってるでしょう!」



 高橋静恵に思わず怒鳴ってしまった。

 八つ当たり甚だしい。

  

 分かってはいる。

 彼女たちの純粋に私を気遣ってくれているのは。


 でも、もう無理なのだ。

 私一人の為に受験のルールが変わる事は無い。

 補欠口?

 少子化するこのご時世でも受験は別問題。

 そんなものは私立高校でしか聞いた事が無い。


 私は私立の補欠募集に応募するしかもう道は無いのだ‥‥‥



 「由紀恵ちゃん、それでも最後まであきらめないでね。長澤君だって諦めてないんだから」


 高橋静恵はそう言って立ち上がり部屋を出て行ってしまった。

 

 「あ、高橋先輩! 由紀恵ちゃん、お大事にね」


 「‥‥‥まだ終わってない」


 そう言って矢島紗江も泉かなめも高橋静恵を追って出て行ってしまった。


 

 私は窓の外を見る。



 私だって諦めたくない。

 本当は補欠でも何でもいいからもう一度チャンスが欲しい。

 でも、そんな望どう考えたって有る訳が無い‥‥‥



 気付けば私は涙をぼろぼろと流していた。


 「お兄ちゃん‥‥‥」




 私はぼろぼろ涙を流しながらお兄ちゃんを繰り返すだけだったのだ。

 

 

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