4-6やっぱりお兄ちゃん!
長澤由紀恵15歳(中学三年生)。
根っからのお兄ちゃん大好きっ子。
そんなお兄ちゃん大好きっ子が学校見学で兄の高校に行くと‥‥‥
「私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!」
ここから始まるラブコメディー。
さいとう みさき が送る初のラブコメ小説!
えへへへっ、お兄ちゃん!(由紀恵談)
昼食を屋台の店で取りながら午後の出し物を見る算段をする。
「中学の文化祭とは思えない程気合入っているよなぁ~。すげーよ友也!」
三つ一袋の丸い顔のマークがついた奴のはずで、キャベツとウィンナーの具が入った焼そばを食べながら親友その一は言う。
「まぁなぁ、俺も中学の時は結構楽しみにしていたイベントだったっけ?」
お兄ちゃんはスーパーとかでお買い得四つで二百九十八円一袋で売っているはずのレトルトカレーに卵焼きトッピングしたものを食べている。
私は多分特価売れ残り処分セールのはずの冷やし中華、三食百九十八円に一応それらしい具が乗っかったものを食べている。
この錦糸卵結構いけるわね?
「それで、午後は何処から行くの長澤君?」
ぽよんと大きな胸を震わせて高橋静恵がお兄ちゃんに聞いてくる。
「そうだなぁ~、由紀恵、次は何処行く?」
ちゃんと私に聞いてくる所は流石にお兄ちゃん。
こういう所も大好き!
ぢゃ、無くって、次の場所は‥‥‥
「定番のお化け屋敷よ!!」
私はお楽しみにとっておいた茹で卵が半分に切られたやつを最後に口に放り込む。
うん、美味しいっ!
「お化け屋敷って、由紀恵、お前そう言うのすごく苦手なんじゃなかったのか?」
お兄ちゃんは意外そうにそう言う。
しかし見回りで確認したあのお化け屋敷は中学生が作ったレベル。
既に下調べは済んでいて怖さなんて幼稚すぎる作り物のおかげで全く無いのは分かっている。
「だからお兄ちゃんが私をちゃんと守って一緒にいてくれなきゃ嫌だよ?」
可愛い妹アピールた~いむっ!!
上目づかいでしかも少しはにかんでちょっと頬を赤く染める。
すると周りの男子たちが一斉に私に注目する。
「お、おい、副会長ってあんなに可愛かったっけ?」
「び、美人なのは知っていたけど俺、ずっとクールビューティーだと思っていた」
「い、いいな、副会長‥‥‥」
ひそひそ。
周りが滅多に学校で見せない私のその姿にざわめく。
「由紀恵ちゃん、それちょっとずるいよ?」
「そうです、先輩私も守ってぇ~(棒読み)」
「あ、あの、私も‥‥‥」
私の可愛い妹アピールに慌てて三人娘も参戦してくる。
しかしここは言った者の勝ち。
しかも今日はお兄ちゃんは私の言いなり!
「まあ、由紀恵がこれじゃ仕方ないだろ? 悪いが由紀恵に付き合うよ」
よしっ!
「あれ? 由紀恵ちゃん、このお化け屋敷って‥‥‥」
紫乃がなんか言っているけど三人娘のブーイングをものともせず私たちはそのままお化け屋敷に向かうのだった。
* * *
「にょへぇぇええええぇぇぇっ!!」
私は連続で悲鳴を上げていた。
何故ならこのお化け屋敷、今までとは全く違う。
いや、すでに別物!!
「おおおおおお、お兄ちゃん、こ゛わ゛い゛ぃ゛ぃ゛っ゛!!」
半べそで私はお兄ちゃんに抱き着く。
なにこれ!?
何んで演劇部まで参加しているのよ!?
「うーん、さっき紫乃ちゃんが言っていたけど、今日の一般参加だけは演劇部や海外帰りの帰国子女が得意のSFXまで駆使してお化け屋敷を全面バックアップするんだって? 確かにこれなんかすごいよな? 血みどろの生首、本物かと思うほどよくできているな」
「うぎゃぁっぁあああああああっ!!」
お兄ちゃんの指さす生首に私は思わず悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまった。
そして‥‥‥
「あ、あれ? お、お兄ちゃん??」
はぐれてしまった!?
うそっ! これって迷宮要素も追加されてるらしくなかなか出れない!?
あたしはきょろよろと周りを見る。
「う~ら~め~し~やぁ~」
「のびょぉぉおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」
私はあまりの怖さに意識を失うのだった。
* * * * *
「う~ん、あれっ?」
気が付くと私はベッドの上に寝かされていた。
ここは‥‥‥
「おっ、気が付いたか? 由紀恵大丈夫か?」
声のした方を見るとそこにはお兄ちゃんがいた。
「あれ?、私は‥‥‥ 痛っ!」
「大丈夫か? お化け屋敷でいきなりはぐれるんだもの、驚いたよ。それに由紀恵は気を失った時におでこをぶつけたらしいけど、大丈夫か?」
お兄ちゃんは起き上がろうとする私を助けながらベッドの上に座らせる。
「痛っ、あ、でも大丈夫。少しズキズキするくらいだから‥‥‥ って、 あ゛-っ!!」
私は保健室の窓の外を見て驚く。
だってもう夕方、しかも少し暗くなってきている。
「キャンプファイアー! ダンスぅっ!!」
あたしは慌ててベッドから降りようとする。
「おいおい、無理するなよ? 大丈夫か?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫!! お、お兄ちゃん、私とオクラホマミキサー踊ってっ!!」
少しズキズキしたおでこを押さえて私は無理矢理にもお兄ちゃんの手を取る。
「今から行ったってもうすぐ終わるんじゃないか?」
「いいから早く!!」
私たちは校庭に向かった。
* * *
校庭は既に暗くなりつつあるものの中央に置かれたキャンプファイアーで幻想的な雰囲気になっている。
私はもうすぐ音楽が終わるそこへ無理やりお兄ちゃんと入り込み一緒にオクラホマミキサーを踊る。
しかしほとんど躍っていないで曲が終わってしまった。
「あーっ! 最後だったのに曲が終わっちゃったぁ!! うぇーん、絶対に最後はお兄ちゃんと踊りたかったのにぃっ!!」
ばらばらと踊り終わった人たちが散らばり始めた。
「なんだよ、由紀恵そんなに踊りたかったのか?」
「ううぅっ、だってぇだってぇっ!」
少し涙目の私。
せっかくこれの為にいろいろと策を練ってデートプランを立てて他のみんなを巻いて最後にはお兄ちゃんとダンスを踊るつもりだったのに‥‥‥
人がだんだんといなくなるその校庭でお兄ちゃんは私の頭にポンっと手を置く。
「いいじゃないか、また今度一緒に踊れば。由紀恵とはこれからもずっと一緒なんだからな」
「えっ? お、お兄ちゃん‥‥‥?」
お兄ちゃんは私を抱き寄せじっと私の顔を見る。
やだなにこれ?
は、恥ずかしいっ!
で、でもこれって‥‥‥
お兄ちゃんの顔が私に近づく。
うそっ!
こ、これって、そ、そのもしかして‥‥‥
私の初めて‥‥‥
思わず私は目を閉じ顎を引き上げつま先立ちになる。
お兄ちゃんは高校になってからぐっと背が伸びた。
私と頭一つは背が違う。
ふるふると足に力を入れ私はお兄ちゃんを待つ。
わ、私のファーストキス♡
しかし‥‥‥
「うーん、だいぶ膨らんでいるな? 由紀恵本当に大丈夫か?」
「へっ?」
慌てて瞳を開くとお兄ちゃんは私のおでこを見ている。
そして前髪をどかしてその具合を確認している。
「う~ん、でも膨れた方が直りが早いらしいから大丈夫か」
「えっ? えっ??」
ひとしきりおでこの様子を見たお兄ちゃんは突然私から離れる。
「さて、みんなは先に帰ってもらったよ。何時まで由紀恵が気を失っているか分からないからね。由紀恵、今日一日言う事を聞いて最後まで一緒にいたんだからこれでいだろ?」
お兄ちゃんはそう言ってにっこりと笑う。
そして「帰ろうか」と言って校門に向かって歩き出す。
まだ少しぼぉ~っとした私は慌ててお兄ちゃんのもとへ走る。
「もうっ! 今日はまだ終わってない!! お腹すいた! お兄ちゃんマック寄って行こう!!」
かなり残念だったけど今日はまだ終わらない。
私はまたお兄ちゃんの腕を取るのだった。
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