4-3もてる女はつらいよね?
長澤由紀恵15歳(中学三年生)。
根っからのお兄ちゃん大好きっ子。
そんなお兄ちゃん大好きっ子が学校見学で兄の高校に行くと‥‥‥
「私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!」
ここから始まるラブコメディー。
さいとう みさき が送る初のラブコメ小説!
あんたたち邪魔よ!(由紀恵談)
「吉野君!」
私は生徒会室から飛び出した吉野君を追って校舎をかけまわる。
「あ、長澤副会長じゃん、ねぇねぇよかったら俺と文化祭まわらない?」
女の子数人と楽しそうに話している彼は確かイケメン四天王の菊池啓二君?
彼はきょろきょろとしている私に今まで楽しそうに話していた女の子たちを放置して話しかけてきた。
「ごめん間に合ってるわ! それより生徒会の吉野君見なかった?」
瞬殺でお断りした私に菊池君は変な顔して首を振る。
「そんなの見てないな。それよりサ、俺と‥‥‥」
「ごめん、菊池君自体に興味ないから、じゃ!」
私はそう言うとすぐにその場を立ち去る。
なんか後ろから女生徒の声が聞こえるけどそれ所じゃ無い。
私は引き続き校舎の中を探し回る。
「副会長! なあ、俺たちのサッカー部の出し物見に来ないか?」
体育館近くの渡り廊下で声をかけられた。
振り返れば綿貫哲也君が白い歯を輝かせ私を見ている。
「ごめん、今それ所じゃ無くてね。生徒会の吉野君見なかった?」
「それならさっき体育館に走っていったような‥‥‥」
「ありがとう、じゃ!」
私はそう言ってその場を去る。
後ろで大きなため息が聞こえたけどかまっている暇はない。
私は体育館に入り吉野君を探す。
いたっ!
吉野君は軽音部が開いている音楽のライブ席の端っこに座っていた。
「吉野君!」
びくっ!
私の呼びかけに吉野君はびくっとしただけで動かない。
そして私が近づいてもずっと下を向いたまま身動きしない。
「ねえ、吉野君。私のこと好きって言ってくれてよね? でも私には好きな人がいるのよ?」
「長澤先輩、何で僕を追って来たんです‥‥‥」
下を向いたまま音楽にかき消されそうな小さな声でこの男の子はそう言う。
「なんでかな? 私にも分からない。でも吉野君の事は弟のように思っていたから好きだなんて言われるとは思ってもみなかった‥‥‥」
なんとなく吉野君の隣席に座る。
でも吉野君は下を向いたまま。
私はちらっと彼を見て続ける。
「うれしいような恥ずかしいような、でもね、私は吉野君の気持ちに答えられないんだよ?」
びくっ!
多分分かってはいたのだろう。
私に対する感情がひょんなことから表に出てしまった。
多分彼は分かっている。
「それでも僕は先輩を諦められない。僕も桜川東に行きます。先輩を追って!」
一気にさびの部分になったのだろう。
軽音部の音楽が一層と騒がしくなった瞬間に吉野君は自分の気持ちを言う。
私はぱちくりして吉野君を見る。
小柄な吉野君は涙目でくりくりした表情で小学生みたいな感じの男の子。
小動物を思わせるその感じは確かに「可愛い弟」にしか見えない。
「どうだろう、私を捕まえられるかな? でも吉野君の事は嫌いじゃないわよ?」
私がそう言うと吉野君は今度はまっすぐと私の顔を見て言う。
「きっと先輩に届いて見せます!」
私は笑ってハンカチを差し出す。
そして内心の動揺にちょっとびっくりしている。
吉野君、さっきの一瞬だけ男の子じゃなくて男性の顔になっていた。
私は彼の本気を知った。
でも私の思いはお兄ちゃんに‥‥‥
やめておこう、今は。
私は涙を拭いた吉野君に言う。
「さて、文化祭は始まったばかり。まだまだ私たちのやる事はいっぱいあるわよ? 行きましょう!」
手を差し出すと吉野君は一瞬ためらってから私の手を取り立ち上がる。
軽音部の音楽に観客の拍手鳴りやまない中に私と吉野君は体育館を後にするのだった。
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