3-4続・由紀恵東奔西走
長澤由紀恵15歳(中学三年生)。
根っからのお兄ちゃん大好きっ子。
そんなお兄ちゃん大好きっ子が学校見学で兄の高校に行くと‥‥‥
「私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!」
ここから始まるラブコメディー。
さいとう みさき が送る初のラブコメ小説!
またあんた(親友その一)かぁっ!(由紀恵談)
なぜか勝手に女の戦いに私も参加させられているけどお兄ちゃんの為なら負けられない!
「ふふっ、じゃあ勝負よ! 勝った人が長澤君と一緒にイベントのカップルスライダーに乗るってのはどう!?」
高橋静恵はぐっとこぶしを握り私たちに勝負を挑んでくる。
カップルスライダー?
聞いた事のないそれに首をかしげていると指をびしっとさし今年出来たばかりのウォータースライダーを指さす。
そう言えば今年の目玉だってみんな言っていたような。
つられて私たちはそちらを見るとみんな絶句する。
二人乗りの浮き輪にもの凄く密接して楽しそうにカップルたちがウォータースライダーを滑り降りている!!
何あれ!?
絶対お兄ちゃんと乗りたいぃっ!!
そして私は気づく。
矢島紗江もぐっとこぶしを握り泉かなめも両手を胸の前で合わせてキラキラした目でそれを見ている。
こいつら最初からこれが狙いか!?
い、いけない!
こんなのにお兄ちゃんが一緒に乗ったらお兄ちゃんの貞操の危機だ!
ここは何が何でも私が勝ってお兄ちゃんの貞操を守らなければ!!
「それで何で勝負です?」
矢島紗江が高橋静恵に聞く。
運動なら自信があるぞと言わんばかりに柔軟体操をしている。
確かに矢島紗江の体つきを見れば運動が得意そうだ。
だがそこは高橋静恵も想定済み、腰に手をあて静かに笑う。
「ふふっ、ここは公平に行くために次にスライダーで降りてくるカップルが何色の水着かで勝負しない?」
「なるほど、それなら公平ですね! お兄ちゃんまってね、必ず私が勝つから!!」
「な、なぁ、お前ら一体どうしたってんだ? いきなり勝負って?」
既に景品として賞品台に座らせられているお兄ちゃんはきょとんとしている。
「先輩は大人しくそこで待っててください、そして私と一緒にスライダーに乗りましょう!」
「あ、あの、わ、私も‥‥‥」
「いいえ、長澤君、私とよね!?」
「お兄ちゃん!!」
お兄ちゃんは四方向から一斉にあたしたちからそう言われる。
勿論あたしたちの背景には神獣たちが今だに火花を散らしている。
「由紀恵ちゃん?」
「長澤先輩‥‥‥」
紫乃や吉野君が心配そうにこちらを見ている。
でもこの勝負は負けられない!
私はこぶしを握ってこの勝負に挑む。
「私は青い水着で」
びっと人差し指を立てて私は宣言する。
「なら私は白です!」
「あ、あの、私は‥‥‥ あ、赤で」
「みんな決まったようね? じゃあ私は‥‥‥ 緑ね」
矢島紗江は「白」を選び、泉かなめは「赤」を選ぶ。
そしてこの勝負の言い出しである高橋静恵は「緑」を選んだ?
緑の水着って少ないと思うのに‥‥‥
私はそう思ってもう一度ウォータースライダーを見ると順番待ちをするカップルが昇る階段の列が‥‥‥
「あっ!?」
そう、並んでいる階段の部分はここからでも見て取れる。
今までの会話や滑り降りる時間を計算して次に降りてくるカップルの水着の色は「緑」の可能性が高いのか!?
私は高橋静恵を見る。
すると彼女の口元だけうっすらと笑いの形に。
しまった!
この勝負最初から高橋静恵に有利だったのか!?
「高橋さん! ずるいです!!」
「由紀恵ちゃん、洞察力も勝負には必要なのよ? さあ、そろそろよ!」
くっ!
しかしまだ確実に「緑」が来るとは限らない。
最後の方はここからでは囲いが有って良く見えない。
だから滑り降りて来てから初めて何色の水着なのか見て取れる。
私は神にもすがる思いで「青」の水着が来る事を祈る。
それは他のみんなも同じで有利である高橋静恵も同様であった。
みんなが見守る中次のカップルが浮き輪に乗って滑り降りる!
「お願い、青来てっ!」
私は思わずそう神にでも祈るかのように言う。
そして‥‥‥
「あれ? 今度のは一人だけで滑り降りてくるな? ん? あれって剛志か!?」
私たちが見守る中なんと次に滑り降りてくるのはシングルの男性。
しかもお兄ちゃんの言った通りあれは親友その一!?
何やってんのよあいつはっ!?
「それでも水着の色は見れるわ!」
高橋静恵はそう言って滑り降りる親友その一が最後にプールに着水するのを待つ。
そして着水後に親友その一に声をかける。
「太田君! ちょっとこっち来てっ!」
「おお、ここにいたのかよみんな! 待っててもなかなか来ないから先にイベント乗っちゃったぜ!」
白い歯を輝かせながらプールから上がってくる親友その一を見てみんな案絶句する。
そう、親友その一はなんと七色の海パンを穿いていたのだった!!
「剛志、お前なんて水着なんだよ?」
「いいだろう、これ! レインボーバージョンだぜ! これでプールの視線はこの俺に集中だぜ! もうモブとは言わせないぜ!!」
私たち四人はゆら~っと親友その一を取り囲む。
「な、高橋もこれいいと思うだろ?」
「大田くぅん~」
「親友その一‥‥‥」
「こ、こんなのが先輩ん親友だなんて‥‥‥」
「あ、赤じゃ無かった‥‥‥」
私たちに取り囲まれた親友その一は迫りくる私たちに頬に一筋の汗を流す。
「あれ?」
次の瞬間親友その一はあたしたちに足蹴にされる。
げしげしっ!
「うわっ、剛志大丈夫か!?」
「ぅううぅっ、新しい扉が開きそうだぜ! 美女四人に足蹴にされるの気持ちいいかも…‥‥」
「剛志、お前ってやつは‥‥‥」
なんかお兄ちゃんと親友その一が話している。
ひとしきり蹴り終わってから私は高橋静恵に向かって言う。
「仕切り直しです! 高橋さん!!」
「そ、そうね。太田君のはノーカウントよ!」
「おいおい、お前らいい加減にしろよ? もうその勝負っての終わり! 由紀恵もいい加減にしなさい。紫乃ちゃんや由紀恵の後輩の吉野君がずっと待ってるんだぞ?」
そう言ってお兄ちゃんは賞品台から降りて浮き輪を私に放り投げてくる。
「せっかく来たんだからみんなで遊ぼう!」
そうそう言ってお兄ちゃんは紫乃たちを連れてプールへ向かって行ってしまった。
「あ、お兄ちゃん待ってよ!」
「長澤君!」
「先輩!」
「あ、あの‥‥‥」
慌てて私たちも後を追う。
その後は何だかんだ言ってみんなでプールで遊んで、お約束の高橋静恵の水着ブラが外れて大騒ぎとか、矢島紗江の打ち返したビーチボールがお兄ちゃんの顔面に直撃して大騒ぎとか、泉かなめがその容姿に似合わずドジっ子で転びそうなのをお兄ちゃんがさっと支えて助けて私たちに非難轟々とされたりとか普通にプールを楽しんだ。
* * * * *
「あー、遊んだぁ。今日はありがとね吉野君」
「いえいえ、長澤先輩また一緒に遊びに来ませんか? なんか今日はあわただしくてちょっとゆっくりできなかったので」
もじもじ言う吉野君に私はにっこりと笑って返事する。
「勿論、また誘ってね!」
「は、はいっ!」
手を振って吉野君と別れる。
「はぁ、でも今日は残念だったなぁ。お兄ちゃんとカップルスライダー乗りたかったのに」
「そんなに乗りたかったのか? 次行ったら一緒に乗るか?」
「えっ!? 本当っ!? やったぁ! 約束だよ!!」
私はそう言ってお兄ちゃんの腕を取り抱き着く。
「あ~、由紀恵ちゃん良いなぁ、友ちゃん、私も~」
そう言って紫乃も反対側のお兄ちゃんの腕に抱き着く。
あたしは慌てて紫乃を引きはがす。
夏休みはまだまだ始まったばかり。
私はお兄ちゃんとの夏休みを十分に楽しむつもりだった。
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