70 葵さんと会う
「ちょっと、どう言うことよ!」
「私、以前に、葵さんのお宅に伺った事があるのですよ。だから、行こうと思えば行けますけど……」
としれっと言う彩華さん。
思いがけない爆弾発言にみんな、驚いている。
「彩華さん!」と木嶋さんは彩華さんの手をとった。
「行きましょう!葵さんの家に」
「なら、決定ですね」
こうして俺達は放課後、葵さんの家に向かった。
学校からは、徒歩とバスを使って30分くらいのところ。
閑静な住宅街にある、一軒家だ。
「ここが葵さんの家ですが、いますかね?」
彩華さんはインターホーンを押した。
数秒後、誰かがインターホン越しに声を掛けてきた。
「はい、どちら様でしょうか?」
「すみません。私、葵さんと同じクラスの西園寺 彩華と申します。実は、葵さんが引っ越す事を聞いて、お別れをと、伺ったのですが」
「まぁ、葵の友達!待ってくださいね。今から葵を呼んできますから」
どうやら、葵さんのお母さんと思われる人物は、葵さんを呼びに行った。
そして、すぐに葵さんがやってきた。
葵さんはジャージ姿で、少し髪の毛が乱れている。
「人が昼寝している時に、なんなんですか?」
あくびをする葵さんに、駒形さんがこう言った。
「ごめんなさい。葵さん。実は、会って欲しい人がいるのよ」
「久しぶりだね」
木嶋さんを見た途端に、怪訝な顔を浮かべた。
そして、腕を組みこう言った。
「木嶋さん。あなたと話すことはありません。帰ってもらいます?」
「葵さんが、なくても私にはあります。話を聞いてください」
「帰ってください、私、眠いので……」
と木嶋さんを相手にもしない葵さん。
俺達もどうしたらいいのか、わからない。
「葵!せっかくの友達に失礼よ!」
「うるさい!お母さんには関係ないでしょ!」
「何言っているの葵!中学からろくに学校に行ってないのに、こうしてお友達が来てくれているじゃない!そんな人に失礼でしょ!」
「うるさい!お母さんには関係ないでしょ!」
と言い葵さんはどこかへ行ってしまった。
「ごめんなさい。葵がこんなんで、今から連れ戻してきます!」
「いいえ、大丈夫です。今日は私達も諦めます。そこで何ですけど、また改めて、伺いたいのですが……」
「ごめんなさい。もう、明後日にはここを出る予定なの……」
「そうなんですか……」
「あの!そこをなんとかして貰いませんか!私、最後くらいは葵さんと会ってお別れを言いたいのです!」
「ありがとう。えっと……」
「あっ、木嶋 唯と申します。えっと、葵さんとは仲が良くて、その最後くらいはと思ってこんなわがままを申し訳ありません」
「ううん、そんな事はないよ。むしろ嬉しいわ。唯さんが良ければ明日も、来て下さい。明後日出る予定ですけど、その間は、もう暇ですので」
「えっ!いいのですか!」
「もちろん、お待ちしています」
こうして、葵さんの家を去った俺達。
「私、まだ諦めませんから皆さん!明日もよろしくお願いします」
「わかりました」
一度は諦めるしかなかった葵さんとの関係修復に希望が見えたことによって、木嶋さんはやる気に満ち溢れているかのような表情を見せる。
俺には出来ることはないかもしれない。
けれど、二人の関係修復は心から願っている。
あと一日、二人はどうなるだろうか……
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