68 木嶋さんは諦めない
「いいですか。ここから先は、木嶋さんにとっては危険な場所です。私も出来るだけ、木嶋さんを守りますが、木嶋さんも危ないと思ったら逃げてください」
「わかりました」
俺達は、葵さんがいる部屋へ入った。
「それで、どうして、君は木嶋さんに手を出したのかい?」
「答える気はありません」
「そっか……」
「お疲れ様です。早坂会長」
「おっ、来たね。西園寺さん」
とこちらを振り向いたのが、早坂 隼人会長。
この学校の生徒会長を務め、サッカー部のエース。
確か、20歳以下の日本代表に選ばれているとか……
「そちらが、噂の鈴木君と、木嶋さんだね。初めまして、生徒会長を務めています、早坂と申します」
入学した当初から知っている。
早坂会長は有名人だ。
二次元から飛びでできたような、イケメンで、それかつとても紳士で、成績も優秀。バレンタインチョコレートを、1日で、100くらいは貰った事があると言う伝説があるほど、女子達から圧倒的に人気がある、弱点のない、恐ろしい男。そして、俺達男子の敵だ。
「早速だけど、二人とも、良かったら葵さんと話してみるかい?」
早坂会長は席から立ち上がる。
目の前には、葵さん。
葵さんは、俺達を睨みつけている。
まるで、闘争心的なものを感じる……
俺は、葵さんを警戒するが、木嶋さんは葵さんの前の席に座り、話し始める。
「ごめんね、葵さん。こんな形で再会することになってしまって」
「いいえ、別に構いませんよ。私が不本意でも、木嶋さんにとっては満足でしょ?心の底ではざまぁとか思っているでしょ?」
「そんなことないよ……」
「嘘つけ、ほら笑え!」
と葵さんは木嶋さんに襲い掛かろうとする。
だが、木嶋さんの近くにいた彩華さんが止めに入る。
「そうはさせませんよ」
「邪魔をするな西園寺!」
葵さんは彩華さんの胸倉を掴んだ。
一方、彩華さんは表情を変えることなく淡々とこう言った。
「ほら、攻撃でも仕掛けたらどうですか?」
葵さんを煽るような発言。
葵さんを怒らせても大丈夫なのだろうか?
ここは生徒室で会長がいる。それを覚えているのだろうか?
と生徒会長を横目で見るが、生徒会長は、止めることもなく、黙って見守る。
葵さんは彩華さんを掴むのをやめ、距離を取る。
二人は互いの隙を伺う。
「私に勝てるのですかね葵さん?」
「貴方こそ、私に勝てるとも……」
「もちろん、勝てる自信はありますよ!」
葵さんが攻撃を仕掛ける。最初に左足で葵さんの顔を蹴り飛ばそうとするが、彩華さんにかわされる。
だが、そんな事は計算済みだったのだろう、一回転した葵さんは、勢いのまま、右足の方で、左顔面を狙った葵さん。
彩華さんは葵さんの攻撃を防ぐ。
だが、結構、重い攻撃だったのだろう、彩華さんは、攻撃を防ぐも、苦痛な表情を見せる。けれど、すかさず、彩華さんは葵さんの足を掴む。
そして、無防備の葵さんの腹に膝蹴りを入れた。
葵さんは、咳き込み、その場に倒れ込む。
「私には勝てないと思いますが……どうです?降参しませんか?」
「降参なんてしないですよ!」
立ち上がった葵さんは、彩華さんに襲い掛かる。
だが、そんな葵さんにも冷静な彩華さん。
「無駄な事を」
「二人とも、やめてください!」
二人の間に割って入ってきた木嶋さん。
葵さんは拳、彩華さんは蹴りを木嶋さんがいるギリギリのところで止めて見せた。
葵さんは死んだ目をしながらこう言った。
「あぁー……せっかく楽しかったのに邪魔しないでくれますか?」
「ごめんね」
「なら、そこから離れてください、もしかしたら、怪我しますよ……」
「私は怪我をしても構いません」
動こうとしない木嶋さんだが、足が震えている。
そんな木嶋さんを見てなのか、不適に笑みを浮かべた葵さんはこう言った。
「なら、こういう事をしても良いと言う事ですよね!」
木嶋さんに攻撃を仕掛けようとする葵さん。
彩華さんと俺は葵さんの攻撃を止めようとするが、間に合わない。
このままでは、葵さんの攻撃を受けてしまう!
「暴れるのはそこまでにしてもらおうか」
そこに早坂会長が止めにはいり、葵さんの攻撃が止まった。
葵さんは、会長を睨みつける。
「私の邪魔をするなら、貴方でも容赦はしませんよ」
「そうかい。それは構わないけど、僕もね、こういう立場上、沢山の修羅場を経験しているんだ。だから僕を倒すのはそう簡単ではないと思うよ」
と穏やかな笑みをこぼす会長。
この場で、この余裕感は強者の風格と言うやつなのだろうか?
「あまり、女性に手を出すのはやりたくないから、ここで引いてくれたら嬉しいけど……」
「いいですよ。今回だけは手を引きますよ……」
「そうかい。ありがたいことだよ」
「じゃあ、私は帰りますから」
「まぁ、僕の意見を受け入れてくれたから、今回だけは良しとしよう」
葵さんは生徒会室を出ようとした。
「待ってください!」
「何、触らないでくれる?」
「私に一度だけ……もう一度だけ、葵さんと会話するチャンスをくれませんか!」
「嫌です。貴方と話すことはありません……」
無情にも、木嶋さんの手を振り解き、葵さんはこの場からいなくなるのであった。
葵さんがいなくなった後
「僕がいたにも関わらず、力になれなくて申し訳ない」
「いいえ、大丈夫です…」
このとき木嶋さんは何を思っているのだろうか?
俺には、わからないが、ただ言えることは一つ。
木嶋さんはまだ、葵さんのことを諦めていないと言うことだ。
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