47
木嶋さんが居なくなってから1ヶ月が経った。
「あ、あの和真君!良かったら私の料理食べてください!」
と恥ずかしそうに顔を真っ赤にした葵さん。
葵さんは今、俺に厚焼き玉子を食べさせようとしている。
なので、俺は葵さんの卵焼きを食べる。
「ど、どうかな……」
「うん、美味しいよ」
「そう、良かった……」
と安堵する葵さん。
葵さんは昔と違い、とてもおとなしい性格になった。
本人曰く、「これが本当の姿だ」と言う事らしい。
あざと可愛い葵さんも良かったが、この葵さんはどこか初々しさを感じて前よりも可愛い。
「どうしたの和真君?」
「いや、別になんでも無いよ」
葵さん!まじ可愛いです!
と葵さんの可愛さに惚れ込んでいた俺。
すると凄い勢いで、彩華さんが俺達の前にやって来た。
「和真殿……」
机をバン!と叩いた彩華さん。
一体何なのだろうか
彩華さんから何とも言えない威圧感を感じる。
俺は息を吞んだ。
「聞いてください和真殿。今度この近くで大きなお祭りがあるそうです」
と、真剣な物言いで言った彩華さん。
はっきり言って、そんな真剣に言う事でもない。
それにそのお祭りがあることは俺も知っている。
なぜなら、そのお祭りは地元では結構有名なお祭りで俺は、かなり前から知っていたからだ。
「うん、知っているよ」
としか言いようがない。
「なら話が早いです!」
すると彩華さんは目を輝かせてこう言った。
「私、行ってみたいです!お祭り!」
そして、彩華さんは葵さんに「どうでしょう?お祭り!」と聞き、一人ぼっちでお弁当を食べていた駒形さんの方に行くと「一緒に行きましょう!お祭り」と、駒形さんを無理矢理俺達の方へ連れてくる。
「和真殿!このメンバーでお祭り行きましょう!」
幸いにもみんな、その日は予定がなかったため俺達はお祭りに行くことになった。
だが、その前に下準備があるそうだ。
ーーお祭り当日。午後3時ーー
俺は彩華さんに呼び出され、彩華さんが集合場所に指定した場所で待っている。
だが、俺は今とても気まずい……
なぜなら、俺は今、駒形さんと二人っきりであるからだ。
「駒形さんも早かったですね……」
「なに悪い?」
「いいえ」
折角、この空気を変えようと話を振ったのに見事空振り。
俺達は終始無言が続き、葵さんと彩華さんが来たところで、やっとこの空気が和むのであった。
「皆さん行きましょうか!」
「うん、行こう!」
と張り切る女性軍。
俺はその輪に入れない。
なぜなら、この後の内容を聞いてないからだ。
「えっと、皆さん今からどこへ行くんですか……」
と聞くと、彩華さんに「えっ?!分からないんですか?!」
と驚かれた。
そして、はぁ・・・・・・とため息をつかれた後にこう言った。
「浴衣を買いに行くんですよ!」
なるほど、浴衣か・・・・・・
それで、俺はせっかくの休日に駆り出されたわけか・・・・・・
と言うことで俺達はデパートに向かった。
デパート
「和真君はどんなのが好みかな」
と恥ずかしそうに尋ねてきたのは葵さん。
恥ずかしがる葵さん!まじ天使!です!
と思いながら、葵さんが似合いそうな着物を見る。
「そうだね、俺は」
葵さんは何を着ても似合いと思うが、葵さんには葵だけに青い浴衣とか、どこか涼しさを感じるようなのを着て欲しい!
と思いながら俺は青の着物を指を指そうとしたら……
「別に葵さんが好きなの買えばいいと思うよ。わざわざこいつの好みに合わせる必要はどこにも無いよ」
と俺を睨む駒形さん。
特に駒形さんに恨まれることはしてないが、今日の駒形さんはやたらと俺にあたるような……
まぁ、あまり関わらないようにしよう。
すると、誰かが、俺の手を引っ張る。
「見てください和真殿!私、似合っていると思いませんか?!」
彩華さんが俺に着物を見せた。
正直、彩華さんは洋服よりも着物とか似合いそうなイメージがあるから、どれもとても似合うと思うが……
「うん!似合うと思うよ!」
「なら早速着替えてきます!」
彩華さんはとても上機嫌に試着室に向かって行った。
そして、数分後に駒形さんが
「私も着替えてくるから後よろしく」
と言い残し、着替えに
葵さんは、着物を選ぶのに迷い、ほかの人達よりも遅くなってしまったが、無事に着替え室へ行った。
俺は30〜40分くらい外で待たされ、皆んなが着替え終えたところで、ら○んで呼び出しを受けた。
「改めて伺います。私似合ってます?」
白い着物で現れた彩華さん。
髪の毛を一つ縛りに結び、少し大人びていて、素敵だ。
「うん、とても似合っているよ!」
「ありがとうございます!和真殿大好きです!」
と俺の腕に絡んできた彩華さん。
彩華さんからはいい匂いがする。
あと、胸が当たっているんですけど!
「わ、私はどうかな」
「素敵です!葵さん」
葵さんは文句の付け所がないほど素敵だ。
「ありがとう」
彩華さんとは反対の腕にさりげなく絡む葵さん。
こちらも胸が当たっているのですけど!
そして、最後に駒形さん。
「ど、どうかしら?」
もじもじと恥ずかしそうに聞いてきた駒形さん。
恥ずかしがっているが、滅茶苦茶似合っている。
もしかしたら、この中で一番かも知れません!
「あ、あんまりじろじろ見ないでくれる」
「あっ、ごめんつい。可愛くて」
駒形さんは顔を真っ赤にした。
そして、俺を睨みつけ
「な、なによ急に!」
今日は機嫌が良くない駒形さんを、より一層機嫌を悪くさせてしまった。
こうして下準備も終わり俺達はお祭りへ
お祭り会場
「これがお祭り……なんて素敵な場所なんでしょう!」
はしゃぐ彩華さん。
子供じゃないんだから、もっと落ち着いて欲しい。
「人、多いですね……」
葵さんは俺の服をぎゅっと掴んだ。
「葵さん離れないでね」
なんだこの気持ち!
服を握られただけで、物凄くドキドキしている!
「和真殿行きましょう!」
「あっ!ちょっと」
「和真君!」
「葵さん」
葵さんとの仲を引き裂くように俺を連れ出す彩華。
これでは、葵さんが一人になってしまう!
「葵さん!」
「和真君!」
「大丈夫。葵さんは私に任せて、あんたは彩華さんと回ってきなさい」
駒形さんは葵さんを連れ、俺達とは反対の方へ行ってしまった。
そして、俺は、彩華さんに腕を引っ張られながら、色んなところを散策するのであった。
「和真殿、少し休憩をしましょう」
色んな所に振り回された俺はもうクタクタだ。
彩華さんは、お手洗いに行ってしまったため、やっと一人になれる時間を確保できた。
ーー10分後ーー
彩華さんがなかなか帰ってこないが、一体あの人はどこで道草を食っているのやら
俺は彩華さん捜しに行った。
すると、彩華さんらしき人と、2人組の男性がいた。
「ねぇねぇ、いいじゃん。俺達と一緒遊ぼうよー」
「困ります」
「良いから、俺達と遊ぼうぜ」
「やめてください!」
と言う声が聞こえた俺は、急いで彩華さんの所へ駆け寄った。
「彩華さん!」
「か、和真殿……」
彩華さんが男性二人にナンパされて困っている。
助けなければ!
だけど、この二人をどう相手にすれば!
俺では勝てないのは明白。
ならば彩華さんを連れて逃げるのが一番だ
俺は彩華さんの腕を掴む。
そして、この場から逃げようと
「おっと、ちょっと待とうか」
そんな……
一人の男性が俺達の前に立ち、俺らは逃げられなくなった。
どうしましょう・・・・・・
これじゃ、彩華さんを助けられない。
「どうしましょう……」
うん?
気のせいだろうか彩華さんの様子が変だ。
やたらと荒い息が聞こえるのだが……
いや、まさか……
こんな時に
「和真殿!これってピンチですよね!」
と興奮している彩華さん。
彩華さんは今、自分がおかれている立場を分かっているのだろうか?
「あ、あのあなた達は一体、これから何をなさるつもりなんですか?」
「いや何って……」
彩華さんの様子がおかしくなったことにこの二人も気付き、少し引いている。
「もしかして、私を辱めようと……」
「いや、そんなことは・・・・・・」
「そんな事言っても無駄ですよ!良いですか!私は貴方たちごときに屈しませんから!」
とナンパしてきた男性に詰め寄る。
そして、ナンパしてきた男性は困り果てる。
なんだか、この変わり者をナンパした男性達が可哀想に見えてくる。
「あっ、俺達用事があるっけ!ごめんね!」
「待ってください!」
ナンパしてきた男性を捕まえようとする彩華さん。
さっきまでと立場が逆転している。
「あー、逃げられちゃいました」
彩華さんは、男性を
ナンパされて興奮する女性なんていないのだから
彩華さんに呆れながら俺は彩華さんの手を取る。
「ほら、行きますよ」
「きゃ!きゃずまどの!」
と驚く彩華さん。
どうして、そんなに驚くと思い彩華さんの顔を見ると、彩華さんは下を向いている。
「ごめんなさい!」
あっ!馬鹿だ!
なぜ、彩華さんの手を無意識に握っているのだ!
あぁ!絶対彩華さん怒っているよ
「いえ、こちらこそ。つい不意をつかれたと言うか……」
すると、彩華さんの手が視界に映る。
「その、良かったら手を繋いで下さい。ほら、またはぐれたらまずいですので……」
恥ずかしそうに手を俺に出す彩華さん。
俺はその手を優しく握り、みんながいる場所へ向かう。
ぎゅっと俺の手を握る彩華さんに俺もぎゅっと手を握る。
まるでこの時間だけが、本当の恋人のようだ……
とちょっとロマンチックな事を思ったのもつかの間
「和真殿!あれは何ですか?!」
「えっと、射的ゲーム」
「その射的ゲームは楽しいですか?」
「ねぇねぇ教えてください!和真殿!」と体を思いっきり揺らす彩華さん。
なんだか、思っていた展開とは違う!
と思いながらも俺は射的ゲームを教えてあげることにした。
だが、俺は説明は下手なので、実践して貰って射的ゲームの楽しさを知ってもらう事にした。
まぁ、お祭りの射的ゲームなんて、大した景品も取れず、すぐに飽きるゲームだが……
「やりました!和真殿!」
彩華さんは獲った景品を嬉しそうに俺に見せる。
俺はどう言う顔をすべきだろうか?
ここは喜ぶところなのだろうか?
なにしろ彩華さんが持っている景品。
それは大きなクマのぬいぐるみ。
普通、取ることなんて無理な景品なのに彩華さんは、いとも簡単にとってしまった。
「ちょっと二人とも何しているの!」
そこへ現れたのは駒形さんと葵さん。
すると、葵さんが顔を膨らませ、俺達を睨みつけながら迫ってきた。
「二人だけ、楽しんでズルいです!」
そして、葵さんは俺を手を取ると顔を赤くしこう言った。
「もっと私に構ってください」
さりげなく俺の腕に絡む葵さん。
やばい!やばい!どうしよう!
葵さんの胸が当たっているのですけど!
「あっ、ズルい!和真殿!もっと私にもお祭りの楽しさを教えてください!」
今の状況は夢なのか……
彩華さん、葵さんの二人の美女が俺をめぐり争っている。
俺は互いに俺を引っ張る。
そのたんびに互いの胸に腕が当たる。
そんな事より、俺なんかのために争わないでくれ!
「ちょっと二人とも争うのはやめて!」
すると、俺を取り合っていた二人がピタリと駒形さんを見る。
「もう少しで、花火があがる時間だよ!だからこんな奴に時間をさいている時間がないよ!」
「そうですね」
「そうだね」
今までの争うがなかったかのように俺の腕から離れた二人。
なんだろう。
解放された嬉しさはあるが、こうもあっけなく、離れられると悲しい・・・・・・
花火があがり始めた。
俺と彩華さんのせいだ。
俺達は好位置で花火を見れる場所に失敗した。
そのため、だいぶ後ろから見ているが・・・・・
「綺麗ですね和真殿・・・・・・」
「うん、綺麗ですね・・・・・・」
「ちょっと和真殿!そこは貴方の方が綺麗ですよ的な事を言ってくださいよ!
本当は、花火より彩華さんの方が綺麗だ。
だが、そんな事を言えない。
ここには彩華さん以外にも駒形さんと葵さんだっている。
駒形さんはともかく、葵さんがやきもちをやいたりしたら困る。
「駒形さん見えないのですか」
「えぇ、ちょっと見づらいかも・・・・・・」
駒形さんは背伸びをしたりするが、見えないらしい。
こうなったのも俺と彩華さんのせいだ。
そう思った俺は、ある行動に出た。
「駒形さん。暴れないでくださいね!」
「ちょ、ちょっとあんた!何を!」
「これで見えますか!?」
「ま、まぁ、見えるけど……これは恥ずかしい!」
と暴れだす駒形さん。
俺は今、駒形さんを肩車している。
だから暴れるととても危険だ。
「駒形さん、暴れないで!」
「な、なら降ろしなさいよ!」
駒形さんは俺の頭をポカポカと叩く。
駒形さんが嫌がっている以上、降ろすしかないと思った俺は駒形さんを下した。
「あぁ!恥ずかしかった!」
「ごめん、駒形さん」
「で、でもありがとう。そ、その私のために・・・・・・」
俺と顔を合わせない駒形さん。
多分、駒形さんは照れているのだろう。
そんな駒形さんのちょっとした一面が地味に可愛い!
「和真殿ー私も花火が見えなくなりましたー」
と棒読みで俺の助けを求める彩華さん。
彩華さんも俺に肩車をして貰おうとしているのだろう。
「彩華さんは見えていますよね」
「み、見ませんよ」
と嘘だと分かりやすいほど、嘘をつく彩華さん。
彩華さんはとりあえず無視。
あれ?
「和真君、私もおんぶして」
と子供のように目をキラキラさせ俺を見る葵さん。
やばい、滅茶苦茶可愛いだけど・・・・・・
「駄目かな?」
いいや駄目じゃないです。葵さんだけ特別に……
「和真殿、もしかしてですけど、葵殿なら特別になんて、人を差別するようなことはしないですよね」
まだ何もしてないにも関わらず、彩華さんは俺の脇腹をつねる。
これじゃあ、葵さんだけ特別扱いするのは無理そうだ。
だが、
「和真君、おんぶ」
目を輝かせ、今度は俺を手まで握りさらに誘惑をしてくる。
そんなに俺を見ないでくれ!
「お願い和真君」
ぎゅっと俺の手を握らないでくれ!
「はい和真殿。目を覚ましてください」
俺の脇腹を先程よりも強くつねる彩華さん。
俺はまだ何もしていないのに!理不尽だ!
「はい二人ともそこまで!ほら一緒に花火見ましょう。もう少しでフィナーレだよ」
空を見上げると沢山の花火が打ちあがっている。
まさに夏の風物詩。
「うわ~綺麗」
「ほんと、綺麗ですね」
そして、俺の左右には一目惚れしそうな美女が3人。
誰もがうらやみそうな光景。
俺にとっては忘れることのない夏の思い出の1ページになった。
これも彩華さんが誘ってくれたおかげだ。
ありがとう、彩華さん……
「えっ、今なんか言いました」
「いいや、何でもない」
読んでくれてありがとうございます!
次回も宜しくお願いします!




