38 動き出す木嶋さん
放課後
午後 3時半。
俺は木嶋さんに言われた通り学校の正門にいる。
けれど、木嶋さんは一向に現れない。
最後、木嶋さんを見ていた時は身支度をしていた。
だから、そろそろ来てもいい頃合いだと思うが……
俺はチラッと他の方を見る。
どうしよう……
俺は今ピンチである。
到底俺だけでは解決できないほどのピンチである。
俺のすぐ近くにいる人物。
駒形花音さんだ。
駒形さんは、今、ただ正面を見ていて、俺と顔を合わせようとしない。
きっと、向こうも俺に気づいているが、俺の顔も見たくないのだろう。
俺と駒形さんの間には沈黙とちょっとした距離が出来ている。
まるで、俺と駒形さんの間には大きな壁があるようだ。
早く、木嶋さんよ……来てくれ
そう思い続けて2分くらいだろう。
「おまたせ!」
木嶋さんが小走り気味に来た。
「木嶋さん!」
「遅い!」
俺と駒形さんの声が言葉は違えど、重なった。
もしかして、俺と駒形さんの待ち人は……
「二人とも、おまたせ」
どうして……
木嶋さんは俺と駒形さんを呼び出していた。
木嶋さんは理由は知らないが、俺が駒形さんに会いたくないことは知っている。
それなのに、駒形さんに会わせてくるとか……
俺は少しだけ、木嶋さんに裏切られた気持ちになった。
「木嶋さん。どういうつもり?」
駒形さんは木嶋さんを睨みつける。
なにせ、俺がいることなんて聞いていなかったのだから当然だ。
「黙っていてたことは謝る。だけど駒形さん」
木嶋さんは駒形さんの目を見る。
「私は二人とも、仲良くなってほしい。そしてみんなが笑える日常を作りたいの。だから、二人を呼び出したの」
木嶋さんの目はどこか、情熱のようなものが宿っているように感じた。
けれど、駒形さんには情熱はない。
「無理だわ、みんなが笑える日常なんて……」
駒形さんは下唇を強くかんだ。
そこからは、悔しいさと何かを堪えているような感情をしていた。
「そんなのまだ分からない……」
木嶋さんは強く拳を握りしめた。
それほど、木嶋さんの思いが強いと伝わる。
だけど、どうしてそこまで言えるのは分からない。
あの頃の皆はいないのに、どうして、それを取り戻そうとするのか分からない。
それにこのままの現状で木嶋さんにはメリットもある。
このまま、取り戻そうとしなければ、木嶋さんが俺の彼女になる権限を手に入れることもできる。
それなのに、みんなを取り戻す?
「木嶋さん、どうしてそこまでするの?」
分からない
分からないよ木嶋さん。
どうしてみんなを取り戻したいの分からないよ。
すると、木嶋さんが俺の手を握り締め、こう言った。
「和真君、私はこのままの状況で和真君の彼女になりたくないの。みんなと和真くんを取り合って、そこで初めて和真君をゲットする。そして、みんから、おめでとう!って祝福されたいの」
木嶋さんの考えはとても立派だ。
こんな状況下でもそんなことを言えることは見習いたい。
だけど木嶋さん。
木嶋さんの考えは、ただの理想だ。
みんなと取り合う?
それ自体、もう無理だ。
みんなバラバラになり、俺のことが好きだった、葵さんに彩華さんは俺に冷めてしまった。
だから、取り戻すなんて無理に決まっている。
そう思う俺とは裏腹に、木嶋さんが駒形さん、俺を巻き込まみ動き出す。
「さぁ!二人には仲良くなって貰うよ!」
俺と駒形さんは木嶋さんに引っ張られ、ある場所に連れて行かれた。
次回に続く
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