29 敵
俺のことが好きだった、彼女達は敵だ。
だから目の前にいる木嶋 唯も敵である。
「やっぱり私、和真君が葵さんを襲うなんてことしないと思うの。だからね、和真くんのこと信じてみてもいいかな?」
朝、登校するなり俺に喋りかけてきた木嶋さん。
物凄く不愉快で木嶋さんの声が鬱陶しく思う。
それに、なにが信じてもいいかな?だ。
もう遅いに決まっている。
「……」
俺は席を立ち上がり木嶋さんから距離をとる。
「ま、待って……私を無視ししないで」
木嶋さんが俺を掴んだ。
「離してくれる?」
木嶋さんを見る、俺の目はきっと死んでいる。
だけど、あんなに好きだと言ってくれた人から、信用して貰えなかったのだ。
だから仕方がないことだ。
俺は木嶋さんを振り払った。
その時、木嶋さんはどんな表情で俺を見ていて、何を思っていたのかは分からない。
もしかしたら、泣いているかも知れない。けど俺には関係のないことだ。
だが、木嶋さんは、諦めず声を掛けてきた。
「あ、あのさぁ、和真君。良かったら一緒にお弁当食べない?」
いかにも、無理して笑顔を取り繕っているように見える木嶋さん。
見ているだけでうんざりする。
多分、この教室に誰も居なかったら、木嶋さんを突き飛ばし「もう、二度と近づかないでくれる?」なんて言葉を残して去るだろう。
けど、クラスメイトがいる中ではそんなことは出来ない。やったところでクラスの敵になる。
俺は木嶋さんを無視し食堂へ向かうことにする。
「待って和真君……」
俺は一人、食堂でご飯を食べた。
今までは、誰かが俺と一緒にご飯を食べるのが当たり前だったがもう、いない。
だが、一人でも十分いいかも知れない。
「はぁ……いつまでうじうじとしているのかしら情けない」
聞き覚えのある声がした瞬間、机の上に物凄い量の食べ物が置かれた。
これをあの人が、食べるとは思えないが……
「なにしに来たの?駒形 花音さん」
「ふん、あんたにフルネームで呼ばれるなんて初めてだわ」
鼻を鳴らし相変わらず偉そうな態度を示す駒形さん。
そんな駒形さんが昔は苦手だったが、今はなんだかとてもムカつく。
そんな俺を他所に黙々と沢山の料理食べ始める駒形さん。
俺は、駒形さんの近くには居たくない……
あの人も俺の敵である。
俺は食べていた料理を持ち席を立ち上がった。
その時だった
「ねぇ、あんた。本当は清水さんを襲っていないでしょ?」
この人もなんだ。いまさら……
昨日は「証拠がないなら信用できないわね」なんてセリフを吐いたくせに、今日になって「襲ってないでしょ?」なんて……
どいつも、都合が良すぎる。
俺が昨日、どういう気持ちで冤罪であることを弁明したのか分かっていない。
俺は今にも駒形さんに激怒しそうだ。
なので俺は怒りを抑えるために、必死で拳に力を入れた。
そして……
「いいえ、僕が襲いました。もうそれでいいです。だからもう関わらないでください……」
もう、これでいい。
いまさら信じてもらわなくても結構。
だから俺に関わらないでくれ……
俺は駒形さんから距離をとるのであった。
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