82話 決戦の海:後編
海水浴…2日目。お姉ちゃんと近衛は昨日みたいに海の中へ。私も昨日と変わらず浜辺で読書。…これもしかしたらマズイ?本来ならお姉ちゃんと距離を詰めるいいイベントのはずだよね…。
チラッと海の方を見ると…楽しそうにお姉ちゃんが近衛と水かけあってる。くそ…カップルかよ。
チラッと見ただけのつもりだったけど近衛と目があった。ちょいちょいと手をこまねいて私を呼ぶ。…可愛いな。
結局その呼びかけには応えず読書を継続した。
「うぅ…」
「大丈夫?近衛ちゃん」
しばらくするとフラフラになった近衛を支えてお姉ちゃんが帰ってきた。
「・・・どしたの?」
「なんか体調が悪いらしくて」
「かたじけない…」
近衛は大丈夫と言うけど…とてもそうは見えない。
「ちょっと私医務室へ行ってくるね!」
お姉ちゃんはダッシュで医務室に向かっていった。私は……ん?
「近衛…これ…」
「何でござるか…これ…」
近衛の足には…かなり小さいが傷がついていた。
「毒かもしれない!抜くよ!」
「えっ!?ちょ!待つでござる!」
近衛の足…正確には太ももの内側に口をつけてチューチュー毒を吸い出す。漫画の知識だけどこうやってやってた…はず。
「汚いでござるよ!やめるでござる!」
足を閉じてくるんだけど逆効果だからそれ!むしろ離れなくしてるから!
「近衛に汚いところなんてない!」
・・・あれ?なんか違くないこれ。
「近衛ちゃん!医務室の人連れてきたよ!」
お姉ちゃんが身長の高い女医さんを連れてやってきた。
「ちょっと見せてもらえますか?」
女医さんの言葉に素直に股を開く。私には抵抗したくせに…。なんでモヤっとしてるんだ私は…。
「こ、これは---」
女医さんが驚愕の声をあげる。
「な、何か重大なことでもあるんですか?」
「こ、近衛は助かるんですか?」
「これは--ミズクラゲに刺されてますね…普通大人では刺されたことに気づかないくらい弱い毒性なのですが…」
「「「・・・えっ?」」」
3人の声が重なる。そんな弱いクラゲの毒でこんなに弱ってるのこの子。
「痛みを感じたり体調が悪くなるのは小さな子どもなのですが…」
「まぁ…近衛ちゃん肌プニプニで若々しいし…」
「そういう問題?」
「うぅ…」
ありゃりゃ。近衛が顔真っ赤にしちゃったよ。
「一応詳しく診たいので医務室までよろしいですか?」
「は、はい」
フラフラと女医さんについて行く。私とお姉ちゃんもついて行こうとしたけど小一時間休めば戻れるらしいから留まることにした。
「ねぇ桜、海には入る気ないの?」
「・・・そうだけど」
「はぁ。じゃあついて来て。すぐそこに小さな洞窟があるらしいから。見てみよ?」
「う、うん」
ここまでしっかり頼まれたら断れないじゃん…バカ。
小さな洞窟ってのは言葉通りめっちゃ小さくて観光客は誰一人近づいていなかった。でも…うるさくないし涼しいからアリかな。
「ねぇ桜、近衛ちゃん戻ってきたらちゃんと海で遊んであげなよ」
「・・・何でさ」
「はぁ。鈍感だなぁ桜は」
「はぁ?何言ってんの」
「近衛ちゃん、きっと桜のこと好きだよ」
「えっ……」
『好き』その言葉を、受け止めることができなかった。だって…だって…
「何固まってるのさ。隅に置けないなぁ〜このこの!」
「うるさい…」
「へ?」
「うるさい!私の気持ちに気づかないくせに!何が鈍感よ!何が隅に置けないよ!バカお姉ぇ!」
「え?ちょ、桜?」
走り出して逃げたい…けど洞窟が狭すぎて逃げるところが無い…。そうだ…逃げたって仕方ない。もう、言おう…。
「私は…お姉ちゃんが好き」
「・・・えぇ!? え、一応確認するけど…そういう『好き』?」
「・・・そういう好き」
やっちゃった…本当なら輝夜さんの弱みを握ってお姉ちゃんから剥がした後に弱ったお姉ちゃんの心につけ込む算段だったのに…我慢できなかった…。
「あっと…えーっと…その…私は輝夜ちゃんが…」
「うん。わかってる」
だからこれは---失恋。本当はどこかでわかっていた。どうせうまくいかない恋だって。輝夜さんの弱みを探してお姉ちゃんを弱らしてそこに付けいったって、そんなの長続きするわけない。
「だからさ、気を遣わないでちゃんと言って欲しい。ちゃんと…断って欲しい」
「・・・うん。…ごめんなさい」
涙が…ダメ!堪えろ私。
「・・・じゃ、浜辺に戻ろっか。近衛も戻ってきてるだろうし」
なんとか、なんとか涙を堪えることができた。
「うん」
お姉ちゃんが優しく頷いてくれる。本当の意味で姉妹に戻ったと勝手に思ってるけど、お姉ちゃんはどう思ってるのかな。
「あ、近衛いた」
「ご心配をおかけしたでござる…」
「いいっていいって。さ、帰ろっか!」
気づけばもう夕暮れ前。バスでそこそこかかるからもうお開きか。
「ぐぅ…」
「・・・灯先輩は寝ちゃったでござるな」
「そうだね…すごいなこの人」
普通告白された直後に本人の前で寝れるかね。いやでもこれからも普通に一緒に暮らすのか。うわ…気まず…。
「それで、何があったでござるか」
「・・・え?」
「とぼけても無駄でござる。何か我慢してるのでござろう?」
その言葉を聞いた瞬間、特に深い言葉でもないのに、我慢していた涙のダムが決壊した。
「あれ?…変だな…私、うっ、ぐっ…」
涙を流す私をそっと近衛が抱きしめた。
「・・・なんで?どうして気づいてたのさ」
「そりゃあずっと見ていたからに決まってるでござる」
「本当に…それだけ?」
そんなので説明なんかつかない。お姉ちゃんが好きなこと、まして今日告白したことなんて近衛には知る由も無いはずなのに。
「好きだから。好きな人の小さな変化くらいわかるでござる。これで納得したでござるか?」
一度は引っ込んだ涙が、またこぼれ落ちる。
「何それ…アンタが弱った私に入り込んでどうするのさ…」
溢れた涙が枯れるまで、近衛の胸を借り続けることができた私は…きっと今世界で一番幸せな涙を流しているんだと思う。




