65話 最期の業火
風が吹き終わり、目を開けるとそこはーーーー
「・・・[新星乃川]駅!」
すごい偶然! 今朝の集合場所である駅にランダムで飛ばされるなんて!
[新星乃川]駅は[星乃川]駅とそんなに離れていない。だから・・・
「だから会っちゃうんだね。【ベビーラテラル!】」
「よう。久しぶりじゃねぇか」
木刀を肩に添える姉御肌な魔法少女、【ベビーラテラル】が目の前でニィッと笑った。
なるほどね・・・これが運勢「凶」か・・・。当代魔法少女最強格の一人との再戦…キツい! なんか最近強い魔法少女とばっかり戦ってる気がするんだけど!
「見逃しては…?」
「あげねぇな!」
ですよねぇ。
「・・・これはアタシの最後の戦闘だ。勝利、もぎ取ってやるからな」
そう言って木刀をヒュンッと振り下ろす。最後の…つまり次の戦闘がある6月25日までに誕生日が来ちゃうってことか…。そこで気になるのが…
「ポイントは1000に行きそうなの?」
「・・・教えてやる義理はねぇな。そろそろ始めるぜ!」
「そうだね。来て![メルヘンロッド]」
「最後だ!気張れよ[護身木刀!]『フレイム付与』」
【ベビーラテラル】の木刀がメラメラと燃え上がる。赤い髪によくマッチするその見た目は最強格にふさわしい圧を持っていた。
私の越えるべき壁。ナイトと並んで戦うために倒さなきゃいけない相手!
幸い【ベビーラテラル】はこれ以上の形態を持っていないというのはクリスマスの戦闘で確認済み!
「『サンダーボール!』」
先手必勝! 20mの距離を雷球が走る。
「しゃらくせぇ!」
その雷球を雄叫びと共に木刀でかき消された。正直これは想定内。大事なのはちゃんと距離を保つこと。どう考えても【ベビーラテラル】は性格も含めて超近距離型だからね。
「へっ!アタシに近づかなきゃいけると思ったか!?『フレイムボール!』」
火の玉で遠距離から攻撃してくる! 本当は私だって通常攻撃で華麗に打ち消したいけどSR武器じゃないから叶わぬ夢状態・・・。
「『サンダーボール!!』」
ただ魔法攻撃を若干UPしてくれる杖だから問題なく処理できる!
「なっ!?」
い、いない!? しまった…魔法の対処に気を取られすぎた…。
せわしなく首を振って探す・・・どこに潜んだんだろ…。あんまり静かに気をうかがうのが上手い性格には見えないんだけど…。
カランッ!と後ろから音が鳴った!
「そこか!『サンダー・・・』」
そこにはーーー木刀が一本転がっているのみ。しまった!
「『インフェルノ!』くらえやぁ!!」
わずか10mほどの距離から地獄の業火を浴びせられる。当然HPはモリモリ削られ・・・残り15を示していた。10m離れていても135も喰らうんだ…。
「・・・へぇ。脳筋ちゃんかと思ってたけど悪知恵働くんだ」
「そうでもなきゃ生き残れねぇよ。こんな化け物揃いの業界じゃな!」
確かに。真っ向から挑んでナイトや【テールインペリアル】と渡り合えるわけないもんね。
木刀はまだ私の後ろにある。『フレイム付与』に『フレイムボール』。おまけに『インフェルノ』まで景気良く使ったんだからMPはもうすっからかんのはず。おまけにSR武器を手放したなら…勝ち目はまだ残ってる!
「勝とう・・・って目だな。甘ぇぜ!「武器[護身木刀]スキル発動『自衛召喚!』」
「えぇ!?」
私の後ろに転がってたはずの木刀を手に持って【ベビーラテラル】がニッと笑う。
「へっ!コイツさえ戻ってくりゃ怖くねぇ!さっさと叩き潰してやる!」
ひえっ!こんな威勢がいいのにボーナスタイムになると赤ちゃんになるのがよりタチが悪い…!
木刀を持たれた以上もう近づいちゃダメだ。
「『サンダーウィップ!!!』」
中距離ならやっぱこれだね!
「おらっ! てりゃ!」
魔法ですらあの木刀を振り回すだけでかき消しちゃう。名前的に耐久力とかがすごい武器なんだろうけどそんなのアリ!?
なんとか距離を保ちつつ勝てる方法を・・・アレか。一か八かやってみるしかない!失敗したらMP的に負け確定だけど…。
「『ショットガンランプ!』」
手持ちランプに持ち帰る。持ち手をしっかり握って投げる…ふりをして
「『サンダーウィップ!!!』」
「チッ!ブラフか!あんまり上手くはねぇがな!」
またしても木刀で雷のムチを叩き斬った。でも・・・
「ん?お前さっきのランプどこにやりやがった?」
「その木刀に引っかかってるの、なーんだ!」
「何!?」
そう、木刀に引っかかってるのはーーー手持ちランプ! 雷のムチに引っかけて放ったらまんまと木刀で叩いてくれたからちゃんと引っ掛けられた!
「『ショットガンランプ』、発動!!!」
細かな光の粒子が一気に拡散して【ベビーラテラル】を襲う。ほぼ0距離で発動した『ショットガンランプ』にMPの尽きた【ベビーラテラル】は対策もできるはずがなく…。
「んんん〜!勝ったぁ!」
超格上の【ベビーラテラル】に勝てたんだ! 油断とかなく、全力のバトルで!
ボーナスタイムが始まるまでの時間、嬉しくて一人で小躍りするのでした。




