37話 頼れるみんなの姉御(魔法少女)
魔法少女の身体にさえなれば走ることだってへっちゃらになる。[星乃川駅]まで自宅からは徒歩で行ける距離じゃないけど今なら30分もかからずに到着した。
「ふぅ! デパート以来だから久しぶりってワケでもないか」
駅前の大通りには沢山の商店街がある。きっとクリスマスの日には大勢の人で埋め尽くされるんだろう。あんまり混むのは嫌だな。どさくさに紛れて輝夜ちゃんに痴漢する不届き者もいるかもしれないしね。
「じゃあ今度は駅裏かな〜」
「待ちな!」
ビクッ!!っと身体が震えた。恐る恐る振り返ると...
「見ねぇ顔だな。新入りかい?」
赤いギザギザの長髪。胸から腰までグルグルに巻いたサラシに、ぶかぶかの炎柄のズボン...
「はい...新入りですけど...」
一言だけ叫びたい!
「それ魔法少女じゃないですよね!?」
「あん?魔法が使える女だから魔法少女でいいだろ。文句あっか」
あるよ! 大アリだよ! 魔法少女はそんな姉御肌な女ヤンキーの格好して街を練り歩かないよ!
「アタシは【ベビーラテラル】あんたも名乗んな!」
「わ、私は【ハニーランプ】。今年魔法少女になったばかり」
「ハッ!やっぱり新入りか。ツイてるぜ...」
【ベビーラテラル】は品のない行動を躊躇することがないのか舌をペロッと出して唇を舐めた。
「悪いな。アタシにはもう時間がねぇんだ。全力で狩らせてもらうぜ!」
時間がない...? 魔法少女として戦っている間は等しく実際には1秒しか経ってないはず。もう一つ関係のある時間と言えば...
「なるほど。19歳ってことですね」
【ベビーラテラル】がちょっと驚いた顔をした。
「そういうことよ。頭の回転はいいじゃねぇか」
生きてきて初めて頭のことで褒められた。ねぇさん!超いい人!
「んじゃ早速行くぜ!来い![御神木刀!]」
「行くよ...[メルヘンロッド!]」
・・・木刀って!? いやめっちゃ似合ってるというか、見た目的にそれしかしっくりこない武器ではあるけど!
名前的にSR武器だよね。注意しないと。
「おりゃあ!!!」
とりあえず力任せに突っ込んできた! 駅前のロータリーはひらけてるから環境的には不利かも。
だったらーーー
「ジャーンプ!」
もう恒例すぎるジャンプで駅の屋上へと飛ぶ。
「あっ!ズリィ!」
幸い【ベビーラテラル】はジャンプ能力向上スキルは持って無いみたいだね。
「じゃあ上からもう勝負を決めちゃおうかな?『ハニートラップ!!!』」
私の切り札。大量のハチミツが頭上から【ベビーラテラル】に襲いかかる。
「なにぃ!?」
ドロっとしたハチミツを全身に受けた姉御は身動きが取れなくなったことを確認して駅の屋上から飛び降りる。
「ふぅ。なんとか成功したぁ! じゃ、勝てせてもらうね」
「チッ! 『ベビーパウダー!』」
「えっ!? うわぁ!!」
頭上に現れた魔法陣から白いふわふわした粉が降りかかってくる。
「ゲホッ、ゴホッ」
むせて咳をしている間にヒュンッ!という音が前から聞こえてくる...嘘でしょ!?
「いやー焦ったぜ。やるじゃねぇか」
『ハニートラップ』が...破られた!?
実力派で通ってるナイトにだって決まれば必勝の技だったのに、あっさり跳ね除けられた...
「さぁ本番だ。『フレイム付与』」
木刀がメラメラと燃えだす。いやおかしいでしょって思ったけど御神木からできてるらしい名前だからきっと特別製で火にも強い...ってことにしておこう。
「うりゃあ!!」
「ひいっ!」
思っきりビュンビュン燃える木刀を振り回してくる。どう考えても当たったらえげつないダメージを持ってかれそうな勢いだ。
「くっ! 『サンダーボール!』」
「しゃらくせぇ!」
ええ!? 気合いで魔法をかき消すってそんなのアリ!?
「この木刀はーーうりゃあ! 色んな耐性があるんだ!ーーおりゃ!」
ヤバイ!このままじゃ確実に押し負ける。
こういう時はーーーー
「ジャーーンプ!」
跳んで逃げようとしたその時...
「逃すかぁ!!」
バチッッ!! と背中に木刀が叩きつけられた!
「うっ.....」
「へっ! 撃ち落としたりぃ!」
HPが40も削られる。なんだかんだ通常攻撃でしかないのにこの威力...
「逃げられない...か」
「覚悟!」
すごく強い。でも
「ナイトほどじゃ、ない!!」
あの槍さばきに比べれば全然マシ!
サッとダンスの要領で木刀を避け、【ベビーラテラル】の右側へ回り込む。
「なっ!?」
「『インフェルノ!!!!』」
爆炎が手から放出される。その反動で自分もちょっと後ろへ吹き飛ばされた。
よしっ!ゼロ距離で『インフェルノ』なら勝てた!
「悪いな。アタシは強えんだ」
「嘘...」
「ユニークスキルで横からの攻撃を戦闘中一回のみ無効化できる。まぁ『インフェルノ』ほどヤバイ魔法なら30くらい喰らっちまうけどな」
もうMPは尽きた。通常攻撃のみであの木刀とやり合わなければいけないなんて...
「それと、『インフェルノ』はお前だけのモンじゃねぇ」
スッと手を私に向ける。
「『インフェルノ!!!』」
「うわっ!?」
赤い業火に包まれる。HPがみるみると減っていき、残り110あったHPも残り15を示していた。
「しぶといな」
「やっ!」
「っと!」
通常攻撃もかき消される。MPは0でHPもロクに残っていない。
「うぅ...」
「まぁ頑張ったと思うぜ。アタシにここまで技を使わせたんだ。今後は自信を持ちな。っつーわけで...うりゃあ!」
木刀が私の身体を叩き、それと同時にHPが0を示した。




