11話 甘い誘惑
急いで川の方へ向かって走ること2、3分。河川敷が見えてきた。
「遅いデスよ! 逃げたかと思いましたよ!」
「【スニフマリー】が天真爛漫すぎるだけじゃないかな……」
言うつもりはなかったけど思わず本音が漏れちゃった。
「さぁて! 勝負を始めるデスよ!」
「うん。やろう!」
今日も勝って、輝夜ちゃんと結ばれる日を一日でも早く!
「来て! 『メルヘンロッド』」
可愛い杖が召喚される。
「来てくださ〜い! 『サンフラワーソード』」
あっちは剣か……ってことは、できるだけ離れて戦わないと。
「いくよ! 『サンダーウィップ』」
バチチチッと音を立てて雷の鞭が現れる。消費魔力も5〜10と良心的だね。
思いっきり【スニフマリー】へ向かって鞭を打つ。
「ふっふっふっ! 『アイスガン』」
無数の氷の粒が『サンダーウィップ』をかき消した!
手数が少ないとやっぱり不便だなぁ。あと見せていない魔法は『インフェルノ』と『ハニートラップ』しか残ってない……
「まだまだデスねー! 私もまだ3年目の新人デスけど、負けませんよ!」
3年目って新人なんだ……!
ということはまだ魔法やスキルがフル登録じゃないかもしれない!
「こっちから行くデスよ!」
マズい! 突っ走ってきちゃった。
しかもこの感じ、【ネイベルナイト】と一緒でスピード向上スキルを持ってる速さだ!
切り札に取っておきたかったけど、仕方ないよね!
「『ハニートラップ』」
あたり一帯にハチミツが広がっていく。
「おおっと危ないデス!」
【スニフマリー】はなんとかハチミツを踏まないところで踏みとどまった。
ううっ、これで足止めして『インフェルノ』でチェックメイト! ってしたかったなぁ。
「私のケモノ並みの嗅覚をなめちゃダメデス!」
「でも、これならどう? うりゃ!」
通常攻撃の乱打。距離を詰めてこれないからキツイでしょ?
「この程度なら……そりゃあ! デス!」
やっぱりレアの武器じゃスーパーレアの武器の通常攻撃でかき消されちゃうんだ!
「もう手は出し尽くしたデス? じゃあこっちもとっておきでいくデス!」
とっておき!? ヤバイかも……
「カモン! 『フラワーテンプテイション!』」
大っきな黄色い花が私と【スニフマリー】の間に召喚される。
……?
なんだろう、この匂い……すごく好きな……ずっと嗅いでいたい匂い……
「前に……匂い……私の……好きな」
「ふっふっふっ。効いてきたデスね。まぁもう聴こえていないデスか」
一歩一歩大きな花に向かって歩いていく。
……あれ? 私なんで勝手に歩いてるんだろ。今は戦闘中で、花の匂いにつられている場合じゃないのに……。
「あはは! 【ハニーランプ】さんめちゃめちゃ可愛いデス! でも残念ながら……終わりデス!」
ハッ、 私は何を!?
「『フレイム付与』アーンド、武器『サンフラワーソード』のスキル『剣ダメージ強化付与』くらえデス!!!」
紅蓮の剣が私の魔法体を切り裂く。強化されたHPでさえ、一撃で0になった。私は、負けたんだ……
……えっと、何ここ?
眼前に広がった空間は、とにかく「白」
「ハローだお☆ いやー残念だったお☆」
「ディスポン、何? ここ」
「あぁ、ここはボーナスタイムの待機室だお☆」
待機室ってわりには何もない真っ白な空間なんだけど……。
ってか今日は私がボーナスタイムを受けることになるんだ!
【スニフマリー】がとんでもない変態だったらどうしよう……!
「まぁ、落ち込む必要はないお☆。ただちょっと反省は必要だお☆。油断していただけの【ネイベルナイト】に勝ったからって何も考えずガチャってないのは慢心だったお☆」
確かに前回は教室っていう閉鎖された空間でかなりこっちが有利だったから勝てただけで、今日みたいなひらけた場所だとイマイチになっちゃう……
手数の少なさも気になった。
「ガチャしておくべきだったかぁ」
輝夜ちゃんと一日も早く結ばれることに目が眩んで一個一個勝つための行動が疎かになってたんだ……
「さぁ! ボーナスタイムの準備ができたみたいだお☆ ランプ、ドンマイだお☆」
「ちょ、それどういう意味ぃ!?」
その答えを聞く時間もなく、私は華やかなポールに拘束された。