始まりのキラム村
引き出しから、三冊の日記が出てきた。「多分俺は君を知らないし、君も俺を知らないだろう。」残念ながら、君は私を知らないが、私は君を知っている。「これはあくまで日記だ。事実だ。そのことを理解した上で、広めてほしい。」知ってるよ。忘れるわけもないだろう。なあ、もう70年も前の私よ。
やあ、皆さん。いかがお過ごしですか?ちなみにワタクシは、絶賛行き倒れ中です。前世・・・いや前世というのかも分からないけれど、まあ、そこでは食べ物に固執なんてしなかった。けど、どんだけ恵まれてたか思い知ったわ。寝返りを打てば、そこに食べ物がある生活。茶漬けに、梅干しと刻み海苔を加えて・・・ああ、腹減って死にそう。
ギィ・・・ギィ・・・。カチ、コチ。カチ、コチ。静かな部屋に、ロッキングチェアと時計の音が、単調なハーモニーを奏でる。それは、「暇だなあ。」桐生輝牙、15歳。中三の夏休み最終日、日曜のサザエさんなんて目じゃない憂鬱が流れる日。俺は、暇を持て余していた。「なんか、おもろいこと起きんかなあ」そういった瞬間、頭の中に声が流れてくる。(こんにちは。)「誰だ!?」あたりには、もちろん誰もいない。(私は、いわゆる「異世界」の女神です。私の世界の人々は、毎日魔王におびえながら生きています。どうか、救って下さい。私の世界を、私の世界の人間を。)
あ~、これ、よくあるアレ的な奴か。まあ、答えは一つだな。「もちろん!」(・・・・・!!)「NOに決まってんだろ!!」(!!?)女神は、心底驚いたようだ。「ソンな訳分かんねーことを訳分かんねー奴に訳分かんねータイミングで言われてハイやりますっていうわきゃねーだろが!!そんな馬鹿いるかッ!大体人の頭の中に急に入ってくるんじゃない!コエーよ!!」俺、正論返しは大の得意だったりする。(で、ですけれど、てっきり「もちろん」と答えたモノだとばかり思って、転移魔法をかけてしまいました。)はあ?はぁぁ!?「なんだよそれ!今すぐキャンセルしろ!」(で、出来ません!帰る方法は・・・「世界樹の井戸」を、探して下さい。そして、その中に潜って下さい。)クソ女神。「どこにあんだよそれは?」(魔王の宝物庫です。)女神テメおま本格的にふざけんな。「どうしてくれるんだよ!」(ですから、非を認めているじゃないですかっ!)キレた。女神が逆ギレした。「どこに逆ギレする女神がいる・・・ん、だ・・よ?」
あたりの風景が、急に森になった。「もしもーし?エト、女神さん?」通話終了しやがった。
(よう、兄ちゃん。女神に頼まれてきたぜ!諸々説明するんだぜ!)次から次へと、降って湧いたようにボコボコ出てきて。(まず、あんたはこっちにいる間年をとらん。それから、こっちでの百年は、お前らの世界では0,00001秒に満たん。それと、転移特典を授ける。感謝しやがれ)何様だよオマエ。(正真正銘、神様さ!それでは少年、また会おう!アァァァでぃおす!)神って、みんなこんななのか?いや、それなら世の中もっと平和なはず。(邪念を感じた)・・・黙秘します。
それが三日前のこと。うう、意識が。マジでやばい。「きゃ、ひ、人?」あ、誰か分からんけど助かった。俺が目を覚ましたのは、引きずられているとき。紐付きの荷台的なモノに乗せられてコロコロと運ばれていた。すぐ右側を亀が追い越していく。遅くね?「あ、あの。」「ひぃえぇぇぇぇぇ!」こっちがビビるわ。「た、助けてくれて、ありがとう。」「ど、どどどどうどどどうどどどう」風の又三郎?「どういたしまして。」ああ、うん。
「お邪魔しまーす」俺は、彼女改めマコちゃんの家に来た。森の中な上に、ツタびっしり生えててカモフラージュ感がやばい。「これから村へ買い物に行くんです。案内しましょうか?」「ああ、そうしてくれると助かる。」
村は、ザ・王道ファンタジー、それこそドラクエみたいな感じだった。「それじゃあ、また後で落ち合いましょう。」え?何で?「町のこととかあまり分からないから教えてほしいんだけど」少しうつむくアコ。「わ、私といても、良いことありませんよ。」なんだ?「どういうこと?」「い、いえ。良いんです。何でもありません。行きましょう。」「・・・?」わずかな引っかかりを覚えながら、並んで町へと入っていく。
「すみません、ミルクを一缶下さい。」新聞(?)を読んでいた店番の人が顔を上げる。「ああ、ミルクだね・・・て」バンッと両手で机をたたいた。「アンタに売るもんなんかないよ!良く村に顔出せたね。とっとと失せなこの異端者が!」異端者?俺のこと?
「すみません、ミルクを一缶・・・」「そんな貴重なモノをお前になんざ売るか異端者が!」藁の入った袋が、マコの顔に投げつけられる。「こんなとこ降りてくる暇があったらとっととー」「おい・・・何すんだよ。マコが何したんだよ!?」「何もしてねーからムカついてんだよ!」「はあ?なんだそれ?お前-」マコが、腕に強く抱きつく。「良いんです。行きましょう。私が悪いんです。良いんです・・・」ヒソヒソと、そこかしこで陰口をたたいている。クスクス笑ったり、指を指したり。「財布貸して」「え、あ、えと、はい。」
「すみません。」「なんだい?」「ミルクを一缶・・・」無言で、こちらを見ている。バサッと新聞の音を立ててたばこの煙を吐くと、「見ない顔だね、よそ者かい?」「あ、ハイ、そうです。」ゆっくりと、ページをめくる。「すまないけどうちじゃ売れないよ。」何でだよ。「何でだよ何で?異端者だ?よそ者だ?そんなのカンケーねーだろっ!」「いや、そうじゃなくて。」「ああ!?」「ここ、武器屋だから。」え~。「・・・。」「・・・。」「「・・・・・・・。」」「っすみません」はずい。めちゃめちゃはずい。「いや、こっちもその、ごめんな、説明しなくて。ミルク、特別に売ろうか?」「いや、良いです。」「でもさっきあんな必死に「結構です。」そこを掘り返してくるんじゃないですよ。
あ、マコちゃんいたいた。て、泣いてる?「ど、どうしたの?」「優しいと思ってた人に、財布とられて。」「いやとってないから!ミルク買っただけだから!」「え?そ、そうなんですか。すみません、人の親切になれてなくて。」アコちゃ「きゃああああああああっ!!!」「!!?」何だ?
「ぐぅ!!」男の人が投げられる。「おらおら、道ばたに這いつくばって拝めるんだよ私をな!」二人組の少女のうち、骨の装飾をした方がそう叫ぶ。「じゃーまなんだよ」誰だあいつら?ジョロロロロロ・・・「ん?」「あ、あれは魔物です!」めっちゃちびってる。って、魔物!?やっぱいるのか。コスプレイヤーのパリピにしか見えないけれど。
「おら、とっとと出せよいつものやつを。」そう叫ぶが、誰一人、動かない。何だ、魂とかか?「ちぃっ」舌打ちをする。「このキラム村限定のドラゴンパフェだよ!」パフェかよ。やっぱ渋谷のJKじゃね?そして、しばらくしてメロンらしきモノをドラゴン型に切ったパフェが出てくる。器用だなー。「あ、あの・・・」「あ?何だ言ってみろ。」「か、数を減らすわけには、い、いきませんか?もう、売り上げの切り盛りが。」ギロリと店主らしき人をにらむ魔物。「ああ!?」「す、すみません!」腐っても鯛、JKでも魔物?「私が何でこんなへんぴな村をツブさないでやってるのか分かってんのか?このパフェのためだけだぞ!寄付でも何でもしてコイツの店潰すなよ?」パフェが守護神て。普通のドラゴンでいこうよ。「あっおいしっ」キャラ変えるほどの攻撃力っつか口撃力。ドラゴン越え?魔物はハッとすると、「ジロジロ見てんじゃねーよ!」と叫んだ。いや帰って食えよなら。
「スカルオーガ様例の件を。」「ん?ああ、そうだったな。」例の件?「いいか?勇者の子孫がこの村にいるかもって事だ。情報を提供しなければ皆殺しだ。」とりあえず、パフェを置こうか。気になって仕方がない。「まあ、知ってても言わねーだろがなあ。最後の望みだものな。それじゃ、店ツブすんじゃねーぞ!じゃあな!」勇者の子孫、か。あれ?マコちゃんは?「こ、こわい。」地面に埋まっていた。モグラとか引きこもりとかニートとか、いろんな言葉が浮かんだが黙っておいた。
「ねえ、止めてくれる?」「え?」「宿がなくて。」マジで、死活問題だもんな。「あ、じゃあ帰れるあてがつくまではいつでもどうぞ!独り暮らしなので。」
「んっ!んっ!!んっ!!!んーっっ!!!」ミルクの蓋が開かないらしい。ぶちまけそうで怖いんだけど。「ちょ、ちょっと貸して。」パカ。アレ?普通にあいたんだけど。「え?え??え???」非力すぎない?その後の薪割りも。何度も何度もぱっかんぱっかんぱっこんぱっこんやってようやく割れた。「ちょ、ちょっと貸して。」パッカーン!「ま、まままま魔物!?」「君がよわすぎるだけだっっ!!!」そんなんだから料理は心配したけれど、まあ、普通においしかった。
「なあ、マコちゃん。俺さ、故郷へ帰るために、魔王と戦えって言われたんだけど、何をするべきだと思う?」「え?」しばらく黙ると、ゆっくりしゃべり始めた。「勇者の子孫は、唯一魔王を倒せる人間だそうです。」なるほど。「つまり、探し出して仲間に入れると。」「え?あっいや、えっと・・・」?何なんだろう。それはとりあえず、何が出来るんだ?何も知らない、何も使えない。そんな俺なんかに。
いつまでったっても、寝られない。そもそも、勇者は何してる?「・・・・・」考えるだけムダか。
「え!?もういっちゃうんですか!?」「ああ、いったろう。勇者を探すって。」「え、あ。」「また、いつか、どっか出会えたら、うれしいな」最初に会えたのが、マコだったから。どこまでも裏のなく、優しいマコだったから。この世界を、救いたいと思えた。テレビなんかで、秘境を紹介してたりする。そんなのみても何も感動しなかった。無関係な場所の、無関心なことだった。けど、俺はこの世界で生きていく。完全に隔離された、この世界で。無関係じゃない。無関心でもいられない。「あ、あの。わ、私、私は。」ん?なんだラブコメ的な展開が用意されてたのか?「わ、私が、勇者の子孫なんですよね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」これまでの光景が、走馬灯のように駆け巡る。「・・・マジで?」「まじ、です。」マジかよ。てか、この世界、「詰んだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
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