表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/54

9 紛れ込む悪意

 空気が震えている。足元も絶えず細かく揺れていた。

 洞窟の中に、何かが現れた。否応なく気づかされる。


(アラン……! あいつ、余計なことを。挙動がおかしいとは思っていたが)


 アキラの願い虚しく、レグルスは攫われたアキラを追ってチームを離脱していた。

 どこからともなく伝わってくる、巨大な生き物が動き回る気配を探りながら、洞窟を駆ける。

 魔物の姿を、少しの間見ていない。魔物ですら息を潜めてやり過ごさねばならない何かが、確実にいる。


(試験の本番か。これは候補者を振り落とすだけでなく、殺す為の仕掛けだ。最初から意図されていたのか? 本当に? 殿下がそこまでするとは考えられない。理由がない。もっと、何かある。悪意がどの段階で入り込んだかはわからないが……、こうなった以上は守るべき候補者のそばにいなければ)


 本来ならば、自分が思い描く相手は、ミユキでなければならないはず。しかし、頭に浮かぶのはアキラのことばかり。

 割り当てだから。足を怪我していたから。護衛がアランだけだから。

 思い浮かぶ理由はいくつかあるが、どれも本来の候補者を捨て置くほどの内容ではない。理性的な判断ではない、理屈ではないと、自分でも認めざるを得ない。


 通路の先が開けていて、広さのある空間に到達する。

 飛び込む直前、速度をゆるめて警戒はしたが、生き物の気配は察知できなかった。それでも、可能な限り辺りを探りながら進む。

 視界に入り込んだものがあった。それが何か、即座に理解して、レグルスは足を止めた。


 金色の髪を血に染めた少女。うつ伏せの状態で、ぴくりとも動かない。

 絶命。

 遠目にも手の施しようがない状態なのはわかったが、レグルスは早足に近寄った。かがみこんで手をのばす。ためらってから、手をとって血の流れを探った。やはり、命の気配がない。服装だけではどの候補者か確信が持てないので、顔を確認しようとする。

 その瞬間、首筋にひりつく視線を感じて、素早く立ち上がった。


「魔導士の、レグルスさま、ですよね?」


 茶色のウェーブがかった髪の少女が、声を震わせながら名を呼んできた。首元に巻きつけた薄紅色の透ける布に、血が染みている。

 ほとんど視線を動かさぬまま、レグルスはその全身を確認する。大きな怪我は無さそうだ。


(自分の血ではないとすれば、誰の血だ?)


「サダルのサグタビア様」

「はい。あの、レグルスさま。そちらは……」

「私もいまここを通りかかったところです。すでにこの状態でした。サグタビア様はおひとりでいらっしゃいますか?」

 

 気配を探る。

 空気の振動が邪魔だ。洞窟そのものが揺れて、ぱらぱらとひっきりなしに頭上から砂埃が降ってくる。


「魔物から逃れているうちに、護衛とはぐれました。レグルスさまの護衛対象は」

「いまこの状況で、護衛とはぐれてしまうのは危険です。そもそも、安全な場所がない」


 質問をかわしながら、相手の一挙手一投足見逃すまいと見つめる。


(この異常な振動もあるのに、落ち着きすぎているように見える。……笑った?)


 一瞬、口元が歪んだように見えた。


「私の護衛に会うまでで構いません、一緒に行動して頂くことはできますか?」

「先を急ぎます」

「レグルスさまも、はぐれたんですか?」


 レグルスはそこで強く確信を得た。


(余裕がありすぎる。近くに護衛はいるはずだ。隠れているのは、まともな理由ではない)


 足元に倒れている少女の怪我をきちんと見ることはできなかったが、損傷の仕方が綺麗である以上、魔物につけられた傷ではないと考えるしか無い。


「別行動になりました。が、すぐに合流します。あなたもお気をつけて」

「たしか、護衛剣士はいませんでしたよね? だとすると、候補者の方はいまおひとりということですか。……大丈夫です? 生きてますか?」

「生きていると信じていますよ。この迷宮の魔物に遭遇していない限りはッ」


 言い終えると同時に、飛来したナイフを首の動きだけでかわす。

 通路の方から、数人が駆け込んでくるのが見えた。同時に、茶色髪の少女が身を翻してそちらに向かう。


(対人戦闘、避けられないか……!)


 覚悟したそのとき、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「おいレグルス! うちのアキラどうした! ことと次第によっては、加勢なんかしてやらねえ。お前の敵にまわってやる!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ