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2 変わったひと

「ティナ様の里には、過去の聖女試験に関する情報は何かなかったのですか。口伝でもなんでもいいんですけど、もしかつての候補者が、いずれ自分の末裔から聖女が出て欲しいと考えた場合、何かしらヒントを残すのではないかと思うんですが」


 道すがら、そう切り出したアキラに対し、その場にいた者すべてが沈黙した。

 やがて、アキラと肩を並べて歩いていたティナが小さくふきだした。


「すごいこと聞きますね。それを聞かれて答える候補者がいるとお考えですか」

「いないかもしれませんけど、一応会ったひと全員に聞こうと思っていました。わたしたちにはあまりにも情報が少なすぎます。今やっていることに、何か意味があるとお思いですか。この試験で聖女に必要な何かが調べられているのだとして、その意味を知りたい。情報を持っていそうなひとに聞くのは当然のことです」

「それが対立候補でも?」

「はい。たとえあなたが敵だとしても、わたしはあなたを知りたい。『誰』と『何の為に』争っているのか、わたしは自分で確かめたいんです」


 アキラは、杖替わりの剣をレグルスに返していたが、少しだけ足をひきずっている。

 前衛にはティナの連れていた剣士のスズトと、レグルス。間に候補者の二人がいて、後衛に魔導士のミケランとアラン。

 おそらく既にティナにもその護衛にも足のことは気付かれているだろう。

 だが、誰もが特に話題にのせることなく、アキラもまた触れぬまま淡々と話していた。


「私はアキラ様は、聖女には一番遠い方だと思っていたんですけど……」


 前方を見据えて、ティナが考えながら、呟くように言う。

 今度はアキラが笑った。


「その通りです。わたしにはそもそも資格がない。ティナ様はなぜ聖女になりたいんですか?」


 ティナに向けたアキラのまなざしに邪気はなく、笑みは柔らかい。

 気にしたように振り返ったレグルス、後ろからその横顔を見ていたアラン。

 問いかけられたティナは、顔全体に苦笑を広げて、穏やかに言った。


「『なりたい』前提で聞くのね」


 アキラが一瞬目を細めた。

 その表情の変化をみとめて、ティナはアキラの腕に腕を絡ませる。


「『なれ』と言われて育てられ、ここに送り込まれているの。それは『なりたい』なのかな?」


 アキラ鋭く息を飲んだ。ティナにしなだれかかられて、痛む足に負担がかかったせいだった。

 その姿がよく見えていたアランはごくわずかに眉を寄せる。それでも、助けを求められていないことには気付いていて、手を出すことはできない。


「なれなかったら、どうなるんですか。故郷でのあなたの立場は」

「良くなることはないでしょうね」

「どうして」


 痛みを堪える。

 ティナとて、アキラの強張った表情が見えていないはずがないのに、きれいに無視している。


「聖女になれなかった候補者になんの意味があるの」

「もし、あなたがそう教え込まれているのだとしたら、それはとても良くないことだと思います」

「何が良くないの?」

「故郷の人々を恨むことになれば、彼らの為になることをしようと思わなくなるかも。たとえば、次の候補者にこの試験の情報を残そうとしなかったり、嘘を言ったり。こうなるとますますわからない。『聖女』ってなんですか。なんか、あんまりいいものって気がしないんですけど」


 レグルスは、隣を歩くスズトを見た。

 困惑が滲み過ぎた顔にへんな笑いが浮かんでいる。

 一方、アランはアランで緩やかに波打つ金髪の魔導士ミケランに、笑いながら声をかけられていた。


「変わった候補者だね」

「アキラは、常識に縛られていない存在なんです」

「さすが、男の身で『聖女』試験に出て来るだけある」

「それだけが、あの方の独自性を示すものではありませんが」


 アキラの腕に寄りかかっていたティナが、その腕を掴んで自分の首の後ろにまわし、肩にかけさせた。


「さっきから、足痛がっているみたいだけど。掴まれば?」

「女性に対してそれは、何かと……」


 小声で言うアキラに対し、ティナはふん、とわざとらしく息を吐く。


「女性として意識していないくせに、変な遠慮はやめてよ。むしろ私が女性だと気付いていたの?」

「それはもちろん。可愛いなって思っていましたけど」


 ぶふっと、前衛のスズトが噴き出した。

 レグルスは、嫌そうに溜息をつく。


「こんなに気持ちのこもっていない『可愛い』、私、初めてかもしれないわ……」


 ティナが呆れ切った声で言って、アキラは今さら焦ったように目を白黒させた。


「嘘じゃないです」

「もうやめて。私があなたの好みじゃないのはわかったから。言っておくけど、私も別にあなたは好みじゃないわ。その辺の壁とか岩と大差ないの。だからおとなしく掴まっていてよ」

「はい……?」


 ティナが機嫌を傾けた理由に本気で思い当たっていないように瞳に困惑を浮かべ、思わずのようにアランを見た。

 助けを求められた、と雪をも溶かしそうなほどの温かで甘やかな笑みを浮かべたアランが手を差し伸べる。


「ティナ様を煩わせることではないです。アキラ、私に身を委ねてください」


 前列にいたレグルスがイラついたように顔を渋く歪ませて振り返り、「おい」と低い声で言った。


「アランが言うと冗談に聞こえない。やめてくれ。寒気がする」

「あなたに言ってませんよ、レグルス」

「知ってる。アキラにも言うな。身を委ねるってなんだ。おかしいだろ」

「どこが?」


 候補者たちを挟んで謎の鞘当てを始めた護衛たちを、アキラは困り顔で、ティナは呆れ顔で見ていたが。


「どうなってんの? なんでそんなに男にモテてるの?」

「モテているわけではないんですけど、仕事熱心同士なのでぶつかるみたいなんです」

「本気で言ってる?」

「え?」

 はー、とティナが大きなため息をついた。


 アキラはどうしたものかという目をレグルスに向けたが、思い切り顔を逸らされただけであった。

 前方を睨み据えたレグルスは、妙に間延びした空気を断ち切るように冷ややかに言った。


「来るぞ。構えていろ」

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