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1 ともだちになれるかな

「わーーーー、良かったー!! 今この辺ずっと迷っていたんですけど、アキラさんですよね!! ご一緒していいですか?」


 警戒する護衛二人をよそに、前方からバタバタと走ってきた三人組、特に候補者である少女は喜色満面といった顔で声をかけてきた。


(フ、フレンドりー!!)


 少しぱさついた金髪を左右で結んだいわゆるツインテールに、褐色に近い肌。タンクトップにカーキ色のベストを合わせ、同色のズボン。小柄でリスのような可愛らしい雰囲気がある。


 ちらっとアランに目を向けると「ティナ様ですね。西部の少数部族テスコ族の巫女姫です。14番目にもぐっています。同行護衛の顔ぶれはくじで決まった状態から変わっていません。彼らの本来の候補者は、15番目のガニメデ家のベガ様の……」まったく過不足のない完璧な説明をしてくれる。

 自分たちより後の組の情報は道々聞いてはいたが、アランがわずかに表情をくもらせたことにアキラは気付いた。


 アランは、エルハという男に助けを求められ、現場へ一人で急行する際に別行動をとったと説明していた。

 エルハは、15番目の候補者の護衛についていたのだ。何かあった恐れが十分にある。

 ただ、アランは結局事件現場にたどりつくことはなく、何があったかまでは突き止め切れていないらしい。それは、彼らに伝えるべき情報であるか否か。


(わたしが口をすべらせない限り、二人は積極的には言わない)


 持っている情報を渡しても、信じてもらえるとは限らない。逆に何か思いがけない反応を引き起こす可能性もある。簡単には言うべきではない。

 緊張で表情を硬くしつつ、アキラはなんとか微笑んで見せた。


「ご無事で何よりです。ずっと三人で……?」


 進んで来ようとするティナを、後ろに控えていた男の一人が肩を掴んで止めた。


「おかしい。アルデバランがいる」

「アキラ様の護衛だからでは?」

「三番についたのはあの魔導士だけだ」


 服の上から、金属の輪を編みこんだような鎧を身に着けている、剣士らしい見た目の男だ。茶色の髪を無造作に肩を過ぎる程度まで伸ばし、唇の上に髭も生やしている。そのせいで少し年かさの印象を受けたが、声は若い。


「あら、じゃあアキラ様はご自分の護衛と合流されたということですか?」


 いかにも警戒心剥き出しの男の手をぐいっとおしのけ、ティナが一歩進んできた。


(物怖じしない……! あくまで自分で確認にくるんだ)


 アキラ自身が「聖女候補」と話すのはこれが初めてだ。

 名家の出やどこかの姫君など、選び抜かれた少女たち。

 今まで口をきいたこともない「高貴なひと」かもしれないが、開放的な笑顔で嫌味なところがなく、親しみすら感じる。


「わたしはずっとこちらのレグルスと行動を共にしていました。アランは一時期護衛対象と別行動となり、こちらに先に合流する形となりました」

「候補者も魔導士も連れず、一人で現れたと?」


 チェーンメイルの男が、疑わし気な様子を隠しもせずに問いかけてくる。 

 その男に、ティナはちらりと視線を流して軽く睨んだ。


「スズト、そういうの私好きじゃないわ。アルデバラン様のパートナーの魔導士はあのスバルよ。おいそれと候補者を危険に晒すようなことはないでしょうし、彼に任せてアラン様が別行動をとったというのもあり得ない話ではないと思うの。ちょっと黙っていてくれない? 何もかも疑っても仕方ないでしょう」


 はっきりと、物を言う。


(この人……、たぶん、護衛に指摘される前からこっちの組み合わせがおかしいことに気付いている。わたしの名前も迷いなく呼んだし、スバルの実力も知っている風だ)


 年若く、重々しさのない服装や話しぶりなので護衛にはいささか軽んじられているようにも見えるが、まったく動じていないあたり、見た目以上の何かは確実にある。


「この辺で迷っていたというのは……。他にどなたかにお会いしましたか?」

「いいえ。迷宮にもぐってから人に会ったのはアキラ様が初めてです。アキラ様は?」

「わたしもです」


 アキラが答えると、ティナはアランに視線を向けた。


「アラン様が護衛対象と別行動になった件をお聞きしても?」


 アランは穏やかに笑って「大したことではないです。道の先の魔物を倒そうとしていているうちに」と告げた。

 ティナの緑色の瞳が一瞬、きらりと光ったように見えた。綺麗な目をしているな、と思った。

 少し勝気そうな印象もあるが、顔立ちも可愛らしい。

 遅れて気付いて目を奪われてしまったアキラに対し、ティナはにこりと微笑んできた。


「思った以上に魔物と頻繁に戦闘になっていて、こちらの二人も少々疲弊しています。こういった、人間には厳しい環境下なので、協力できればと考えています。いかがでしょうか?」


 願ってもない提案に、アキラも頷いてみせた。


「わたしも、そういう方がいればぜひにと思っていました。人数が多ければ休憩もとれますし。徹夜で消耗するくらいなら交代で寝たりも」

「そうですね!! 少し心細くなっていたのですごく嬉しいです!!」


 言うなり、ティナは弾むような足取りでさらに距離をつめてきた。

 咄嗟に、アキラはレグルスとアランの動きを手で制した。


(武器を持っているようには見えない)


 護衛同士の殺し合いは問題ないとしても、候補者はそもそも手を血で汚すことを禁じられているという。いきなり襲い掛かってくる可能性は低い。

 痛む足に気付かれないように動かずに待っていると、ティナはアキラの腕に腕を絡めてきた。


「ずっと気になっていたんです。何故男なのにこの試験に参加しようと土壇場でお決めになられたのか。その辺含めて、アキラ様とはぜひお話をしたいと考えています」


 小柄なせいで、アキラを見上げるように言ってくる。


「わたしと……話、ですか? わかりました」


 確かに、アキラも他の候補者と話してみたいと思っていたので、これはまさに渡りに船。

 それならば、となんとか笑いかけてみせる。やや引きつった笑いになったのは、なんだか近いなこのひと、という戸惑いが大きかったせいだ。


「嬉しいです! 正直、陰気な男二人とずっと一緒で滅入っていたんですよ。楽しい道中にしましょうね!」

「は、はい。よろしくお願いします」


 ぎゅうっと腕に抱き着かれて、アキラは目を白黒させながら(すごい明るいひとだなぁ)と考えていた。

 その背後で。

 アランがレグルスを見もせずに、しかし彼にだけ聞こえる音量で呟いた。


「色仕掛けされてますね」

「アキラは初心に見えるからな。落としやすそうだ」


 はからずも意見の一致を見た二人であるが。

 互いに相手には告げられぬ事実を心中で呟いている。


(アキラは女だ)


 二人の視線の先では、にこにことしたティナにつられたように、アキラも微笑んでいた。


3番目にもぐったアキラ(アリアド)【レグルス(カタリナ)+20番目のアラン(アリアド)】


14番目にもぐったティナ(テスコ)【ミケラン+スズト(ガニメデ)】


→アランは15番目にもぐったベガ(ガニメデ)の護衛についていたエルハから助力を求められ、スバルと別行動になる。その後エルハはスバルを陥れるような行動をとっている。

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