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0 脅迫する候補者

「候補者のことは、一通り調べているんです」


 迷宮に下りて少し歩いたところで。

 出し抜けに、明るく、その候補者は言った。


「王家は、本当は今回、候補者を出せなかったんですよね。コール・カローリ姫には重大な背信行為……違反があると思うのですが」


 組み替えで自分の護衛についた剣士と魔導士に向かって、あくまで笑顔を崩さずに。


「ミユキ嬢……」


 紫色のローブに、長い銀髪を背に流した青年は、目元を痙攣させた。

 髭を生やした筋骨隆々とした男は顔色を変えず、沈黙を保っている。


「いくら候補者として(わたくし)が優勢とはいえ、その辺は抜かりありませんの。試験は正々堂々と戦わせていただきますけれど、他の候補者に関して調査するのは当たり前のこと。たとえば、百年ぶりに候補者を立てたアリアド家なんて、当時を知る人がいないので調べるにも限度がありましたけれど……。現代人である姫君に関してはその限りではありません。当家はありがたくも王家とのつながりも強いものですから、姫君の側仕えに当家の者が入り込むくらいのことはできますの」


 核心には触れないものの、確実にある事実に関して、「知っている」と匂わせている。


「組替えと聞いたときは、どういう結果になるのかなと思っていましたが、私としては納得のいく結果でしたわ。お二人は護衛の中でもハイクラスの実力者ですし、なおかつ王家のメンツにかけて簡単には『ひけない理由』がおありですものね。私たちは良いチームになれると思います。ですので」


 柔和な笑みを浮かべた優し気な面差しはそのままに、すっきりと通りの良い声でミユキは宣言した。


「ゆめゆめ、私の意志を無視してお二人のお考えで行動をとることなどないよう、あらかじめお願いしておきますね」


 それまで渋面で話に耳を傾けていた銀髪の魔導士が、苦々し気に言った。


「脅迫されるおつもりか」

「あら。それらしいことを言ったつもりはありませんけれど、そうお感じになりましたか?」


 やめておけ、というように剣士が魔導士の肩に手をかけ「プロキオン」と名前を呼ぶ。

 ミユキは、夢見るようなまなざしで、歌うように言葉を紡いだ。


「王家とて、聖女輩出は悲願ですものね。この辺で聖女を出しておかなかれば、聖王家の名折れ……。ですから、この肝心なときに、聖女どころか候補者を擁立できないというわけにはいかなかった。その苦肉の策がコール・カローリ姫なわけですが……。薄氷を踏むような思いで違反に手を染め、禁忌を侵してまで候補者を出したというのに、アリアド家には本当に意表を突かれてしまいましたわね」


 ふふ、っと甘やかな笑い声を立て、少女が笑う。

 もはや付き合ってはいられないとばかりに魔導士は顔を逸らし、剣士は挑むように睨み据えた。

 まったく友好的ではない態度の二人に構わず、ミユキは朗らかに続けた。


「迷宮でただ一昼夜過ごすだけなんて芸の無い試験があるわけありませんよね。これは、試験官の目もありませんし、ここで出来るだけ、他の候補者を減らしておくように、という意味ですよね? ルール違反はいけませんけれど、もとよりたいしたルールも設けられておりませんから……。私の希望としては有力な候補は何人か削っておきたいところですけれど。姫君に関しては、別段ここで脱落して頂く必要があるとは考えておりませんわ。では、参りましょう」


 魔物が巣食う迷宮だというのに、その足取りには迷いがなく先頭を歩き出す。

 さすがに見かねたように、剣士が前に出た。


「我々は候補者を失うわけにはいきませんので、どうぞお嬢様は後方に」

「あら。さすがはベテルギウス様。頼りになりますわね。ありがとう」


 素直に引き下がって、剣士の後に続く。

 さらにはその後ろに魔導士がついた。

 感情が顔に出やすいたちなのか、険しい目つきで前を行くミユキの後頭部を睨み据えている。

 気づいているだろうに、ミユキは振り返ることもなく、顔を上げて軽やかな足取りで進んでいた。


 王家は、候補者擁立に関して、重大な違反をしている――


 ミユキの指摘に関して、本来姫君の護衛たるべき二人には思い当たる事実が確かにあった。

 しかし。


(試験の開始時点では、姫君の抱えた事情は完全に黒で、ありえないものであったが……。アリアド家の候補者が出て来て、参加を決めた時点で、誰もが想定外の方向に事態は動いている)


 今となっては、姫君の事情は、そこまで隠すべき禁忌でもないのではないか? 

 だとすれば、この候補者にここまで脅されるいわれはないのではないか?

 頭の中では色々考えられるものの、それを確固たるものにするには、ある条件が欠かせない。

 すなわち。

 この試験の原則に真っ向から立ち向かう存在であるアリアド家の候補者が、早々と脱落しないこと。

 直接手助けするのは難しいだろうが、少なくともここで「彼」には残ってもらわなければならない。

 それはもちろん、ミユキとて思い至っているはずだが……。


(頼みの綱は、アリアド家の候補者に、組替えでミユキ嬢の護衛であるレグルスがついているということか。ミユキ嬢がアリアド家を落としたくても、「レグルスが守り切れなかった」という状況を作り出してしまっては、自分が脱落することになる。だから、たとえエンカウントしても簡単には手出しができないはず。この関係性さえ見誤らなければ、王家とて脅しを気にする必要はない……)


 姫君に関しては、やはり今回の参加者の中でも屈指の実力者が護衛についているので、あまり心配はない。

 だとすれば、あとはレグルスが「彼」を脱落させなければ……。

 そうは思うものの、嫌な予感がどうしても払拭できない。

 たとえば、アリアド家の候補者にも何か重大な秘密があったとして。

 それが、告発すれば失格に追い込めるような事実であり、それをレグルスが知るところになれば。


(そもそも「男」で、前提条件を満たさないにも関わらず、参加を決めてきたような候補者だ。それ以上の秘密などあろうはずもないだろうが……)


 魔導士団のトップに立つ魔導士長プロキオンは、自分にそう言い聞かせて、懸念事項など気のせいだとねじ伏せる。

 そして、目の前で揺れる黒髪に視線をすべらせた。

 思った以上に食わせ者だなこの候補者は、と胸中で呟きながら。


19番目(に、迷宮に潜った)


候補者 (カタリナ家)ミユキ

護衛  (王家)騎士団長ベテルギウス 魔導士長プロキオン



【参考】


3番目

候補者 (アリアド家)アキラ

護衛  (カタリナ家)魔導士レグルス  

 

20番目

候補者 (王家)コール・カローリ姫

護衛  (アリアド家) 傭兵王アルデバラン(アラン) 魔導士スバル

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