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6 想定の内と外

 ぞくぞくと組分けされて入れ替わったチームが出発する。

 最後尾と決まっている二人は、どことどこが組んでいるのかを頭に叩き込みつつ、他に聞こえない音量で会話していた。


「しかしまあ、最悪の一歩手前かな。レグルスがアキラに攻撃を加える危険性はなく、他チームに攻撃を加えられても必ず守るというのはかなり大きい。とはいえ、強いだけに共闘の誘いにのるとは思えない。もし行動を供にするチームがあるとすれば、それはミユキ嬢のいるチームだろ」

「自分がアキラとミユキ嬢を連れ帰る前提で、ミユキ嬢についた護衛を始末する線もありますね」

「協力関係にある相手ならその限りではないだろうが。カタリナ家と敵対するチームの護衛がミユキ嬢についた場合は、極力レグルスとのエンカウントを避けるだろうな」


「それにしても、明日の朝までというのはなかなかの長丁場です。そこそこ実力に自信がある護衛なら、上層をうろついて他チームとエンカウントする危険を冒すよりも、さっさと下層で休める場所を探しに行くのではないでしょうか」

「違いない。こういう変則的な組み分けをされなければ、うちのチームはその方針だった」


 淡々と話してはいるが、二人のまなざしは厳しい。


「連れていかれる間隔が短すぎる」


 十五組めまで呼ばれたときに、スバルが呟く。

 アランが小さく頷いた。


「地下迷宮があるとは言っていましたが、入口が一つとは言われていません。もっといえば、迷宮が一つとも言われていません」

「自分のところの候補者・護衛と絶対に合流できない仕組みになっているかもしれないってことか」


 森の手前にいるために、兵士に連れられていく道のりを見ることもできないし、迷宮の入り口から候補者たちが入る姿を確認することもできない。


「番号が若い組み合わせの場合、他チームが来る前にどんどん進める利点があります。とはいえ、魔物がひしめいていた場合、つゆ払いのような役回りになるでしょうし、対人間でも後のチームの組み合わせがはっきりとわからない。仮に入口がいくつかあるとして、自分たちの後に下りて来たチームに数字をきいて、番号が飛んでいたら怪しいとは思うでしょうけど、数字合わせをした相手が来ない限り確認する方法もない。我々は幸い、最後尾なのでその辺は有利なわけですが」


 話しながらも、二人とも組み分けからは目を離さない。


「確実に候補者を守る実力のあるレグルスがアキラについたのは、幸運だったのかな」


 いやいやで、渋々というのが露骨な険しい表情でスバルが言った。


「できればカストルにもいて欲しかったですね。戦力的な面だけでなく、彼はある程度私の言うことはきくので」


 ごく平淡な調子で、アランがさらりと言う。視線は組み分けを呼ぶウォルフガングに向けたまま。


「……カタリナ家に、お前の部下が入り込んでいるのって」


 物言いたげにスバルが視線を流すと、アランがにこりと微笑んだ。


「偶然です。ただし偶然を活用してはいけないとは考えていません」

「了解」


 特につっこむ気力もないとばかりに、スバルは短く答えて小さく吐息した。


 十七組目。

 候補者・護衛ともに残っていたチームが進み出る。


「おっと。ベルサリオ家は同じ番号をひいていたのかー。一組くらいあるかと思っていたけどどうしようかなぁ……」


 うーん、とウォルフガングがこめかみに指をあてて、考えるような仕草をする。

 視線がすうっと残っている候補者、護衛の上をさらっていった。

 やがて「うん!」と明るく言った。


「いいや、そのまま行って。くじ引きだし、残っているひとも少ないからやり直すのもどうかと思うし」


 五分五分だと思っていただろうが、明らかにほっとした様子でチームは兵士に連れられて行った。


「は~なるほど。そういう例もあるのか」


 この時点ではそれが良いとも悪いとも言えない、という調子でスバルが言う。


「無くはないと思っていましたけど、なにぶん事情を知っているのが今この場に残っているメンツだけですからね。先に潜ったチームと迷宮内でエンカウントした際にはかなり疑われるでしょう。つまり、候補者についていた他チームの護衛を始末し、なおかつ失格覚悟で自分たちが護衛していた候補者も置き去りにしてきた、と。これだと自分たちの生還を確保した上で、二チーム確実に潰しているので作戦としては悪くないです。どこかの有力な候補者に依頼を受けているチームなら、実際にやるかもしれない」


「組み合わせをランダムで入れ替えるなんてやらかしてくれたおかげで、無限に人を疑える状態になっているな」

「その状況下でどう人道的にふるまうか。そこまで見ているかもしれないから、奥が深いですね。何せ『聖女』試験です」


 残っているメンツを見て、二人は揃って溜息をついた。

 十九組目。


「カタリナ家のミユキと、うちの二人か。公正にしっかり頼む」

「行ってまいります」


 ウォルフガングが声をかけた相手は、王家から候補者についていた騎士隊長と魔導士長。

 ミユキがふわりとウォルフガングに微笑みかけて出発する。


「声掛けがすでに公正じゃない。『うちの』ってなんだ」


 ぼやきながらスバルは最後に残っていた候補者に目を向ける。

 絶対に守り抜かなければならない相手。

 そこに残っていたのは、銀の髪を高くひとまとめに結い上げた、目つきの鋭い少女。

 王家からの候補者、コール・カローリ姫であった。


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