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5 組分け

 場違いなまでに明るいウォルフガングを見ていると、「今日は皆さんに殺し合いをしてもらいます」なんてセリフが浮かんできてしまう。


 くじ引きはいたって簡単なもので、候補者と護衛二人のうちどちらか一人が、それぞれ下部を隠された細い短冊状の紙をひくというものだった。

 候補者のくじはウォルフガングが円筒状の入れ物につっこんで握っていて、候補者はばらばらと近寄って適当にひいていく。

 すでに数人ひいたタイミングでアキラも近寄ったが、手を伸ばしたらウォルフガングにさっと避けられた。


「女の子が手を出しているところに無造作に割り込むなよ。何をひいても恨みっこなしなんだから少し待っていなさい」


 つけ入る隙もないくらいの完璧な笑顔でもって言ってくる。


(うーん。ふつうに意地悪だな……)


 男と申告しただけでずいぶん辛くあたってくるが、譲る気のない相手に抗議をしても無駄と考えておとなしく待つことにした。

 結局最後に残ったくじを、王子が手ずから渡してくれたので、ごちゃごちゃ言われる前にとさっと受け取って見てみる。


(数字……似てる)


 わずかに崩れて見えるが、元の世界に形が近い。

 意味が同じなら『3』だ。

 護衛側はアランが係の兵士からくじをひいていて、アキラが目を向けるとやや困ったように笑いかけてきた。

 どこのチームも集まって数字を確認しているので、アキラたちも三人で顔を付き合わせてみる。


「『20』……」

「何とも言えない結果ですね」


 アランがゆっくりとした口調で言った。


「そうですね。二人が先に入って、候補者を説得して待ってくれていた方が合流はスムーズだったわけだから……」


(どのくらいの間隔をあけて入るのかわからないけど、後続とのエンカウントを気にする護衛にあたった場合、引き留めてもさっさと奥に行ってしまう恐れがあるな……)


 一瞬気が弱くなってしまう。


「とりあえず、お互い組む相手を探そう」


 スバルが固い声で言った。

 周囲はざわついていていて、「六番の護衛さんいますかー?」「十五番の方ー!」などと呼び掛けている候補者の姿もある。

 そのとき、ウォルフガングが手を打ち慣らして注意をひいた。


「候補者と護衛、呼ばれたら番号順に出てきてくれ。一番からすぐに地下迷宮の入り口に案内する」


 呼ばれて出て来たのは、ピンクがかった髪の、十三、四歳くらいにみえる少女だった。ふんわりとしたブラウスにホットパンツとブーツのような出で立ちで、太腿に革ベルトを巻き付けてナイフを何本か身に着けている。一方の護衛は、深緑色のローブで目深くかぶったフードから金髪をこぼした男と、いかにも鍛えている体つきの筋骨隆々とした男だった。


「サウス家のミアと、護衛はテスコ家か。わかった。行け」


 そっけなく言われて、候補者も護衛も同時に声をあげる。


「うちの護衛がどこにつくかは最低限見届けたいんですけど!」

「お嬢さんの護衛には一言念押しをしないと!」


 詰め寄られてもウォルフガングは動じることなく、にこりと微笑んだ。


「だめだ。一番をひいたのだから諦めろ。後が詰まるからすぐに行け」


 兵士が五人進み出てきて三人を囲む。

 歩くよう促された瞬間、ミアと呼ばれたピンク髪の少女が振り返った。


「死んじゃだめよ!!」


 胸や腕を覆う程度の青みがかった金属鎧を身に着けた背の高い青年と、群青のローブをまとった青年が同時に手を振ってこたえる。

 一組目が森に姿を消すと、続けて二組目が呼ばれる。

 候補者は腰まで届く長い赤毛で、二十代に見える美女。護衛は二十歳にも満たないであろう少年剣士と、三十代くらいに見える濃紫のローブの男だった。


「リード家のツィーと、護衛がアルバ家、と。よし、次」


 やはり兵士五人に囲まれて行く。


「……あの兵士って案内でしょうか、監視でしょうか、それとも護衛なんでしょうか」


 さっき森からドラゴンが出て来たよな、と思いながらアキラが呟くと「全部だろ」と答えながらスバルが背に腕をまわしてきた。


「行ってこい。すぐに追いかける」

「目印にパンを撒きながら歩いたりする必要はありませんよ。絶対に見つけますから」


 アランもまた反対側から背に腕をまわしてきて、童話になぞらえた冗談を言ってからおっとりと微笑んだ。


(この世界にも同じような童話あるのかな)


 小さく笑みをもらしてから、アキラは前を見据える。


「行ってきます」


 二人に心配をかけるわけにはいかない。

 せめて姿が見える間は元気に振舞おう、そう思って踏み出したそのとき。

 すっと遠くで黒い影が動いた。

 見間違えかと、アキラは足を止める。

 黒い影は、格別急いでいるようにも見えないのに、動きは素早いらしく、すぐにウォルフガングの正面に着いていた。

 足を止めていたアキラの背後から、スバルが耳元で早口で囁く。


「大丈夫だ、最悪の結果は回避したと思っていい。あいつの強さは俺が保証する。護衛は預かった候補者を守る義務を負う以上、自分の候補者と同じ扱いをするはずだ。つまりあいつ自身はアキラを害することができない。これはかなり大きい」


「三番。早くおいで」


 ウォルフガングの声を聞き、アキラは闇雲に後ろに手を伸ばす。スバルの手に触れた瞬間、ぎゅっと握り返された。


(大丈夫。スバルが大丈夫って言ってるから大丈夫)


 最悪の結果は回避した、という言い回しが引っかかってはいたが、アキラも迷いが出ないように早足で進んだ。

 待ち構えていたウォルフガングの正面で、黒衣の魔導士レグルスと向き合う。


「アリアド家のアキラと、カタリナ家のレグルスか。今日は『剣』は不参加との申請だったね」

「間違いありません」


 試験官である王子と目を合わせることもなく、レグルスはそっけなく答えた。


(どうだろう……、ただの失礼なひとなんだろうか。それとも王子と何かつながりがあるのを露見させないために態度が塩なんだろうか……)


 咄嗟に判断できずにアキラは目を見開いてレグルスを見つめる。まったく見返してこない。歯牙にもかけぬ、という風情だ。


「たしかに、護衛がレグルスなら下手に中堅どころが二人揃っているところよりも安全かもね。良かったね、アキラ。いってらっしゃい」


 ウォルフガングはくすくすと笑みを漏らして楽し気に言いつつ、アキラの細い肩に手を置いた。アキラが振り払う間もなく、ぐっと指に力を込められる。


「生きて帰っておいでよ。男の参加者は貴重だ。こんなところで脱落してほしくない。有力な候補者であるミユキが勝ち進むにも、君の生還は鍵となるわけだし。……間違えても、ミユキ嬢の足を引っ張る為に、怪我をしたり、レグルスとはぐれてカタリナ家もろとも失格になろうだなんて馬鹿げたことは考えるなよ」


 耳元で。

 スバルとは全然違う、毒を注ぎ込むような囁き。


(……そっか! たとえば有力な候補者の取り巻き候補者に、敵対者の護衛がついた場合、候補者自らが護衛の失態を誘発して共倒れ狙いもあるのか)


 自己犠牲をするまでもなく、自分の本来の護衛と合流して生還ルートを確保しつつ、くじ引きでついた護衛を自分の護衛に始末させることも可能かもしれない。

 つまり、自分が怪我もしくは死亡することで、敵対者を共倒れさせる。

 もしくは、自分は生還するものの、敵対者の護衛はこの機会に始末してしまう。


(スバルやアランがそんな手にひっかかるとは思えないけど、候補者が悪意を持っている線も護衛は考慮に入れて動くことになるんだ。これは確かに、命を預け合う関係とはいえ、お互いに全然気を許せない)


 アキラの組む相手はレグルス。

 何をどこまで考えているのかまったく読めないし、試験官とすでに何らかの取引を成立させている恐れもあるのだ。


「行け」


 ウォルフガングに促され、兵に囲まれながらアキラは歩き出す。

 肩を並べたレグルスとはまだ一度も目を合わせていない。

 長い一日の始まりだった。

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