3 誤算
「さて。おはようおはよう、みんな揃っているみたいだから、早速試験の説明をするね」
ほどなくして、試験官であるウォルフガングが愛想の良い笑みを浮かべて現れた。
ちらり、と倒れたドラゴンの死骸に目を向けたものの、特に触れる様子はない。少し前から様子をうかがっていたのかもしれない。
アキラに対しては何か含むような視線を送ってきた。目が合うと、ふっと笑われた気配。思わず目に力をこめて見返してしまう。
「試験内容は想像がついているかもしれないけど、この先に古い地下迷宮への入り口がある。時間差で全組潜ってもらう。中で一夜過ごして、明日の朝に帰還して欲しい。簡単な携行用の食糧は用意してあるので、各自必要な分だけ持って行くように」
ウォルフガングの説明に対して、候補者たちからはこれといった反応はない。
(ここまでの話は予想の範囲内ってことだよね)
おそらくその迷宮には、強い魔物がひしめいているに違いない。明日の朝まで生き延びられた者が帰ってこい、という意味だろう。
話だけ聞くと恐ろしいのだが、レベル90がついているならば問題がないのかな、と思った矢先。
ウォルフガングが片目を眇めて、唇の端を釣り上げた。
「なお、以前から候補者のもともとの財力や力関係などによって、依頼できる護衛に実力の開きがあるのは問題視されていた。なので今回は、候補者と護衛の組み合わせを変える。公平に、くじ引きでね」
ざわり、と場が揺れた。
アランとスバルの目つきが、はっきりと鋭くなった。
* * *
(候補者と護衛の組み合わせを、変える……?)
「意味がよくわからない、です」
「やられましたね」
「カタリナ家は知っていたのかもな」
アキラがおそるおそる呟くと、アランが低い声で答えた。スバルも険しい顔つきをしている。
ウォルフガングはざわめきが落ち着くのを待って、にこにことした笑顔で続けた。
「ルールを説明しておく。まず、候補者が試験続行不可の怪我を負う、もしくは死亡した場合、その候補者についていた護衛は失格となる。その護衛がついていた場合、本来の候補者も守り切れなかっただろうという意味でチーム全体としてその時点で失格。護衛対象が自分の候補者ではないからと、手を抜かれては困るからこれは当然だね」
話を聞きながら、アキラは自分の顔がどんどん青ざめていくのがわかった。
(いきなりスバルとアラン二人と引き離されるなんて)
異世界人であること、女性であること。秘密を抱えたアキラには戦闘以外でもリスクがある。
そんな事情を知っているわけではないだろうに、ウォルフガングはやけにアキラに視線を向けてきているようだった。
気のせいではない。
「恐ろしく手練れの護衛を連れている候補者もいるからね。試験に参加してくれて助かったよ。彼らには帰られるわけにはいかなかった」
はっきりと、アキラに目を向けて言い放った。
候補者本人ではなく、護衛が重要なチームもあるのだ、と。
そのまま、ウォルフガングは続けた。
「なお、護衛が死亡しても朝まで候補者が迷宮内で生存し、戻って来れるならなんの問題もない。また、今日の試験で他候補者に自分の護衛を損耗された候補者は、次回試験までに違う護衛を補充できるならしても構わない」
(うちの二人はまず大丈夫なはずだから、ここは心配しなくてもいいところだ)
他候補者を守って無事に帰ってくるくらい、アランとスバルなら可能だろう。そう思えるくらいに二人の実力を知れたのは良かった。
「ちなみに。どこか蹴落としたい候補者やチームがいる場合、迷宮内でエンカウントした際に攻撃を加えることは認める。候補者そのものへ危害を加えることは許さないが、護衛同士で殺し合い、勝ったチームが負けたチームの護衛していた候補者を置き去りにすれば、候補者は勝手に死んでくれる可能性が高い。そうすると、その候補者と、ついていた護衛の本来の候補者、二チームを同時に潰せる。ただし、自分が連れている候補者はあくまで他チームの候補者ということをお忘れなく。ルール違反で、候補者に直接攻撃を加えたり、もしくは『聖女の守護者』としてふさわしくない行為があったと告発された場合、審議の対象になるし、失格もあり得る。その点はじゅうぶん考慮の上、慎重な行動を期待する」
(魔物だけじゃなく、人間同士でもやり合えと……!)
想定していた以上に過酷な条件をつきつけられている。
誰もが静まり返った中、つばを飲み込むような音が聞こえた。
ウォルフガングは笑みを絶やさぬまま、言った。
「質問がなければ、くじびきをはじめようか」
・迷宮内で一日生き延びる
・候補者と護衛の組み合わせをランダムに変える。
・候補者が重傷もしくは死亡の場合、候補者自身とその候補者を護衛していたチームが失格となる。
・護衛が死亡は特に問題なし。
・エンカウントしたチームに攻撃を加えても良い(護衛を討って候補者置き去りにしても良い)。
・候補者に危害を加えるのはNG
・自分についた護衛に問題行動があった場合、生還した候補者は告発できる。




