32こんなことになるとは思いませんでした
その日の夜、エイトは自分に魔力があるのか確認することにした。昼間にお客から教えてもらった方法を実践してみようと思ったのだ。
「確か、手のひらを前に出して、目を閉じる。それから、イメージする。僕の得意とする魔法は……」
魔王の姿だった時は、様々な魔法が使えた。魔王というくらいだから当たり前であり、その中で何をイメージするか、エイトは迷っていた。迷った末に、今、この場で役に立ちそうな魔法をイメージすることにした。
「僕は、今はただの少年だ。老夫婦にお世話になっている少年でもある。これからもし、このまま過ごしていくのなら、少しでも役に立つような魔法がいいかも」
お茶の栽培をしている老夫婦。最近、天候不順でお茶の発育が良くないと言っていた。エイトは、育成魔法をイメージすることにした。
「お茶の葉がすくすく育っているイメージをすればいいのかな」
お茶畑の葉が健康に元気に成長しますように。
心の中で唱えてみる。しかし、数分経っても何の反応も起こらない。目を開けて辺りを見渡しても、自分の部屋があるだけで、特に何も変化は見られなかった。
「この姿では、魔法が使えないということか」
なんとなく、自分は特別な存在だと思っていたエイトは、内心がっかりしていた。とはいえ、一度で魔力がなく、魔法が使えないと判断するものよくないだろう。何度もやっているうちに、不意に魔力が溢れてくることもあるかもしれない。そして魔法が使えるようになるかもしれない。今のエイトにはたくさんの時間があった。
「今日はもう寝よう」
急に眠気を感じたエイトは、ベッドにもぐりこみ、そのまま寝てしまった。何も変化が起こらず、疲れる要素はなかった。それなのに疲れてしまった自分に、エイトは何の疑問を持つことはなかった。
「それで、実は魔力があったということですよね。その話しぶりだと」
ソフィアは、少年、エイトの話に口をはさむ。
「そう言うことになります」
エイトは、自分に魔力があることを知った日のことを思い出す。魔力があるかどうか確かめ、何も起こらなかったと思い込み、そのまま寝てしまった翌朝、エイトを拾ってくれた老夫婦が営む茶畑に変化が起こっていた。
「エイト!ちょっと見ておくれ」
いつもは目覚ましが鳴る音で目覚めるエイトだが、その日は、おばあさんの大声で目が覚めた。慌てて、着替えて自分の部屋から出ると、驚いた顔をした老夫婦の姿があった。
「こ、これはいったい……」
「そうなんだよ。エイトは、この状況に何か心当たりはあるかい?昨日まではこんな様子ではなかったんだけどね」
「本当にいったいどうしたものかねえ」
老夫婦の視線の先には、茶畑があった。しかし、昨日までの様子とは一変していた。昨日までは、緑の茶畑が広がっていたはずだ。多少、生育が悪いものの、売り物にならないというほどのものではなかった。それが、一夜でものすごい成長を遂げていた。茶畑とは思えぬほど育ち、背丈が人間の背をゆうに超えるほどの伸び具合だった。
「ええと、この状況は……」
エイトは、昨日の自分の行動を思い出す。昨日、魔力が使えるかどうか確認するための方法を実行した。イメージしたのは、お茶畑の葉が健康に元気に成長しますようにと心の中で唱えて、健康にすくすく育った青々とした茶畑を想像した。とはいえ、心の中でイメージしただけだ。しかし、その後、急激な疲労を感じたため、もしかして。
茶畑は、もはや原型がわからないほど育ち、茶畑一帯がジャングルと化していた。人間の背を越し、二メートルほどに達した茶畑には足を踏み入れる隙はない。
「これでは、茶を摘むどころの騒ぎじゃないねえ。さて、どうしたものか」
「大切に育てていたけど、このままでは、町の皆さんに迷惑になってしまう。その前に燃やしてもらうよう、役所に連絡した方がいいか」
老夫婦は自分の自慢の畑を燃やそうかと物騒なことを言いだした。エイトたちが外に出て様子を確認していると、異変に気付いた近隣の住民が集まり始めていた。皆一様に、突然の茶畑の成長ぶりに驚いていた。
「ぼ、僕が何とかしますので、燃やすのはやめてください。せっかく、おばあさんたちが丹精込めて作ったものを燃やすなんてできません」
「そうは言っても、どうやって元に戻すつもりだい?何か、方法を知っているのかい?」
エイトは、自分がこの状況を引き起こしたのだと確信していた。それなら、もう一度、今度は、元の茶畑をイメージして念じれば、元に戻るだろう。やってみる価値はあると思い、目をつむってジャングルと化した茶畑に手をかざす。
「茶畑が元に戻りますように」
「おや、エイトの身体が光っているぞ」
「本当だ。もしや、エイトは魔力持ちで、魔法が使えるのか!」
エイトが念じている間に、彼の身体が白く光り出す。そして、それと同時に茶畑の方にも変化が現れた。ジャングルと化していた畑が徐々に光に包まれ小さくなっていた。
「も、戻った……」
数分後、畑は昨日までの元の状態に戻っていた。目を開け、様子を確認したエイトは、急に身体に疲労を感じ、その場に倒れこむ。身体に力が入らず、立つこともままならない。
「す、すごい。一瞬にしてこの状況を元に戻すとは」
「ちょっと、あなたの拾ってきたエイト君、このままここに置いておくのは持ったいないよ」
「役所に連絡した方がいいわ。私、連絡してくる」
エイトの行動を見て、住民は驚くとともに、魔法の才能を認めていた。魔力を持つ人間は貴重で、もし見つけたら、役所に連絡をして、首都であるネームドールドハウスに集められることになっていた。もし、魔力を持つものが子供ならば、学園への入学が認められ、そこで魔法の勉強をすることになる。
「僕はやっぱり、魔法が使えたん、だ……」
住民の話をぼんやりと聞きながら、エイトの意識は遠ざかっていく。
『こんなところにおったのか』
『やっと見つけた。自分で飛ばしておいてなんだが、こちらに来てもらうぞ』
遠ざかる意識の中、エイトは二人の女性の声を聞いた気がした。どこかで聞いたことのある声だったが、薄れゆく意識の中で、誰かまでは思い出すことはできなかった。




