31これにて、戦いは終了、この後は仲良くしていきましょう
『女神様』
『悪魔』
ユーリとカナデ、魔王は驚きの声を上げた。
「久しいのう。」
「まっこと、お主と会ったのはいつぶりだ。」
声の主は、カナデとユーリを呼んだ張本人の女神と、魔王を呼んだ悪魔の二人の女性だった。そして、声がすると同時に二人が姿を現す。
「して、女神よ。おぬしは今回、重大な違反をしているようだな。」
「それは、お前も同じこと。」
「ええと、お二人はどういった関係で……。」
カナデは突如現れた二人の女性を見比べる。その二人の女性は、とてもよく似ていた。双子と言われても、姉妹と言われても違和感がないくらいだ。ただし、顔立ちはよく似ていたが、まとう雰囲気は正反対だった。
カナデが会ったことのある女神は、全体的に白い清楚な雰囲気をまとっていた。黄金の髪に瞳、白いドレスを身にまとい、高貴な雰囲気をも兼ね備えていた。対して、カナデが初めて出会う、もう一人の女性は、全体的に黒く、蠱惑的な雰囲気をまとっていた。黒髪に深紅の瞳、黒いドレスを身にまとい、こちらも高貴な雰囲気を兼ね備えていた。対照の色をまとっているのに、なぜか顔立ちは似ている。
「おお、お前が今回の聖女として、間違えて呼び寄せられた出来損ないか。」
ははっと、黒い女性に嘲笑されて、カナデはイラっときた。さすがに初対面の人にそんなことを言われて気分を害さないほどお人好しではなかった。普段の自分なら、言われてそのまま何も言い返せないのだが、この世界に来てから、自分の言葉が素直に口から出るようになっていた。
「出来損ないとは失礼ではないですか。あなたが偉い人なのだということはわかりますが、言葉を選ばないと、例え偉い人でもいつか、誰かに恨みを持たれて、刺されますよ。」
「ほう、威勢だけはいいようだな。わらわが刺されるなど、天がひっくり返ってもあり得ない事象だ。女神よ、それで、今回の勝敗はどうするのだ。」
カナデの反論は軽く流されてしまった。カナデはさらに文句を言おうと、口を開きかけたが、今度は女神がカナデについて補足する。
「そこまで言う必要はなかろう。確かに出来損ないではあるが、なかなか見どころのある女だぞ。こやつは。」
「そのようにはみえないがな。なにより。」
「いたっつ。」
黒い女性は、いきなりカナデの胸を掴みだした。この世界では、性別確認をするための必須の儀式になっているのだろうか。
「ほう、なかなかいいものを持ってはいるようだな。ただし、容姿や服装がダサすぎて、活かしきれていないようだが。」
「無理だろう、こいつの芋くささは、多少の努力でどうにかなるようなものでもないだろう。」
しばらく静かに成り行きを見守っていたユーリが余計な一言を口に出す。
「先ほどから、女性に対して失礼だぞ、勇者。」
「イケメンは心まできれいなのね、」
「いやいや、こいつも俺たちと同じ世界から来たんだぞ。この姿は魔王の姿であって、本来の姿がこんなにイケメンなわけがないだろう。」
ユーリの暴言に対して、魔王が失礼だと言い、またもや二人の間に剣呑な空気が流れる。それを止めたのは、女神だった。黒い女性はいまだにカナデの胸をもみ続けている。
「そこまでにしておけ。そこの二人。さて、わらわとお前との戦いだが、よくよく考えたら、わらわたちはなぜ、こうも無駄な争いを続けてきたのだろうか。」
女神の言葉に黒い女性は、首をかしげて悩みだす。それでもカナデの胸から手が離れることはない、
「領地争いとか、そのへんじゃなかったか。それと、味方の数の大小とか。ううん、後は……。」
なんともあいまいな返事をする黒い女性。それに対して、カナデはつい叫んでしまう。争いの理由がわからずに、この二人の女性は、今まで代理戦争として魔王と勇者を呼んで戦わせていたのだろうか。
「それって、すでに何のために魔王と勇者を自分たちの代わりに争わせているのかわからないということですかあ。」
「そんなことはない。そうだ、元はといえば、お前が、自分たちが直接戦い合っても面白くないからといって、魔王と勇者を使って代理戦争をしようと言い出したんだ。だから、この戦いを始めた発端はお前だ。だから、女神に全ての責任がある。」
「いやいや、そなたも斬新で面白いと言っていたではないか。それを人のせいにされても困る。」
「争いの理由さえあいまいになっているほど戦っているのなら、いっそのこと、今回を機にやめてしまえばいいのではないですか。」
『そうしよう』
カナデの提案に二人は見事の声をハモらせた。
「そうと決まれば、お前たちはもう用済みだな。悪かったな、ああ、すっきりした。もはや理由もわからず争っていたというのは、ずいぶんな時間の無駄だな、これからはもっと時間を有効活用するとしよう。」
「そうだな、ああ、一つ言っておくが、わららはお前のことを毎回、勝たせてやっていただけだからな。そこをはき違えるなよ。」
「わかっている。そもそも、わらわとお前はもとはといえば、同じような存在。負け続けているのはおかしいと思っていたのだ。」
最後には仲良く握手するまでとなった二人に、カナデが最初の質問を投げかける。
「それで、あなた方は結局どのような関係なのですか。」
女神と黒い女性は長年のもやもやが解決したのか、すっきりした顔でカナデの質問に軽く答える。
「わらわは女神、この世のすべてをつかさどる神。主に善を生業としている。」
「わらわは悪魔。同じくこの世のすべてをつかさどる神。主に悪を生業としている。」
「女神と悪魔か。道理で世界規模で戦いが発展するわけだ。」
「そちらの金髪の女性は女神様だったのか。道理でキラキラ輝いていると思った。」
ユーリと魔王はうんうんと二人の女性の正体を聞いて納得したように頷いている。カナデだけは納得がいかない様子だった。
「どうにも納得できかねるんですけど。そんなに簡単に争いを終わらせて本当にいいんですか。お二人は神様としてのプライドはないのですか。」
あまりにも身勝手な理由から始まった戦いが、これまた身勝手な理由によって幕を閉じようとしている。そのせいで、この世界の人間がどれだけ犠牲になったというのだろうか。
「そんなことを言われようが、わらわたちに関係はないからな。所詮、わらわたちにとって、お前たちは暇つぶしのおもちゃでしかない。それもただのおもちゃではない。再生能力の高いおもちゃだ。同じものとはいかないが、時間がたてば、また再生する便利なものだ。」
カナデの叫びに女神は大して何も思わないのか、軽く返して、話はこれで終わりとばかりに今後のことを話し始める。女神が人間とは違う存在なのだと、改めて感じさせられたカナデは口をつぐむしかなかった。
「では、話が終われば、もうお前たちに用はない。何か、この世界でやり残したことはあるか。わらわが納得できるような理由があれば、この世界に残っても構わないが。」
「女神よ。珍しいな。人間に選択肢をゆだねるなど。わらわは別に面白そうだから構わないが。」
「俺は絶対、元の世界には戻りたくない。この世界でハーレムエンドを決めて、ぜいたくな生活を満喫してやる。」
「私もこの世界に残りたい。私とともにこの世界に呼ばれたクラスメイトのことを考えると、この世界にいた方がいい気がする。」
「私はまだ元の世界には戻れません、女王様やソフィアと約束しました。約束を果たすまで、もとの世界には戻らない覚悟はできています。」
ユーリ、魔王、カナデが三者三様の意見を述べる。彼らは一様に真剣な表情で、女神と悪魔の判定を待つ。三人の覚悟を決めた表情を見て、女神はうっすらとほほ笑む。悪魔も同様の笑みを浮かべている。
「少し、わらわたち二人で話し合ってもよいかな。なに、それほど時間はかからぬゆえ。しばし待て。」
女神と悪魔はユーリ、カナデ、魔王から少し離れた場所でこそこそと話し合っている。時間にして数分くらいだったが、その話し合いによって、自分たちの運命が決まってしまうと思うと、不安で落ち着かない時間だった。三人は無言で彼女たちの話し合いが終わるのを待っていた。
「では、発表しよう。」
話し合いは無事終了したようだ。女神と悪魔が再び三人の前に現れる。
「一人ずつ発表していこう。まずは魔王から、魔王、お前は……。」
順番に女神がそれぞれの未来を決めていく。悪魔は女神の言葉を黙って聞いている。
「以上で、発表は終わりだ。文句は受け付けない。この決定は絶対だ。それでは解散とするとしよう。」
女神の解散の合図をきっかけに、その場にいた三人と女神と悪魔の姿が薄れていく。女神の言葉に反論したのはユーリだった。他の二人は自分たちの行く末を素直に受け入れていた。
「なっ。俺はお前たちの判断を認めない。」
「ざまあみろ。このくそ野郎。」
「ふむ。私はこの結果に異論はない。」
「カナデさんがこの世界に残ってくださってうれしいです。」
「えっ。ソフィア。」
自分の姿が薄れていくのを見つめていたカナデが声の主に視線を迎えると、笑顔のソフィアの姿があった。
「私も、実は……。」
ソフィアが何か重要なことを言いかけていた気がするが、最期まで聞くことなく、カナデは女神たちとともにその場から姿を消したのだった。
女神と悪魔の気まぐれにより、三人の運命は決められてしまった。これから彼らにはどのような試練が待ち受けているのだろうか。きっと平穏な日々は待っていないだろう。




