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『犯人発見!』

 そのメールの着信時刻は、どちらも深夜だった。朝寝していた航介がつづけて開封したときには、すでに正午を過ぎていた。

『犯人は、横浜在住の当時三十歳の男。教唆した奴がいる模様。実行犯への報酬はなく、逆に実行犯の弱みにつけこんでの教唆。女性問題。』

キジからの連絡は、この一時間後にもきていた。

『教唆した奴は、永住権を持つ在日韓国人。政商の類、暴力団組員。普段から、東北地方などは、神奈川の植民地だとうそぶいていたらしい。』

航介は、キジに連絡をしたがなかなか繋がらないので、代わりに多くの人脈をもつサルに電話をかけ、心当たりをピックアップしてもらうことにした。サルは、「それならあの有名人でございましょう」と即答して、

「彼は、幕藩体制の先鞭をつけた北条時政に自らをなぞらえているようです。ご承知のように、この地域は頼朝が奥州藤原氏から接収した後、北条家の直轄地とされたわけですが、野心家の彼は、その史実を利用して物心両面でこの地域を侵略し、収奪しようとする壮大な計画をもっているようなんです。」

「北条による侵略?」

「ハイ。彼は、中央とのパイプを背景に微笑みで近づいてくるそうです。しかし、一度関係をもってしまうと骨の髄までしゃぶられるようです。ヤクザによく見られるやり方です。」

「なんという名前なんだ?」

サルは、「思い出せません」と言って、調べてからメールで報告することになった。

 十分後、サルはある中年男の名前を送ってきた。


『三浦守 五十九歳 本籍地 三戸郡五戸町…』


 航介は、キジへの確認をするために何度もメールを送り、留守番電話には何回もメッセージをのこしておいた。久々に再会したあの日の病院では、マメに携帯電話をいじり、女子高生のように器用に使いこなしていた浜田の姿からすると、この空白の時間は意外なものだった。

 それから数時間後のことである。夕方のローカルニュースでは、八戸港で他殺体が発見された報道がなされていた。またしても無慈悲なマスコミは、二歳くらいの幼児の手を引きながら、身元確認をするために八戸署へ入っていく身重の若妻にカメラのレンズを向けて、忙しなくフラッシュを焚いている。航介が「空気をよめよ、バカどもが!」とテレビを見て憤慨していると、キャスターが航介の心身を凍らせる言葉を述べた。

「被害者は、浜田弘志さん。二十歳。」

彼には前科があったのだろう、すでに身元が特定されていた。航介にキジと名付けられていた浜田は、手足をロープで括られ、こめかみから一発の銃弾を通されて死んでいた。航介への最後のメールから、十時間ほどしか経っていなかった。

 しばらくして、顔見知りになった二人の刑事が険しい顔で、南部曲家を訪ねてきた。

「署まで同行願いたい。」

「なんでだよ。ポリの厄介になることはしてねぇよ。」

「協力していただいた物をお返ししますので。」

老けたほうの刑事が、珍しく丁寧な言い方をして、家宅捜索で押収していたものを返還することをにおわせた。航介はそれならばと任意同行に応じ、覆面パトカーに乗り込んだ。

 ところが、それはウソだった。浜田の携帯電話の通信履歴をもとに、殺されたキジの最期の送信先が航介であったことに当局が目をつけたからだった。またも、航介は容疑者となっていたのである。相変わらず、彼らの拙い憶測で航介は犯罪者呼ばわりされた。素人の航介が、拳銃を扱うことなどできないだろうに、深夜まで恫喝を繰り返した。

「警察官というのは、妄想好きなんですねぇ。英語で、レインボー・チェイサーというらしいですよ。」

航介は、精一杯の皮肉を込めて挑発してやった。

 そこに、若い刑事が、取調官に耳打ちをした。取調室の外が急に騒がしくなり、しばらくして航介は解放され、いくつかのダンボールを積んだタクシーに乗せられて帰された。そのタクシーのラジオからは、またも八戸港で揚がった新たな被害者の名前が、冷たく報道されていた。



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