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ラウンジを後にし、俺は次の授業の準備をする。先輩たちはよろしくやっているだろうか。鞄からテキストを取り出し、軽く予習をする。そしてチャイムが鳴り、皆教室に集まる。
「おい朝陽…お前俺を見捨てやがったな。」
「悪い、完全に忘れてたわ。でもよかったろ?大門めっちゃ先輩達と話したがってたし。」
「どこがいいんだよ!あんなイケメン野郎と美女達の中に俺一人とか、会話に入れないしただそこに居るのが苦痛だったよ…」
どんよりしたオーラが見える大門をみて申し訳なく思った。確かに、あの場に俺が一人だったらって考えるとメンタルえぐられる。
「悪かったな。許してくれ。」
「一回お前にも経験してほしいわ…」
大門の落ち込み具合は授業が終わるまで続いた。
俺はいつも通り、終礼が終わった後、教室を出ようとしたが、担任の清水先生に呼び出された。机上に大量のプリントが置いてある。察した。
「南雲君ちょっと話があるの。少しいい?」
「はい、構いませんよ。プリントは何処に運べばいいですか?」
「ああ、それもあるんだけど、ちょっとね。」
どうやらプリントを運ぶだけではないらしい。俺なんかしたかな…少し怯えながら先生の後を着いていった。もちろんプリントを抱えながら。
「先生、話ってなんすか?俺怒られるようなことしましたっけ…」
「うん、したね。」
え、俺怒られるようなことしたの?た、確かに昨日女の子のお尻に手が当たっちゃった。どこぞのラッキースケベくんのように。けどあれは事故で、必死に謝ったら向こうもちゃんとわかってくれた。あと昼食の時、男子生徒に水を頼まれたので、運んであげた。その時にこぼしてしまった。あれは椅子の脚に俺の足が持っていかれたからだ。必死に謝ったからあれもちゃんと向こうはわかってくれたはず… でもよく考えたら怒られる要素ありまくりだな。ここは素直に認めるべきか。
「すいません。でもあれは態とじゃないんですよ!事故なんです!だから許してください。」
「ちょっと何言ってるかわからないけど、南雲君が思っていることは関係ないわ。」
「あ、そうなんですか。ならよかったです…」
職員室に入り先生の机にプリントを置く。先生は椅子に座り、俺はその前に立った。
「私が言いたいのはこれ。」
そう言って見せてきたのは部活の入部希望書だ。
「希望なしってどういうこと?この学校は相当の理由がない限り、基本生徒には部活動に入ってもらうっていう約束なの。」
「え?そんなの初耳なんですけど。」
「それは当然よね。だって入学式に寝てたんだから。
なんで知ってるんだよ。確かに俺は、入学式の校長の話がつまらなすぎて寝てしまったけどさ。まさかバレてるなんて思わないじゃん?
「よっよく見てましたね…まさか見られてたとは…」
「はぁ、まあいいわ。取りあえず、何か部活動には参加しなさい。まだあと一週間は見学の期間があるから、じっくり考えてほしい。部活には入ったほうが人間関係も広がるし、きっとあなたにとってもいい経験になると思うわ。」
「は、はぁ…わかりました。じゃあもうちょっと考えてみます。」
「南雲君は、運動得意?」
「いえ、中学の時は50メートル走8秒台で、遠投20メートルぐらいしか投げれなかったので、たぶん悪いと思います。」
「あら、そうなの。じゃあ運動部系はちょっと厳しいわねぇ。」
「あ、でも体力なら自信ありますよ!中学の頃毎日先輩に飯買いに行かされたりとか、荷物持ちとか追いかけまわされたりとかしてたんで!」
清水先生は唖然とした表情をする。なぜ平気で笑いながらそんなことを話せるのか。
「あ、あら…そう…大変ね…」
「いやー慣れたら結構楽ですよ?だから俺学校では購買早漏野郎ってあだ名ついてました(笑)」
朝陽は笑いながらそう言った。だが、清水の心境は複雑だった。彼は明らかにいじめられていた。なのにその話を笑顔でする。彼の心にはすっぽりと穴が空いているような気がした。そんな彼を見ていると、胸が苦しくなった。まるで過去の自分と照らし合わせているように。
「そう、わかったわ。ならあなたにお薦めの部活があるの。今日この後時間ある?紹介するわ。」
「あ、いつも暇なんで全然行けます。じゃあ荷物取ってきますね。」
そういって朝陽は走って教室に戻る。その間、清水は朝陽のことを考えていた。
彼をなんとかしてあげたい。昔の自分のようになって欲しくない。そのためには、彼には少し辛いかもしれないけど、自分が顧問を務めているテニス部に入れさせようと思った。その理由も彼女なりの理由があった。