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教室に入ったら全員の視線が俺に向けられた。俺はその理由がよくわかってなかったので、何事も無かったかのように机に向かった。
一時間目の現代文の授業が終わり、休み時間の時、ひとりの男子生徒が話しかけてきた。
「なあ南雲、お前あの西條先輩と付き合ってんのか?」
同じクラスの大門翔だ。
「え、別に付き合ったりとかしてないよ。俺なんかが付き合えるわけない。」
「本当かー?だって今朝一緒に登校してただろ!羨ましいな〜ちくしょー」
西條先輩の話をしている時に、なぜか愛美からの視線を感じた。いや、気のせいか…
「まあそんな話は置いておいて、今日昼飯一緒に食わないか?これから三年間同じ学校に通うんだ。仲良くなろうぜ。」
「あーごめん。今日は無理だ!ちょっと他の人と食べる約束しちゃったよ。」
「そうなの?じゃあ俺も混ぜてよ。」
「俺では決めれないから後で聞いてみるわ!」
「オッケー!じゃあまた後で」
昼休み 廊下が騒めく。
「うわ、美しい…」
「さすが西條先輩、私が尊敬しているだけのことはありますわ…」
「歩くだけでオーラが凄いな。」
「綾瀬さんや桃原さんに匹敵する美しさだ
…」
聞こえてくるのは西條先輩を賞賛する声が殆どだ。改めて凄い人と昼食を共にすることを、朝陽は実感する。
「あの、南雲朝陽くんが居るクラスを教えてくれない?」
そんな奴いたか…?誰だ…
周りに居る生徒は誰も答えることができない。
いや、まだ入学して2日目だから仕方ないと思うけどさ、やっぱ傷つく…
「南雲くんなら6組ですよ。」
答えたのは同じクラスの桃原さんだった。俺の前の席の人だ。
「教えてくれてもありがとう。あなた、凄く可愛いね!」
桃原さんの頬はほんのり茜色に染まった。この二人が会話をして居る光景は、まさに宝石。美しく、輝きを放っていた。男子からは歓声が、なぜか女子からもキャー!とピンク色の歓声があげられている。
「い、いえ、そんな…西條先輩にそう言ってもらえるなんて光栄です。」
恥ずかしさからか、桃原さん少し下を向きながら話している。
「あの、良かったら一緒に昼食でもどう?南雲くんも一緒なんだけど、それでも良かったら是非。」
「私もうすでに一人食べる約束をしている人が居るんです。その子も一緒に良いですか?」
「もちろん!ご飯はみんなで食べる方が楽しいもんね!」
「ありがとうございます!すぐに準備してきます!」
二人の笑顔はアイドル顔負け、10年に一人レベルの美しさだった。
「愛美!お昼ご飯なんだけど、西條先輩と一緒に食べよう!」
「え、西條先輩と?まあ、構わないけど…」
え?なんで?西條先輩は俺と約束してなかった?なんで愛美と桃原さんが一緒に食べるんだ?頭には?マークが飛び交った。
桃原さんが愛美の元へ駆け寄ってすぐに、教室には例の人物がきた。
「南雲くん!お昼ご飯!3階のラウンジで待ってるから来てね!」
子供のように無邪気な笑顔を見せて俺に言ってきた。今何が起きているのか全くわからないし、クラスの男子からの視線が痛いが、とりあえずラウンジへ行こう。
「大門、てな訳だからラウンジへ行こう。」
「お、おう…なんか色々とすげーな…」
大門も現状の把握ができないのか、茫然とした表情をして教室を出た。
三階のラウンジはまるでカフェのようだ。そして外はテラスになっている。両方六人分の席があり、現在俺は右端に大門、その隣に俺、左端に西條先輩、大門の正面には桃原さん、そして俺の正面には綾瀬愛美がいる。
男子生徒からは舌打ちされ、鋭い視線で睨まれている。だって学園のアイドル西條先輩、入学して間もないのにすでに先輩同級生問わず、何人からも告白され、すでに学園のマドンナと称されつつある綾瀬愛美と、桃原優美果がいるのだから。
「うん、おいしい!南雲くんも一口いる?」
「いや、俺は自分のあるので遠慮します…」
「えー良いじゃん。御礼だよ。私の卵焼きを受け取って…?」
西條先輩は俺よりも10cmほど身長が低い。だから自然と上目遣いになってしまう。潤んだ瞳を向けられたら断り辛い。
「じゃあ頂きます…」
満遍の笑みで卵焼きを俺の口元へ運ぶ。
「あ、あの!俺自分で食べれるので、そういうのしなくていいですよ…」
「えぇー?なんで?いいじゃん!こういうのやってみたかったのーお願い!」
いや、俺はいいんだけど周りの目線がね?強烈なんですよ…特に手前に座っている愛美の視線が…なんでそんなに俺のこと睨んでるんですか…俺みたいな奴が西条先輩に、男の誰もが憧れるあーんをしてもらう事がそんなに不服か?
西條先輩は諦めそうにないので食べさせてもらうことにした。
「あーん」
「あ、あーん…」
美味い…美味すぎる…!卵焼きってこんなに美味しかったか?ただ卵を焼いただけだぞ!?口の中でトロけてやがる…!
「美味いです…美味すぎます!」
「えへへ…そんなに直接言われるとちょっと照れちゃうかも…」
顔を少し赤く染めながら西條先輩は答える。
なにこの可愛い生物…好きになっちゃいそう…
バキッ!!!!
正面から木が折れるような音がした。ゆっくりと目線をやると、愛美のお箸がチューチューのように二つに分かれていた。
「ちょ、ちょっと愛美!?大丈夫!?」
桃原が驚きながら声をかける。
「う、うん…大丈夫… お米を一杯に詰めすぎて凄く硬かったから思わず力が入っちゃって…」
口角は上がっているが全く笑っていない。むしろ恐怖を感じる雰囲気を漂わせる愛美がいた。