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閑話休題 バレンタイン特別編 14日の思い

愛美視点中心で書きました。

中学一年の頃の話です。

中学生になって初めてのバレンタイン。14日に近づくにつれて、胸が高鳴る。

小学生の時は特に意識することなくチョコレートをあげていたが、中学生になり、周りの目線も徐々に変わり始め、異性にチョコレートをあげることに少し恥ずかしさを感じる。それでもあげたい人が居る。



そして14日、一週間前から準備を始め、昨日ようやく完成した。喜んでくれるだろうか。

チョコは二つ、一つは親友の優美果へ、そしてもう一つは…


中学が地元のため、通学中に同中の生徒たちがバレンタインでソワソワしている。周りを見渡すたびに目が合う。やはり男子たちは女の子からチョコレートが欲しいのかと思いながら、学校へ向かった。



教室には殆どの生徒がすでに登校しており、女子が男子にチョコレートを渡している光景が見られる。愛美が教室の扉を開けた途端、全生徒の視線が愛美に向けられる。期待と、疑問も同時に…


だがそこにはまだ、本命の相手は居なかった。



「なぁ、綾瀬さんって誰にチョコあげるんだろうな?」


「やっぱ榊じゃね?学校一の美談美女だしさ」


「わからん…間違って俺にくれないかな…」


小声で愛美のチョコの行方を探る生徒もいれば、なぜか自信ありげな態度をする生徒も現れる。


愛美はそのような光景を見るが、自分のことを話しているとは感づかない。自分に注目が集中しているとは気づくことなくショートホームルームが始まった。



一限目が終わり、二限目が終わり…気がつけばお昼休みになっていた。まだチョコを渡せずにいる。


「愛美、今日は私以外に誰かにチョコあげたの?」


「ううん、まだ、あげてないよ…」


そう、まだ渡せていない。本命である人にまだ渡せていない。赤い包装で包まれたチョコレートをポケットに忍ばせながら探していた。


「どわぁ!?」


「きゃあ!」


愛美は廊下を曲がった瞬間、男子生徒とぶつかった。


「あ、綾瀬さん…!ごめん。大丈夫?」


「いたた…うん。大丈夫だよ。……あっ」


ポケットに入ったチョコが心配になり、急いで人気のない場所へ向かい、確認した。


「うそ…でしょ……」


チョコレートにはヒビが入り、形が崩れてしまった。


午後の授業には力が入らず、そのまま部活にも影響し、皆が心配するが、体調が悪いとだけ言って黙々と練習をした。


「さあ帰ろっかー…愛美?」


「ごめん優美果、今日は1人で帰りたい」


「…そっか?わかった。でも何かあったら言ってね?」



優美果も帰宅し、部室には愛美一人だけが残った。部室の鍵を閉め、職員室に返却し、門を出て帰宅路を歩く。


「渡しそびれちゃった…今日は一言も話すこともなかったし…」


形の崩れたチョコレートを見つめながら目には涙が溜まり。その場に崩れ落ち、泣き始めてしまった。


「お、おい愛美…?なにしてるんだ?」


背後から愛おしく、そしてずっと聞きたかった声が心に染みる。


「しょう…よう……?」


声の下方向へ視線を向け、目と目が合い、思わず頰を赤く染める。


「な、なんでもいいでしょ…そ、それより、部活してないのにあんたはこんな時間までなにしてたの?」


涙を吹きながら質問を返す。


「あーちょっとね…」


朝陽のことだからどうせ先生の手伝いでもしていたのだろうと解釈する。


「それより今日バレンタインだな」


「そ、そうだね…」


内心ギクリとしながらも平然を装う。


「朝陽は…その……チョコ…貰ったの?」


不安を伴いながら質問する。


「俺?俺なんか貰えるわけないじゃん。そんなこと聞くまでもないだろ〜」


「そ、そっか…」


ホッとしつつもこのバラバラになったチョコレートを渡そうかと悩む。


「愛美は誰かにあげたの?」


「う、うん。あげたよ。凄く喜んでくれた」


本命にはまだだという言葉を隠す。


「へ、へぇ。そうか。良かったな…!」


愛美には一瞬、悲しげな表情をしたように見えた。その表情をみて、思わず口と体が走ってしまった。


「ただまだ一つ余ってるの。形は崩れちゃって台無しになったけど…でもこのチョコは私の精一杯の思いを込めて作ったの」


それだけ言って朝陽の目を見つめる。太陽が頰を照らしながら…


「…そうなんだ。羨ましいな。きっと、そのチョコを貰った人はとても幸せなんだろうな…そいつの事大切にな!」


愛美に笑顔を向ける朝陽。丁度太陽と朝陽が重なる。笑顔を見せる朝陽だが、太陽と重なり、その笑顔は暗くなる。



違う、そうじゃない。私が伝えたいのは…!


「だけどこんなボロボロのチョコなんて誰も貰ってくれないと思う…だけど、私が本当に思いを込めて作ったチョコなの…!だから…その…」


俯く愛美を見つめ、朝陽はこう言った。


「な、ならそれ俺にくれ!あ、いや、嫌なら別にいいんだけどさ…」


その言葉を聞いた愛美は顔を上げる。


「ほ、ほんと…?本当にこれ貰ってくれるの?」


「ま、まぁな…俺で良いなら…欲しいなって…」


愛美は赤い包装に包まれたチョコを朝陽な手に添える。そして朝陽はその場で紐を解き、チョコレートを口に運ぶ。


「え!?今食べるの?」


「え、うん。だって今食べたいもん」


愛美は初めて一人で料理をしていたため、あまり自信はなかった。不味かったらどうしよう。そんな不安がただ募っていく。


「…美味い」


その言葉に愛美は目を見開く。


「ほ、ほんとに!?よかった…」


「うん、すげえ美味しいよ!まあ俺よりも本命のやつに食べてもらえなかったのがマイナスだけどな」


朝陽はそう言うが、愛美はとても笑顔で朝陽の腕に抱きつく。朝陽は驚きながらもチョコに夢中になる。


「そんなの…どうだって良いのよ」


「はあ?どうでもよくないだろ。俺知ってんだぞ。お前が毎日スーパーに行ってチョコ買い占めてたこと。あれだけ努力したんだから報われなきゃダメだろ…」


朝陽が自分のことを見ていてくれた。私のことをここまで大切に思ってくれていた。そして思いの証を大切にしてくれていること。そのことに一層口元が緩んでしまう。


「もう…!そんなことはどうでもいいの!」


愛美はこのバレンタインデーに向けて頑張ってきた一週間を思い返して小さく呟く。


「今が一番幸せだから……」


「ん?なんか言った?」



赤くてほんのり暖かい夕陽が暮れた。





この時はまだあの幸せなひと時が消え去るとは思っていなかった。

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