10
「一年生の皆さん!見学に来ていただきありがとうございます!我々テニス部はインターハイに向けて、日々練習をしています!初心者の人でも大丈夫!私たちがちゃんと教えてあげるからそんなに気負わなくていいからね!」
一年生の見学者たちに話しているのは西條先輩だ。西條先輩は学校でもかなり有名なので、入学して2日足らずで一年の俺たちにも情報が回ってくる。生徒会兼テニス部。成績優秀で、昨年のインターハイでは一年生部門優勝。男女ダブルスで二位という輝かしい成績を収めて、文武両道を高いレベルでこなしている。まさに奇才。すごいですはい。
「来てくれたんだ。」
西條先輩が俺に話しかける。
「まあ、先生に進められて来ちゃったって感じです!」
「へえ~清香ちゃんがねえ…」
なんで下の名前で呼んでるのか不思議に思う。
「そうだ!せっかくだし、一緒にテニスやってみない?」
「え、俺がですか?」
「そうよ!だってただの見学なんてつまらないじゃない!」
「それもそうっすね。やってみたら興味持つかもしれないし。俺初心者なんで軽くお願いします!」
「えへへ~まっかせーなさーい!」
無邪気な笑顔は反則です先輩…
朝陽は顔を赤くしながらそう思った。
「あれれ~南雲君顔赤くなっちゃってる~もしかして、私に惚れちゃったのかな??ん???」
「や、やめてくださいよ!俺はそんなすぐに恋愛感情は抱かない男なんですよ!」
「へー南雲君は一途な男なんだ。ほんとに?じゃあこうしても?」
先輩が俺の腕に抱きつく。
俺は今すぐ沸騰しそうになった。
「なななななな何やってんですか!離れてくださいよ!」
「フハハハハ!南雲君面白いねー。ごめん。ちょっとおふざけが過ぎちゃった」
俺にめがけてウィンクをしながらペコちゃんのように舌を出す。
ダメだ。完全に遊ばれてる…とにかく周りの目線が痛いです。
「愛美、怖い。なにかあったの?」
「な、なんでもない…ごめんね優美果。早くいこう…」
そこには握りつぶされたペットボトルが置いてあった。
「そういえばさ、綾瀬愛美ちゃんってテニスすごく上手なんでしょ?」
「あーらしいですね。俺はよくわかんないです。」
「え、幼馴染なのにあんまり知らないの?」
「なんで俺が愛美と幼馴染だって知ってるんですか?」
「この前一緒にお昼ご飯食べたじゃん。そのときに色々と聞いちゃったの。南雲君は急にどこかへ行っちゃった後にね」
緩く続いていたラリーだったが、先輩がそう言った瞬間かなり力の入った打球が帰ってきた。
「おわ!」
「あ、ごめんねーつい力が入っちゃった。」
笑いながら言ってますけど目が笑ってないですよ。何があったんですか…
「ま、まあ愛美とは幼馴染ですけど、そこまでお互い情報共有してたわけじゃないんであんまり知らないですね。」
「へえーそうなんだ。じゃああんまり会話とかもしないの?」
「しないですね。そもそも話すようなこともないので。」
「ふーん。そっか。まあ色々あるもんね~」
そのあとは先輩たちが練習しているところを俺たち一年生はただ眺めていた。
練習も終わり、見学者への挨拶が終わった後、西條先輩が動いた。
「ねえ愛美ちゃんと優美果ちゃん。ちょっとだけテニスしようよ。ガールズトークも含めて♡」
西條先輩からのお誘いに周りはどよめく。だって西條先輩と綾瀬愛美と桃原優美果、天門学園BIG3が対面しているからだ。
「え、良いんですか!?是非お願いします!愛美!やろうよ!」
「いっいいけど、時間は大丈夫なんですか?」
「そんなの気にしない気にしない!多少遅くなっても大丈夫よっ」
三人はコートに向かいラケットで球を打つ。周りには会話の内容は聞こえない。
「愛美ちゃん、去年の全国大会すごかったねー!私見てたよ。」
「西條先輩に自分のプレーを見ていただけたなんて光栄です。」
「正直私驚いちゃった。初めて年が近いテニスプレイヤーを見て刺激を受けちゃったから。」
「それほどの選手でもないですよ。ありがとうございます。」
「むぅ…愛美ばっかり褒められてる…先輩!私のプレーは見てくれました?」
「もちろん!二人とも本当に強かった!まさかこの学校で会えるとも思ってなかったし。」
「それで西條先輩、お話ってなんですか?」
「あら、もう本題に入っちゃう?」
ラケットの動きを止めて、愛美たちの元へゆっくりと向かう。
「南雲朝陽くんのことなんだけど」
朝陽の名前を聞いた瞬間、愛美は真剣な表情になった。
「中学の頃の南雲君のことを聞きたいの。彼はどんな生活を送っていたの?」
優美果は息をのんだ。朝陽がいじめられていたのを知っているからだ。でも愛美には伝えられなかった。なぜなら愛美が原因でいじめられていると愛美自身が知ってしまうことを恐れたからだ。
優美果は答える
「いつもお昼休みは走り回っていましたね。大量のパンとかを抱えながら。あとはいつも先生のお手伝いをしていました。教室では基本読書をしていた気がします。あんまりはっちゃけるタイプではないですけど、挨拶とかちゃんとしてて、明るい感じでしたね。とっても優しい人だと思います!」
「随分と朝陽のこと詳しいのね。」
「ええ!?い、いや私は三年間同じクラスだったから、毎日視界に入るし…」
「へえ~そうなんだ。本当にそれだけなの?他になにかなかった?例えば…昔より接する機会が減っちゃったり…とか?」
私は背筋が凍った。なにか自分のことを探られている気がしたのだ。今の言葉は明らかに私に対して向けられた言葉だろう。先輩はこの前、朝陽と昼食を共にしていたし、見学中も会話をしたり、ラリーをしていた。もしかしたら、何か知っているのかもしれない。
「そうですね。中学生になってから朝陽とはあまり関わらなくなりました。」
真っ直ぐ西條先輩を見つめる。二人の間には何かがあった。