第4話 いじめの理由は大抵後付けである
「ねぇ、千明」
「何?」
千明が相対性理論だか何だかよくわからない本を読んでいる手を止め、顔をこちらに向ける
「私って薄情なやつかなぁ?」
「本当になんなのよ急に…」
質問の意図がわからなかったのか本をしまいながら眉をひそめる
「さっきさ、一色さんに秋風さんのこと聞かれたんだよ」
「で?」
「私がもし仲のいい友達がいなくなったらあそこまで必死になれるかなぁって」
千明は少し悩んだのか顎に手を当てしばらく目を瞑っていた
「その様子を見ていないからあそこまで、というのはわからないけれど一色さんの場合は少し特殊なんじゃないかしら」
「…特殊?」
窓から風が吹き、彼女の髪をさぁっと揺らしていくと、誰かの秘密を話す幼い子供のように少し意地の悪そうな顔をして言った
「中学生の時、いじめられていたのよ。一色さん」
「そ、そうなの⁉︎」
あんなに美人なのに?
いじめられっ子と言うよりどちらかと言えばいじめっ子に回りそうな容姿じゃないか
まぁ、いじめっ子は美人と言うのは偏見かもしれないが
「いじめてたのは小学生の時に仲がよかった子らしいわ」
余計わからない
なぜ仲が良かったのにいじめを?
「小学生から中学生になるといろいろ気になりだすでしょう?自分の容姿とか頭の出来とか」
私の疑問を察したようで、すぐに答えてくれた
「まぁ、うん」
「他人の芝生は青く見えると言うように周りの人間がすごく良く見えたりするのよ。そういうときって」
中学生と言えば思春期
大体の人は体つきが女の子は女の子らしく、男の子は男の子らしくなっていく
男女間の区別がはっきりする頃合いだ
彼氏や彼女ができる子、憧れのマドンナのようになる子、そのマドンナに憧れる子、今までは男の子のような女の子だったのに急に胸のサイズや体重を気にしだす子もいる
「そんな時期にただでさえ周りが美人で自分だけが劣っているようなのに一色さんのような美人がいて見なさいよ。女子全員が嫉妬するわ」
確かに
「そのいじめてた子はね、お世辞にも美人とは言えない。それどころか…そうね、異面位が妥当かしら。まあ、そんな子だったのよ」
「…ごめん、その異面って何?」
「ブスより酷い醜さを表す言葉よ。ちなむと一番下は夕日に鬼瓦、よ。嫌いな奴に言ってみたらどうかしら。責任はとらないけど」
「言わないよ…」
流石秀才
悪口の語彙が半端ないね
「いくら仲が良くてもそれ以前に女なのよ。誰かに一度でもブスだと言われれば親友であろうと排除しようとするわ」
「それで、いじめられたと」
そこまで言うと千明は、はぁと一息つき、窓の景色を見た
正面にある大きな木が、先の方が少しずつ赤くなっている
「結構酷くて、トイレの便器の水をかけられたり、お弁当を勝手に捨てられたりしたそうよ」
うわぁ
少女漫画の読みすぎじゃないだろうか
まさかそんなことをしている人が実在しているとは…
「女子も前々から美人すぎる一色さんが気に食わなかったし、男子は男子でいくら憧れていようと女子からの報復が怖くて何もできなかったらしいわ」
誰でもそうだ
いじめを止めて自分がいじめられてしまったら元も子もないし、いじめられている子が気に食わなければ止めるより、そのままいじめる方が良い
「普通なら助けないその中で六年生の時、秋風さんが助けたそうよ」
「へぇ〜」
なんとかっこいい女騎士だろうか
私なら絶対助けない
目をつけられたくないし
「それでもいじめていた子はしばらく続けてたんだけど秋風さんが先生に言って、注意してもらって、何かあればすぐ助けていたらしいわ…だから一色さんにとって秋風さんは特別なのよ。執着してるとも言えるほどにね」
「だからあんなに必死に…」
全く話したことがないのにたくさんの生徒の中から私が美化委員だと特定できるほどにいろんな人に話を聞いていたのだろう
何も情報を得られなくて意気消沈するわけだ
「それで、一色さんにはこんな理由があるから少し特殊なわけだし…」
こちらを向き、微笑む
「無理に変わろうとしなくたっていいんじゃないかしら。あんたの取り繕わず正直にエグいこと言うところ、好きよ。」
「へぇ〜そうなんだぁ〜私のこと好きかぁ…でもエグいこと言うところが好きって…もしかして、マゾなの?」
少しニヤニヤしながら言ってみる
「違うわよ」
急にまるで映画のワンシーンのようなとびっきり素敵な満面の笑みになり、言った
「あんたがエグいこと言うおかげであんたにどぎついこと言っても気を使わなくて済むからよ」
「気使ってくれよ‼︎」